I 哀 傘~あいあいがさ~
神様は意地悪だ。
なにもこんな時に雨なんか降らせなくてもいいのに。
僕はたった今、同級生の女の子に告白して──フラれた。
中学校入学当初からずっとずっと好きだった女の子。
勇気を出して告白したら「ごめんなさい」と走って逃げて行ってしまった。
呆然とたたずむ僕に、無情にも激しい雨が降ってくる。
フラれた上に、これでもかというほどの土砂降り。
なんの仕打ちだ、これ。
ちょっと神様、意地悪すぎませんか?
僕は泣きながら折り畳み傘を広げた。
トボトボと歩いて帰っていると、さらなる悲劇が僕を襲った。
目の前に彼女がいた。
たった今、僕が告白した相手が空を見上げながら、軒下で雨宿りをしている。
まずい。
まず過ぎる。
不幸なことに道は一本道。
回り込めるような道はない。
僕は無視するわけにもいかず、雨宿りをしている彼女に声をかけた。
「あ、あの……」
彼女も僕を見て「あ」と声をあげた。
まさか、いましがたフッた相手と直後に再会するとは思ってなかったのだろう。気まずそうにモジモジしている。
僕もかなり気まずかったけれど、ダメ元で聞いてみた。
「……傘、入りますか?」
彼女は一瞬きょとんとした顔をしたものの、その後コクンと頷いた。
「……うん」
………。
……マジで?
自分で聞いておきながらなんだけど、まさか頷かれるとは思わなかった。
固まっている僕の隣に、タタタと駆け寄って入ってくる彼女。
正直、僕の頭はパニックだ。
なになに?
なんなの?
さっきフッた相手の傘に入るって、それどんな心境?
いろいろパニくっていると、彼女がポツリとつぶやいた。
「あの、さっきはごめんね……」
「え……?」
「いきなり逃げちゃって……」
「う、ううん。いきなりだったもんね。僕の方こそごめん」
「そんなことない、嬉しかった……。初めてだったから。告白されたの」
「僕も初めて。誰かに告白したの」
「そう、なんだ」
顔を赤く染める彼女は、なんだか嬉しそうに見えた。
いや、僕がそう見たかっただけなのかもしれない。
「ごめんね……」
もう一度謝ると、彼女はふるふると首を振り、傘を持つ僕の手に左手を添えた。
「……ありがと」
ひんやりとした空気の中、彼女の温もりが僕の右手を通して伝わってくる。
フラれた直後にこの展開って……。
ああ、神様。
あなたは本当に意地悪だ。
お読みいただきありがとうございました。