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敗北は死の香り

鷹の死骸は、地中海に沈んでいった。


それを見送りながら、ガンスロンはそのまま…エジプトを目指した。


ガンスロンの後頭部から、飛行艇に移った潤一郎は、すぐに補給部隊に連絡を取った。


ミサイルは殆んど撃ち尽くし、あと数発の予備弾しかなかった。


まどかは端末機と、戦いが終わってから、ずっと格闘していた。


「どうじゃ?」


潤一郎は、ディスプレイを横から覗いた。


まどかはため息をつき、マウスから手を離し、


「やはり…すべてのシステムを、ここに移行するのは、無理のようね」


ふうと息をついた。


「ガンスロンのコクピットに、あたし達が入るわけにいかないし……」


「ガンスロンは、真由しか搭乗できない。本当は、真由がすべて操縦しなければならないのだが…」


潤一郎は、ガンスロン内で蹲っているだろう真由のことを心配していた。


「陸地に上がってから、一度…ガンスロンのコントロールシステムを組み替えてみます」


まどかは、端末機からの操作を諦めた。


「……そうじゃな…それがいい。次は、猿だ。真由が、戦えるとは思わない」


人の形に似た猿を、真由が撃てるはずはない。


「だが……印は、四つ集まった。あと一つ」


潤一郎は飛行艇から、ガンスロンを見上げながら、


「ここで、負けるわけにはいかない」



ガンスロンはゆっくりと、下半身を回転させ、ホバーリングシステムで、海面から、地上へと上がった。


その瞬間、巨大なブーメランが飛んできて、ガンスロンの胸にぶつかった。


「きゃあ!」


コクピット内で、欝に入っていた真由は、今までにない程の衝撃を感じ、シートから転げ落ちた。


コクピットは、ガンスロンの心臓の部分にあったからだ。


どこでつくったのか…ブーメランは、巨大な木でできていた。


ブーメランはガンスロンに当たると、回転しながら、どこからか現れた猿に戻っていった。


「また…奇襲か」


潤一郎は、少し離れた海岸線上に現れた…巨大猿を睨んだ。


猿はなんと、海中に潜んでいたのだ。


しかし、それより、潤一郎が驚いたのは、猿が武器を持っていたということだ。


「知能がある……敵か」


猿はまた、ブーメランを投げて来た。


「舐めるな!」


まどかの眼鏡が光り、キーボードに指を走らせた。


「ガンスロンカッター!!」


ガンスロンは上昇すると、回転する円盤状の下半身から、無数の刃が飛び出して、電動ノコギリのようになると、ブーメランを真っ二つに斬り裂いた。


「…両手は動かない。ミサイルは数少ない…」


おもちゃを破壊されて、頭に来た猿は、目には止まらない素早さで、ガンスロンの後ろへと移動した。


「せめて…ミサイルがもっとあれば…」


ガンスロンは回転し、猿に体を向けた。


猿は、砂浜を足でかくと、そこから鋼鉄の棒を手にした。


「どこから、調達したんだ?」


潤一郎は苦々しく、鉄棒を睨んだ。


猿は、鉄棒を引きずりながら近づき、上半身を捻ると、鉄棒をガンスロン向けて、切り上げるように振るった。


「こんな攻撃!」


ガンスロンは、下部の大型バーニアが火を吹き、一気に上昇した。


猿の放った鉄棒は、ガンスロンの下部バーニアに、少しかすった。


「両手さえ…使えたら…」


まどかは、ミサイルを発射しょうとしたが、対象物が動き回わっていることと、キャノンの照準が合わせられないことに、苛立った。


(追尾ミサイルがない…)


しかし、キャノンが当たらない今、ミサイルは最後の武器となっていた。


猿は下で、鉄棒を振り回し、上空のガンスロンを威嚇していた。


「チッ」


まどかは舌打ちすると、画面をかえ、ガンスロン内部を映した。


そして、まだ蹲っている真由に言った。


「真由ちゃん…」 


まどかは、叫んだ。


「戦って!」


「真由…」


コクピット内でシートには座っているが、放心状態になっている真由を見て、潤一郎はまどかの肩を掴んだ。


「まどか…。もういい」


潤一郎は、無意識に少し強く掴んでいた。


「お、お祖父様…」


「ガンスロンの活動を休止させろ」


「え…」


「システムダウンだ…」


潤一郎は横合いから、キーボードに手を伸ばした。


「ここは、戦場だ。戦いを放棄した者に、生きる権利はない」


ガンスロンは、空中から降下すると、砂地に着地した。


あらゆる動力が止まり、円盤も回転を止めた。


直接地面についたガンスロンは、鉄棒を振り回す猿の鉄棒を、無抵抗で受けとめた。


コクピットに衝撃が走り、シートから真由は、転がり落ちた。


猿は奇声を発しながら、同じところを連打する。


まるで、そこに真由…四つの印があることを、わかっているかのように。


「お祖父様!」


再び起動させようとするまどかの手を、潤一郎が止めた。


「あれくらいでは、ガンスロンの装甲は破れん!しかし……」


コクピットは揺れ、装甲を叩く音はダイレクトに、真由に伝わった。


密室で、響き渡る殴打音は、だんだんと恐怖をかきたてていく。


「きゃああああ!」


真由の絶叫が、飛行艇内のスピーカーから聞こえてきた。


「おじいちゃん!」


真由の泣き声を、潤一郎はスピーカーを消して、聞こえなくした。


「お祖父様!真由ちゃんが!」


まどかは、やはりガンスロンを起動させようとしたが、潤一郎は端末機を奪い取った。


「お祖父様!?」


「これで、いいのだよ…これで」


潤一郎は、飛行艇から攻撃を受け続けるガンスロンを見つめた。


「きゃああ!いやああ!おじいちゃん!まどかお姉ちゃん」


活動を休止したガンスロンは、すべての明かりが消え、真っ暗な闇の中で、真由は泣き崩れた。


「あ、あたしは!無理やり…ここに押し込まれて…無理やり…戦わされて…あたしは……戦いたくないのに……」


真由の頬を涙が伝い、コクピットに落ちた。



「キィィ――!」


興奮した声を上げ、鉄棒を振り上げた猿の腕は、突然何かに掴まれた。


三本の指は、挟み…捻り……猿の右腕をへし折った。



「え!?ガンスロンが……」


まどかは、飛行艇の中で、言葉を失った。


システムダウンしている。コントローラである端末機も、ついていない。


しかし、ガンスロンは動いているのだ。


右手を折られ、痛みで絶叫する猿を、ガンスロンは逃がさない。


右手のストレートが、顔面に決まる。


「ククク…」


潤一郎は、含み笑いを漏らした。


ガンスロンは右腕を引くと、またストレートを打ち込む。


それを何度も繰り返す度に、スピードがついていく。


ストームパンチ。


打つたびに、速くなっていく。


折れた左腕を掴まれている為、猿は逃げれない。


ガンスロンの右手の先が、回転しだした。


ガンスロンクラッシャーだ。


ドリルのようになった腕が、猿の顔面に突き刺さる。


「当たり前じゃろが!主人を守らない愛犬がいるか!」


ガンスロンは、突き刺さった右手を抜くと、左手で猿の首を掴み、前方に投げた。


海岸に砂埃が上がる。


ガンスロンの二本のキャノン砲が、猿に向く。


左右のキャノン砲が火をふき、猿の体を光の槍が貫いた。


キャノン砲は、さらに火をふいた。


その瞬間、ガンスロンキャノンは、爆発した。


「まあ、いい……戦いは終わったのだから…」



猿は、2発目を受ける前に、死んでいた。


印が、飛んできて…真由の中に入った。


それを見て、真由は戦いが終わったことを知った。



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