永遠に..ガンスロン
「終わったの…」
死なずにすんだ。安堵した真由は、嬉しくて涙を流した。
勝利=猿の死であるが……今の錯乱した真由の頭では、そこまで回らない。
暗かったコクピットに明かりがつき、ガンスロンは通常起動した。
「何とか…勝てたか…」
潤一郎は、ほっと胸をなで下ろした。
真由にきつくあたったが…心配でなかったはずがない。
「賭だったが…やはり、動いたか」
「お祖父様…」
「ロンが…命を捨てて、神を裏切っても、守りたかっのは、真由だからな」
通常起動に戻ったガンスロンを見、
「帰るか…」
潤一郎が力を抜き、真由に謝ろうと、スピーカーにスイッチを入れた。
「きゃあああ!」
その刹那、その真由の悲鳴が、飛行艇内に響いた。
「真由!」
コクピットの辺りから、五つの印が飛び出すと、ガンスロンの前で、一つになり、膨張した。
そして、ガンスロンと同じくらいの大きさになった。
「馬鹿な……」
潤一郎は、絶句した。
巨大な光の玉は、色がつき、形を得た。
その姿は………。
まどかも、絶句した。
「ガンスロン…」
ぼろぼろになったガンスロンの前に、もう一体のガンスロンがいたのだ。
ガンスロンの前に立ちはだかるガンスロンは、口を開いた。
「卑怯な手で、この神聖な戦いに割り込み……その恐るべき力で、勝利した……醜く、卑しい人間よ」
新品の傷一つないガンスロンは、ぼろぼろのガンスロンを睨む。
「我は、神なり!」
ガンスロンの姿をした神は、この世界にいるすべてのものに話し掛ける。
「神!あいつが、この戦いを仕掛けた…張本人」
潤一郎は、飛行艇の中で、わなわなと震えていた。
「卑怯にも、勝ち残ったお前達に…最後の試練を与える」
ガンスロン神の背中にあるミサイルポッドが、開いた。
「自分自身に勝って!それが、最後の試練だ」
百発近いミサイルが、真由の乗るガンスロンに、至近距離から、発射された。
「お祖父様!」
まどかは、端末機を起動して、予備ミサイルで迎撃しょうとしたが、間に合わない。
ミサイルは全弾、ガンスロンに命中した。
凄まじい爆発の華が咲き、ガンスロンの姿が、光で見えなくなった。
こんな状況でも、潤一郎には余裕があった。
「やつが…ガンスロンと同じ装備をしているなら…」
爆発が止んだ後、ガンスロンはまだ、先程と同じ姿を見せた。
「ミサイルでは、ガンスロンを倒せるか!ガンスロンは、もともと人間の軍隊と戦う為に、作られたのだ!こんな兵器が、効くか!」
大笑いを始めた潤一郎の肩を、まどかが突いた。
「なんじゃ?」
気持ち良く笑っていたのに中断され、少し不機嫌になる潤一郎に、まどかは指で、ガンスロン神を指差した。
「げえ!」
ガンスロン神のキャノン砲が、ガンスロンに向いていた。
「回避しろ!」
立ち上がった端末機のキーボードに、まどかは指を走らせた。
ガンスロンの下半身である円盤が回り、上空に飛び上がる。
ガンスロン神のキャノン砲が、火を吹き...ガンスロンがいた辺りを吹き飛ばした。
ガンスロンが逃げたとわかると、同じく飛び上がり、ガンスロン神は目の前に現れた。
「反応が速い!」
潤一郎は、歯軋りした。
「向こうは、ダイレクトですので」
「チッ」
潤一郎が舌打ちする間に、ガンスロン神は2発目を撃った。
「まどか!」
何とか、横に逃げようとした。放たれた光の槍の一発目は、当たらなかった。しかし、次の槍が、ガンスロンの肩についた砲台を貫いた。
「どうせ!使えん」
ガンスロンは海へと、逃げる。
「三発目!来ます!」
「海中に潜れ」
ガンスロンは、ガンスロン神と向き合いながら、後ろから、海の中に潜った。
三発目を、ガンスロン神が発射した瞬間、左右のキャノン砲は爆発した。
「馬鹿目!」
潤一郎は笑った。
水面から、また浮上したガンスロンは、ガンスロン神と対峙する。
「愚かな武器をつくり、この星の資源を身勝手に使い、同じ人間同士で殺し合う。なんて我が儘で、なんて醜い生き物だ。お前達を、この星の支配者にしたのは、間違いだったのだ」
「言いたい放題いいやがってからに!」
潤一郎は、飛行艇内で、壁を叩いた。
「このような兵器まで作る…好戦的で、野蛮な人類よ!お前達に、勝利はない!」
「ふざけるなああ!」
突然、ガンスロンのコクピット内で、真由は計器を叩いて、身を乗り出した。
「さっきから、聞いてたら、言いたい放題いいやがって!」
真由は、画面上のガンスロン神を睨み付けた。
「好戦的!戦い好きい!?今回の戦いは何よ!罪のない生き物を、巨大化して、戦わして!殺しあいをさせるやつが、言うな!」
真由はシートに座り直すと、レバーを握った。
「おじいちゃん!まどかお姉ちゃん!いくわよ!」
「愚かな…人間が、お前達に勝利はあり得ない」
ガンスロン神は、動きを止めた。
「神…」
潤一郎は、ガンスロン神がやろうとしていることが、わかった。
「お前達は…この体に、巨大な力を積んでおる」
ガンスロン神はにやりと、笑った。
「……あいつは、核を使うつもりだ」
「核?」
ガンスロンは、核爆弾を搭載していた。
「さらばだ」
ガンスロン神は、核を発射しょうとした。
しかし、核は発射しない。
「なぜだ?」
戸惑う神に、潤一郎は言った。
「ガンスロンが、核を使う時は…自爆するときだけだ」
「な、何!」
驚く神は、慌てて発射を止める。
「今よ!ガンスロンクラッシャー!」
ガンスロン神に、体当たりを食らわそうと真由がレバーを握り締めた瞬間、真由のいるコクピットが激しく揺れた。
「え?」
コクピットは後ろの部屋を含め、四角い箱になっていた。
ガンスロンは突然、左手で自らの胸を抉ると、コクピットを抜き取り、そっと砂浜に置いた。
「ガンスロン?」
真由は、何が起こったかわからなかった。
(ありがとう。お母さん。ありがとう。僕を助けてくれて…一緒に遊んでくれて、そばにいてくれて、ありがとう)
真由の頭中に、声が響いた。片言の日本語だったが……真由には、それが誰の声かわかった。
「ロン!?」
胸を剥き出しにして、ガンスロンは、核発射…自爆を抑えているガンスロン神に向っていく。
(神よ!あなたの負けです!)
「裏切り者が何を言うか!」
(裏切り者?私は、誰も裏切っていない!私は、勝手に選ばれただけだ)
ガンスロンの右手が、回転する。
(だけど…感謝している。私を選んだことを。私は、お母さんを助けられるんだから)
「犬が、人間をお母さんだと!?」
(愛情と、暖かさをくれた…それだけでいい)
ガンスロンクラッシャーが、ガンスロン神の心臓部に突き刺さった。
(勝負はあった!早くしないと、爆発するぞ)
爆発する前にガンスロン神は巨大な球体になり、五つに別れ、四方に散ろうとした。しかし、玉になった瞬間、ガンスロンの左手にとらえられた。
(あなたを逃がさない!)
「何をする気だ!」
(あなたはまた、このような戦いをするつもりのようだが……私が勝利者だ)
「認めるか!」
(神が、約束を破るのか?)
ガンスロンは、つかまえた玉を額に持っていく。
そこには、ロンの脳ミソがあるのだ。
光の玉は、ロンの脳ミソに吸い込まれていく。
(私が、勝利者だ。しかし、今の私は、機械。私の子孫を作ることはできない。種の繁栄は、あり得ない。よって…)
ガンスロンは、海岸から遠く離れると、円盤を止め、ホバーリングをやめた。
海面に落ち、沈んでいく。
(よって、無効。この戦いに意味はない)
ガンスロンの巨体が沈んでいく。
(神よ……。僕とともに、永遠に眠ろう。海の底で…)
「ガンスロンが沈んでいく…」
まどかは、飛行艇内で立ち上がった。
「仕方あるまい。これが、一番いいんじゃよ」
潤一郎は、ガンスロンに敬礼した。
「あたし達の結晶が……奇跡のロボットが……」
落胆するまどかの言葉に、潤一郎は首を横に振った。
「わしらの力じゃない。ロンの体が、なければ…ガンスロンは完成しなかった…」
潤一郎は、もう一度敬礼し、
「ロン…。ありがとう」
涙を流しながら、ガンスロンの全身が沈み終わるまで、戦士を見送った。
「ロン…」
ロンの言葉を聞き、真由は泣いていた。
ガンスロンに乗るまで、ロンのことを忘れていた己を、恥じた。
「ごめんね……ロン…………そして、ありがとう」
真由も立ち上がり、ガンスロンが沈んでいく方に頭を下げた。
あれから…数ヶ月がたった。
監獄のようなコクピットから、解放され、真由は学校へと通う…普通の暮らしに戻っていた。
巨大生物によって、破壊された世界はまだ復興していないが、人々に笑顔は戻った。
潤一郎は、またこういう戦いがあるかもしれないと警告し、ガンスロンMark2の建設を呼び掛け、世界中から金を巻き上げようとしていた。
まどかも、潤一郎に従っていた。
そして、今回は貴重なシミュレーションができたと、データをまとめる日々に追われていた。
学校帰り、真由は自転車の急ブレーキをかけた。
道端に捨てられている子犬を発見したのだ。
真由は、自転車を降り、箱の中から震える子犬を抱きあげると、思わずぎゅっと抱き締めた。
「いっしょに帰ろうか?」
真由はその犬を飼うことを、速攻で決めた。
「今日から、あたしが君のママだよ」
子犬は、腕の中でもがくと、真由に顔を近付け、匂いを嗅いだ後に、頬を舐めた。
「よし!お前は、今日からロンだ!光栄だぞ!世界を救った犬の名だ!」
「ワン!」
嬉しそうに吠えると、思い切り尻尾を振るロンに、真由は微笑んだ。
「嬉しいか?お前も!」
真由は、子犬をもう一度抱き締めた。
END。