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花も恥じらう乙女なのに...

「無駄じゃ…」


湯飲みに入った昆布茶を飲みながら、白衣を着た老人が、にやりと笑った。


「お祖父様…何とか、こちらに向かうみたいですよ」


老人の前で、パソコンにデータを打ち込みながら、眼鏡をかけたストレートヘアの女が、口を開いた。

眼鏡の表面に、ディスプレイの文字が反射して、映っていた。その奥で、忙しく動く眼球。



老人は、昆布茶を卓袱台に置くと、今度は煎餅を手に取った。


「やつらに…我々の攻撃が届くことはない」


老人は、煎餅を口で割ると、鼻を鳴らした。


「やつらに、ダメージを与えられるのは…選ばれた化け物同士だけだ」


「コブラは…近鉄線の奈良線の線路に沿って、移動しているようです」


女の言葉に、老人は食べかすを飛ばしながら、笑った。


「どうせ…線路の砂利道の感覚が、気に入ったんじゃろ」


「こちらに、近づいてきますが…如何いたしますか?」


女は、キーボードに走る手を止め、老人に振り返った。


「真由は、どこだ?」


「今は…」


女は画面を変え、マウスを操作し、クリックした。


「麓の神社前に、自転車を止めたようです」



「フン」


老人は再び鼻を鳴らすと、白衣の中から懐中時計を取り出した。


「あと…15分くらいか…。時間はある」


「こちらの準備は、整っています」


「有無」


老人は立ち上がり、畳六畳程の和室の横にある障子を開いた。


すると、そこには巨大な強化ガラスが一面に張り巡らせており…その向こうに、巨大な建造物の横顔があった。


「戦後…六十年。やっと日の目を見よるわ。大日本帝国、最後の兵器が…」


老人は、感慨深気に頷き…敬礼した。


「守口博士」


反対側の障子が開き、軍服の男が入ってきた。


「博士ではない!」


守口は振り返り、一喝した。


「大佐と呼べ!」


その言葉に、男ははっとし、敬礼した。


「失礼しました!守口大佐」


守口は、深く頷いた。


守口潤一郎。元帝国陸軍の大佐であった。





「大体…おかしいのよねえ!」


神社の境内を突っ切って、真由は生駒の山頂へと、通じる道を、走っていた。


途中にある…市民の森。その中にあるアスレチックランドで、祖父が怪我をしたというのだ。


「普通…救急車で、病院に連れていかれるでしょが」


真由はなぜか…迎えに来いと言われたのだ。


何でも化け物パニックで、救急車が出尽くしていて、そこまで行けないらしいのだ。


「まさか…自転車に乗せて、病院って…わけじゃないわよね」


市民の森までは、上がりも急でなくて、比較的なだらかとはいえ…山は山だ。入り口近くに来る頃には、息切れしていた。





「ターゲット、公園内に、侵入。ゲートまで、三メートル」


市民の森と言いながら、大したものはない。


真由は、入り口近くにある公園に入り、アスレチックランドを目指す。


「三メートル…二メートル…」


真由は、そんなカウントダウンには気付かずに、歩き続けた。


「ターゲット!入りました!」


女の声に、潤一郎は頷き、片手を上げた。


「歓迎してやれ!」






「え?」


突然、公園の真ん中に穴が開き、落とし穴のようになって…真由は落ちた。


しかし、何かにぶつかる衝撃はなく、空気の布団のようなものに包まれながら、何もない空間を滑り続けた。


あとで知るのだが、それは筒のようなものになっており……数分後、真由は筒からほり出され、ふわふわのクッションの上に落ちた。痛みはないが、スピードに酔った。目が回り、気を失った真由は、直ちに…屈強な男達に抱きかかえられて、どこへ運ばれた。



次に、目を覚ました時は、謎の計器が並ぶ…コクピット内に座っていた。


「ここは…どこ?」


真由は、訳がわからない計器とボタン…そして、目の前に突き出している二本のアームに、囲まれていた。


「おはよう…真由」


突然、祖父の声がコクピット内に響き渡り、真由は耳を塞いだ。


「おじいちゃん?」


すると、計器の上…天井までが巨大なスクリーンになり、潤一郎のどアップが、圧迫感を持って、真由の目の前に広がった。


思わず、仰け反る孫の反応に、少し気を悪くしながらも、画面内の潤一郎は、話し続けた。


「喜べ!お前は、選ばれたのだ」


潤一郎の言葉の意味がわからないが、一旦無視をして…真由は心配そうにきいた。


「足は大丈夫なの?」


「足?」


潤一郎は眉を寄せたが…すぐに足を見せ、笑って見せた。


「怪我なんかしておらんが…」


その言葉に、唖然となった真由は…一瞬で理解した。


「また…あたしを騙して!今度は、何の実験なのよ!」


「実験とは失礼な!お前の場合は、体験させてやっただけだ。安全なのを選んで…。しかし…」


潤一郎は、画面上で視線を落とした。


「今回は…危ないかも…」


最後は、ぼそぼそと呟くように言った潤一郎の言葉を、真由は聞き逃さなかった。


「お、おじいちゃん!!」


「ヒイ」 


孫の鬼のような形相に、一瞬たじろぐ潤一郎。




「ターゲット。生駒を下りおり…奈良盆地に侵入!」


女の報告に、我に返った潤一郎は、白衣のポケットから懐中時計を取出し、


「もうすぐだな…」


フウと息を吐き出した。


「伊勢方面から、侵入したカブトムシは…太平洋に駐留していたアメリカ軍の空母を破壊した後、真っすぐに作戦ポイントに向っています」


「来たか…」


潤一郎は、懐中時計を握り締めた。


「カブトムシは…現代、伊賀上野上空を通過中!」 


「急がないといかん」


突然、潤一郎の映っている画面が小さくなり、画面が三分割になった。残り2つの画面に、コブラと、接近してきているカブトムシの影が映っていた。


「何をさせる気なのよ!」


狭いコクピット内で、じたばたしだす真由に、潤一郎は慌てた。


「やめろ!ここで暴れるな!」


「お祖父ちゃん!」


真由は、画面に顔を近付け、睨み付けた。


「ここから出して!出しなさいよ!」


「それは、無理だ!」


あっさりとこたえた潤一郎に、真由はキレた。


「はあ〜?」


潤一郎は、できるだけ孫の顔を見ないようにして、恐るべき事実を口にした。


「お前は、すべてが終わるまで、ここからでることはできない」


「はあ〜?」


「心配するな!後ろの部屋には、風呂とトイレ…ちゃんとリクライニングルームも用意している。勿論、着替えもお前の部屋から、持ってきた」


「は、はあ?」


「椅子の右側にあるボタンを押せ!」


と言われたが、真由が押す前に、突然椅子が後方にスライドし、コクピットから出されると、勝手にシートが倒れた。


真由は、後方に下がる勢いと、シートが倒れたことにより、後転するかのように一回転して、後ろの部屋に転がり込んだ。


「く、首が…」


軽く首を捻った真由は何とか体勢を整えると、2畳くらいしかない部屋を見回した。


端には、折り畳んだ布団と、簡易クローゼットがあり、着替えと下着が、無造作に置かれていた。


真由は慌てて、服をチェックしたが、学生服と……下着も白しかない。


「まったくけしからん!」


真由が、服をチェックしていると、潤一郎の声がコクピットから、聞こえてきた。


「中学生のくせに…こんな下着!」


慌ててコクピット内に、這い戻った真由の目に、画面の中で自分のパンツを指で伸ばしている潤一郎の姿が飛び込んできた。


「きゃあああー!」


絶叫する真由の画面の向こうには、籠に入れられた自分の下着と、衣服たちが大量に映し出されていた。


「学生は、普段は学生服だけで十分じゃ!わしらの時代はな〜」


「いつの時代よ!」


真由は画面に顔を近付け、潤一郎に叫んだ。


「あたしのパンツから、手を離せ!あたしの服に触るな!」


「…」


孫に睨まれ、仕方なく潤一郎は、パンツを籠に入れると、画面の向こうへ押しやった。


「まあ~わかったと思うが…。一応生活はできる」


向こうの生活空間にいたシートが戻ってきて、画面にかじりついていた真由のお尻を強打した。


「痛!」


思わず飛び上がり、そのまま…真由はシートの上に、倒れこんだ。


「が、学校はいけるんでしょうねえ!」


お尻を押さえながら、真由は潤一郎を睨んだ。


「心配するな。休学届けを出しておいたわ」


平然と言ってのける潤一郎の映る画面に、真由はまた顔を近付けた。


「はあ〜!義務教育に、休学届けなんて出せるのか!」


「心配するなと言ってるだろ…。社会の為、この世界を守る為じゃ!喜んで、休みを特別にくれたぞ!」


「し、社会…世界の為って…」


「お祖父様…。ターゲット同士が遭遇しました」


突然、画面に現れた女に、真由はぎょっとなった。


「まどかお姉ちゃん!」


親戚の中…いや、日本でも1、2を争う秀才で、全国模試はつねに上位。あまりに天才過ぎて…東大もレベルが低いと感じ、合格してもいかなかったという…変わり者でもある。つねに出す論文が、学会を震え上がらせる…狂乱の科学者ともいわれている。


最後は、物凄い兵器を開発したとかで、世界にメンチを切って大揉めに揉めて、それから姿を消していた…まどかが画面の向こうにいたのだ。 


「お久しぶりね。真由ちゃん」


眼鏡を人差し指であげると、まどかは微笑んだ。


「状況は、どうなっておる?」


潤一郎の言葉に、まどかがこたえた。


「生駒から、線路伝いに東へと向かったコブラは、西大寺駅向こうの平城京跡で、カブトムシと遭遇!只今、バトルに入った模様です」


まどかの眼鏡が、妖しく光った。


「そうか…」


潤一郎は、画面向こうで卓袱台のそばから立ち上がり、


「こちらも、用意するぞ!監視衛星で、逐一やつらの動きを報告するのじゃ!」


潤一郎は、まどかを見て、


「帝国陸軍所属…銃刀機神!別名!ガンスロン発進準備じゃ」


「はい」


まどかは頷いた。







「きゃああああ!」


人々の悲鳴が上がった。


何とか、避難勧告は出していたが、まさか巨大生物が、襲ってくるとは思わなかった。


それも2匹。


平城京跡に、カブトムシを誘き寄せる為に置かれた大量の樹液と、一定の信号に導かれ、予定通りに来たカブトムシ。


そして、それと戦う為に、生駒を越えて、やってきたコブラ。


五十メートルをこえる巨体が、奈良の中心地近くで、激突した。


「何もないとは…いえ…」


周囲に配置された自衛隊は、ただ市民を避難させるしかない。


カブトムシは、平城京に着地する寸前…そばにあった百貨店を破壊し、立体駐車場を、ぺちゃんこにした。


「攻撃しますか?」


隊員の言葉に、隊長は苦虫を噛み潰したような顔になり、


「我々の攻撃は…玉を無駄に使うだけだ」


悔しそうに、一応装備した戦車の表面を叩いた。


隊長の目の前で、カブトムシとコブラの死闘が始まった。


毒霧を放つコブラに向かって、カブトムシは突進した。


しかし、コブラの体はあまりにも細く、カブトムシの角を避けると、カブトムシの表面に、噛み付こうとした。凹凸のないカブトムシの表面に、噛み付くにはコブラの顎の大きさが、足りなかった。


普通のカブトムシと、蛇の対比ではなく…どちらも五十メートル以上あるのだ。


全長百メートルはあるコブラ。その半分の大きさがある…カブトムシ。


なかなかに手強い。


コブラは、口を離すと、尻尾を叩き込んだ。



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