〜他が為に〜
人類は神から、見捨てられた。
新たな地球の支配者を決める為、神は、ゲームを始めた。
最後に生き残った…生物に知性を与えると。
魚類からは、鮫。
両生類・爬虫類からは、蛇。
昆虫類からは、カブトムシ。
鳥類からは、鷹が。
そして、哺乳類からは、犬が選ばれ…各代表者が、決められた。
勝ち残ったものが、知性を与えられる。
勝者が決まった瞬間、人の脳は退化し、知性を剥奪される。
それは、人の知らないところで始まりはずだった。
しかし、犬の裏切りにより、人は知ってしまったのだ。
人が知性を失わないためには、このゲームの参加者を倒さなければならない。
人類の文明を破壊する為、選ばれた生き物は、身長五十メートルまで、巨大化した。
哺乳類の新たな代表は、猿になった。
五十メートルの相手に、人は対抗できるのか。
「皆さん…こんにちわ!本日のニュースです」
笑顔を浮かべて、お天気お姉さんが、軽〜い感じで、話していた。
「本日の日本列島は、前線の影響もなく…全国的に、晴れるでしょ…。しかし…」
笑顔を愛想笑いを絶やさないお姉さんは、
「ところにより…毒霧…カブトムシが降るでしょう」
と、あり得ないことを告げた。
「馬鹿じゃないの!」
そんな天気予報が当たるはずがなかったが、自転車を立ちこぎで、全力疾走する…守本真由は、サイレンが鳴り響く川原を走りながら、苦虫を噛み締めたような表情をつくった。
生駒山が近い高台からでも、大阪の中央を堂々と闊歩する蛇が、見えたからだ。蛇といっても、コブラだ。全長五十メートルには、見えない。上体を上げた高さが、大体五十メートル。頭から尻尾の先は、百メートル以上はある。
外環を越えると、段々と坂がきつくなってくる。
電車が動いていたら、電車で行きたかったが、勿論止まっていた。
大阪出身以外の人が、大阪から奈良につながる生駒トンネルまでを登る急な坂を電車で、夜に上り下りするたびに、あまりの美しい光景に、絶句すると言われているが…そんな美しい路線に沿って、真由は、必死に汗だくで自転車をこいでいた。
コブラは、周囲に展開する自衛隊をまったく気にせずに、まっすぐに生駒山頂の方へ向っていた。
当初、大阪城に閉じ込めるはずだったが、作戦の変更が伝えられていた。
「仕方があるまい…」
本部から、作戦の変更を告げられた自衛隊員は、唇を噛み締めた。
「我々では…どうしょうもないのだから…」
和歌山県橋本市の海岸線から、上陸したコブラは、市内を破壊しながら、南海電車の車線を這うように、大阪に進入した。
途中、南海球団の展示場があるみさき公園で、海上自衛隊の攻撃を受けたが……まったくダメージを与えることは、できなかった。
ミサイルや銃弾は、至近距離で撃っても、コブラに当たることはなかったのだ。
神のご加護によって。