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出撃!

生駒駅から、数キロ北に離れた山間の一部が崩れ、突然…巨大ロボが出現した。


驚く奈良市民を完全無視で、崩れた土砂の処理もせずに、巨大ロボは空中に浮かび上がった。


「真由!コブラが通って破壊した近鉄線に沿って、やつらに接近するぞ」


潤一郎の言葉に、真由は呆れた。


「あたし…何もしてないんだけど…」


巨大ロボ…ガンスロンは、勝手に山間から現れ、勝手に、空中に浮かび、民家の上を、飛び越えていく。


ぺちゃんこになった生駒駅の上に、ホバーリング状態で止まったガンスロン。


「格納庫では動けないから…戦う前に、ここで説明するぞ」


潤一郎は、ガンスロンの説明をしだす。


「全長30メートル。世界に誇る零戦に敬意を表して…」 


話し続けようとする潤一郎を、まどかが制し、


「そんな説明はいりません!」


眼鏡を人差し指であげると、真由に目を向けた。


「ガンスロンに、足はありません。上半身から下は、ホバークラフトの原理で、常に回転する円盤状の推進システムで浮かんでいます」


そうガンスロンに足はなく、つねに浮かんでいる。緊急時に、キャタピラを出すことは可能だが、民家を破壊しない為、つねに空中に浮かんでいるのだ。


「円盤状の表面は、太陽電池になっており、つねにエネルギーを供給し…さらに、上半身との付け根の辺りには、小型の核融合炉を搭載してるわ」


「か、核融合炉!」


真由は思わず、声を荒げた。


「だから、付け根には気を付けて!」


「ひぇ〜」


真由は頭を抱えた。


「次は、武装ね。背中の部分にミサイルポットが、全部で四つ!約百発が積まれているわ。これは、補充できるから。そして、肩を付けられた巨大な砲台が2つ。これが、ガンスロン最大の武器よ。別名…ガンスロンキャノンよ」


「ガンスロンキャノンは、各2発しか撃てない…」


まどかの言葉を、潤一郎が続けた。


「現在世界中で、一番の!最大出力のレザー光線が撃てるようにした!しかしなあ!」


潤一郎は笑い、頭をかいた。


「それを放つ為の砲台が、耐えられないのだ。破壊力を重視した為に、三発撃つと、砲台が破裂する!」


「そのまま直接浴びせる…拡散タイプも考案したんだけど、精度と攻撃距離が、違い過ぎるので、却下にしたわ。後は…」


説明を続けようとするまどかを押し退けて、潤一郎は画面一杯に顔を近付けた。


「ガンスロンの神髄は、そんな飛び道具ではない!近代の精密機械で、ありながら、接近戦を前提にして、作られているのだ!」


潤一郎は唾を飛ばしながら、


「戦車が…ジェット機が!空母が!格闘をするか!この世にある近代兵器は、あくまでも、ミサイルや銃による遠距離攻撃が主体だ!だがな!そんな戦いに、男のロマンを感じるかあああ!」


潤一郎の興奮は、ピークに達する。


「真由!コクピットにある二本のレバーは、ガンスロンの両腕を動かすのに使う!まず、左手は、対象物に近づくと、三本の指で、握り潰す!そして、捻るとプログラムされている!」


「に、握り潰す!」


「各レバーには、2つのボタンがあるが…左の上は、手首の周りにガトリング砲が付けられていて、至近距離から、ぶっ放てる!下を押すと、毒針が飛び出す!」


「今回は…敵は生物だから、有効です」


まどかは頷いた。


「そして…右手は、ガンスロンの必殺の右いい!」


潤一郎は興奮を、爆発させたが、少し咳払いをして心を落ち着かせた。


「これに関しては、戦闘中に教えよう!ガンスロンクラッシャー…名前だけ覚えておけ!」


潤一郎はにんまりと、含み笑いをもらした。


それが、あまりにも気持ち悪くって、真由はコクピット内で、悪寒が走った。


「基本的に、お前は…レバーだけを握ってればいい。ミサイルなどは、こちらで撃ち…コンピューターが補足する」


「よ〜するに、あたしはいらないんでしょ!」


真由は、シートの背もたれを倒した。


「どうして〜あたしは、こんなところに、座らされているのよ」


ふてくされる孫に、潤一郎は深くため息をつくと、


おもむろに話し出した。


「このガンスロンは…お前じゃないと駄目なんじゃ…。覚えておるか?お前が小さい頃に、飼っていたロンのことを…」


真由は背もたれをさらに倒し、天井を見上げた。


「そりゃ〜あ…覚えてるわよ。あたしが、死にかけてたのを助けて、子犬から育てたんだから………だけど!いきなりいなくなって」


しゅんとしだした真由は、体を起き上がらせて、潤一郎を睨んだ。


「どうして、そんなことを思い出させるのよ!」


潤一郎は、画面の中で、真剣な表情になった。


「大事なことじゃよ。ロンがいなければ、我々はこの戦いが何なのか知らずに、知性を奪われるところ…だったのだからな」


潤一郎な目が、遠いところを見ていた。


過去の…過ぎ去った映像を。


「神に選ばれた…五体の生き物の内、哺乳類の代表に選ばれたのは、最初はロンだったからな」


「え?」


思いも寄らない潤一郎の言葉に、真由は驚いた。


「本当じゃよ。もう七年前になるかの。生駒の山上で、巨大な生物が発見されたと…噂になったが、すぐに誤報と、訂正されたことがあったじゃろ?」


「う…うん…」


真由には記憶がない。七年前なら、小学校一年くらいだ。


「それは、誤報じゃない。生駒の遊園地内で、ロンは倒れておったのじゃよ。神を裏切り…我々に計画を伝える為にな」


まどかが、話を続けた。


「我々に計画を告げた後…ロンは死んだわ。巨大化した彼の体は、肉体が強化されていた。私達は、ロンの強化細胞を使い…ガンスロンでネックだった…稼働系の接合部や、関節にあたる部分に、ロンの筋肉を使用したの。それだけじゃないわ」


「ガンスロンの頭脳には、ロンの脳が埋め込まれている」


「え」


真由は目を丸くした。


「ロンがなぜ…神を裏切ったと思う!ロンは、お前を守る為!お前の為に、裏切ったのだ!」


潤一郎は、真由を指差した。


「ロンの肉体をプラスしたガンスロンは、いわば!ロンの分身!お前以外では、動かせない!そして!」


潤一郎はさらに、指先を近付けた。


「この戦いに参加するには、人間が直接…印を得なければならない。お前は印を得、ガンスロンと一体化して戦いに参加し、五体の化け物を倒さなければならない!」


「ええ―――っ!」


「だから、お前はこのガンスロンの中から、戦いが終わるまで、出ることはできん!」


「え、ええ―――――」


コクピット内で、絶叫する真由。


しかし、まどかは通信のボリュームを下げた。


潤一郎は、真由の感情を無視して、言葉を続ける。


「ロンが持っていた印は、効力を失ったが、ロンの肉体を埋め込んでいるガンスロンは、他の印を奪うことができる!」


コクピット内の画面が変わり、平城京跡から、奈良公園へと移動していく…二匹の巨大生物が映る。


「こいつらは、互いに持つ印を奪い合っている!ガンスロンは、こいつらが潰し合い…消耗した時に、奇襲をかけ、最低でもどちらかの印を奪う!それが…今回の作戦だ」


画面が、ガンスロンのいるところから、二匹の化け物までの進路を示す。


「途中までは、破壊された線路を使う!その後は、死角から、一気に奇襲をかける!」


「お、おじいちゃん!」


真由の叫びも虚しく…下半身である円盤が、回転し…さらに、肩胛骨辺りに付けられたジェットエンジンが、火を放つ。


「ガンスロン!出陣!」


一瞬にして、一駅分移動して、そのまま信じられないスピードで、ガンスロンは線路上を駆け抜けていく。


「七年前…始まるはずだったバトル!それが、ロンによって、中断された!その時間が、人類に反撃の準備をさせた!神のゲームに!割り込んで、破壊してやるわあああ!」


深緑一色の全身に、2つの肩当てに、日の丸。


零戦に敬意を表したカラーのガンスロンは、一気に平城京に到達した。


「……」


あまりの加速に、気を失った真由は、シートに流れた電流で、無理やり目を覚まされた。


「寝てる場合か!」


潤一郎の声に目覚め、はっとして、画面を見ると、

数キロ先で戦う二匹の巨大生物が、モニター越しに見えた。


「印を持たないガンスロンのミサイルは、やつらには届かない!機を見て、弱ってるやつから、印を奪うぞ」



コブラは巻き付き、カブトムシを絞め殺そうとしているが、なかなか巻き付くことができない。


逆に、カブトムシの三本の角が、コブラの体を切り付けていた。


「日本のカブトムシじゃないわね」


画面に映るカブトムシを見て、真由は呟いた。


潤一郎は、まどかとともに、基地内でいらいらしていた。


「早くしろ…」


何とかコブラが、カブトムシに巻き付き、締め付けようとするが、カブトムシの表面は固い。


とぐろを巻きながら、二匹は膠着状態になる。


「今が…好機!」


ガンスロンは、真由を乗せて、一気に線路から、市街地を越え、二匹に近づいていく。


「まどか!ミサイルを数発!煙幕に使うぞ!」


「はい!」


どうやら、コントロールシステムは…向こうにあるらしい。


真由は突然の加速で、シートにめり込んだ。


ガンスロンのミサイルポットが開き、数発のミサイルが、二匹を囲むように、地面で爆発し、砂埃が上がる。


逃げ惑う鹿達。


「天然記念物だろが…」


真由は、身動きが取れない。


画面の端に、東大寺が見えた。


「印は、どこだ?」


潤一郎の言葉に、まどかはマウスを走らせた。


ガンスロンの額が光り、砂埃の中、スキャンする。


「コブラの後頭部に、反応あり」


「真由!左手を突き出せ!」


「えええ!」


「まどか!ミサイルの音に、やつらはパニックになっている!もっと撃て!」


コブラとカブトムシは、パニックになり、変な風に絡まっていく。


その周りを、鹿が逃げ回っていた。


真由が、レバーを適当に前に押し出すと、ガンスロンの左手はコブラの後頭部を掴み、捻った。


[ぐぎぁぁ――!]


コブラは、妙な声を上げた。


「レバーを引け!」


潤一郎の指示通り、レバーを引くと、ガンスロンの左手は、三本の鋼鉄の爪が、コブラの後頭部の肉を引き契った。


あまりの痛みに、コブラは暴れ、絡み付いていた体が外れ…その反動で飛んできた尻尾が、ガンスロンの左腕を強打した。


「ガンスロン!左腕が、今の衝撃で、配線の何本かが切れ…動かすことができません!」


まどかの驚いた声に、


「たった…一撃でか?」


潤一郎は、親指の爪を噛みしめた。


「もう一度…耐久性を計算しなおさなければ…ならないな」


「ガンスロン!一度、後方に下がります」


まどかの操作で、ガンスロンは空中を滑るように、二匹と距離を取った。


「しかし…」


潤一郎は歓喜の声を上げた。


「これで…真の力で戦える!」


ガンスロンの動かなくなった左手の先から、コブラの肉がこぼれ落ち、その中から光る玉が現れると、ガンスロンの心臓部分の装甲の中にある…コクピット内に吸い込まれていった。


そして、先程の移動で、シートに押しつけられていた真由の胸の中に、玉は入った。


「な、なんか…入った!」


気持ち悪そうに、顔を歪めた真由に、潤一郎は言った。


「これで、我々も、この戦いに参加する印が、手に入った!」


潤一郎は、身を仰け反らし、大笑いすると、


「これで、ガンスロンの体に直接、装備されているものは、ガンスロンの固有の能力と認識され……効くのじゃよ!ミサイルがな!」


まどかに向かって、指令を出した。


「印を失った…脱落者に!プレゼントじゃ!」


まどかの前にあるディスプレイに、ガンスロンの全身が映り、マウスで反転させると、ミサイルポットをクィックした。


「発射します!」


ガンスロンの背中から、発射されたミサイルは、山なりになり、上空から、のたうち回るコブラに向けて、雨嵐と降り注いだ。


奈良公園内に、爆風が吹き荒れ、鹿が逃げる。


ミサイルで起こった砂埃が晴れると、コブラは生き絶えていた。


「やったの…」


真由が気を緩めた瞬間、


「避けろ!」


潤一郎が叫んだ。


「え?」


真由は気付かなかったが、まどかの咄嗟の判断で、ガンスロンは横に滑った。


そのすぐそばを、角を突き出して、飛んできたカブトムシが、通り過ぎていく。


カブトムシは勢い余って、草が枯れた若草山の中腹に、突き刺さった。


羽を広げ、何とか角を山から抜こうと、もがいているカブトムシを見て、潤一郎は嬉しそうに、笑った。


「やはり…虫だな…。自らの弱点をさらしている」


羽根を出している為、普段なら固い装甲で守られている柔らかい部分が、丸見えだった。


「まどか!あそこに、残りのミサイルを打ち込め!」


「了解!」


ガンスロンは再びミサイルを発射し、カブトムシの下半身に直撃した。


爆発する体。


しかし、カブトムシはミサイルの爆発力で、逆に突き刺さっていた角が取れた。


下半身のほとんどが、吹き飛びながらも、カブトムシは反転すると、ガンスロンに向ってくる。


「さすが、昆虫!鈍感じゃわい!」


潤一郎は感心したように、何度も頷いた。


「お、おじいちゃん!どうするのよ!」


真由はモニター越しに、近づいてくる三本の角を見て、叫んだ。


「心配するな!右のレバーを持ち、一番上のボタンを押せ!」


「う、うん!」


真由は恐怖の中、言われたように、ボタンを押した。


すると、右手が回り出した。


「日本人が世界に誇れる、最大の技術は、穴堀りだ!青函トンネル等!日本人は、小さな国土を広く!少ない鉱石を採るために、穴を掘り続けた!」


真由は、右手を一度引き、力をためた。


「そんな日本の技術が!魂が!ただでかいだけの昆虫風情に、負けるか!」


真由の前のモニターに、打ち込むところが、表示された。


「真由!たたき込め!ガンスロンクラッシャーを!」


「なんだか…わからないけどお…!いけえ!」


真由は、右レバーを前に突き出した。


突っ込んでくるカブトムシの三本の角の間に、ドリルのようになり、回転する右腕を差し込んだ。


さらに、真由はレバーを前に押し込み、さらに無意識で、下のボタンを押した。


すると、右腕は伸び、回転力が増し、高圧電流を放った。


カブトムシの装甲を破り、貫いた右手から、カブトムシの全身に、電流が走った。


数分後、脳を貫かれ…カブトムシは活動を止めた。


真由が右レバーを引くと、ガンスロンは右腕を、引っ抜き、カブトムシから離れた。


巨大な体が、地面に落ち…カブトムシは反転すると、腹を見せたまま…足を動かし後、ぴくりとも動かなくなった。


やがて、カブトムシの中から、印が飛び出して、先程と同じく、コクピット内の真由の胸の中に入った。


潤一郎はふうと、ため息をつき…何げに額に触ると、汗でびっしょりだったことに驚きながらも、拳を握り締めた。


「何にしても…あと三匹…」



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