地球合衆国大統領
大統領執務室に映し出されるアルテミス。「こんにちは、大統領」アルテミスは言った。
「お前は誰だ?何故、合衆国軍の艦長たちはそこいる?アルテミスと言ったか・・。君達・・艦長ともあろうものが、何故この少女に従っているのだ?どういうつもりなのだ。」と大統領は言った。
その言葉をアルテミスは少し小首をかしげながら聞いていた。金髪が肩にかかっている。瞳は気だるそうだ。どうしようかしら・・少し面倒になってしまったわ・・アルテミスはそう思っていた。この距離では、力を使ってこの大統領を殺すことはできない。遠すぎるのだ。
「私たちに従ってもらいたいの。できれば殺したくはない。戦わずに降伏してくれないかしら?」アルテミスは率直に言った。そして、この時点から合衆国大統領には何も言わずに、地球圏のテレビやインターネットなど、あらゆる周波数でアルテミスと大統領の会話を放送し始めた。
「君は狂っているのかね?単なるテロリストなんだろう?どうやって艦長達を脅したのだ?君の背後にいるのは誰なんだ?それともcgなのかね?横にいる艦長たちも本物かどうかわからないではないか。」と大統領は言った。
「cgではないわ。そちらでも検証しているのでしょう?まあ疑うのは仕方がないけど・・それそれの船が持っている暗号idを送信したはずよ?届いてないかしら?それでわかるでしょう?あなたたちの船を支配下に置かなければ手に入れられないのではなくて?」とアルテミス。
その時大統領に秘書官が耳打ちした。「大統領・・この会見は全地球に向けて放送されています。」驚きを隠す大統領。動揺していないフリをしてアルテミスに問いかけた。「何故この会見を放送している?」
「手っ取り早いでしょう?あなたが私に従うなら良し。逆らうなら、ごめんさない、消えてもらうわ。」ざわつく執務室。こんな性急な・・殺すと言っているのだ、この少女は。
「馬鹿なことを・・・我々の戦力を知らないんだな。お前が誰に何を吹き込まれたか知らないが、お前が従っているのは愚か者だぞ?信用しないほうがいい。」大統領は、あくまでもアルテミスはそそのかされているだけ、との考えを崩さない。
ふうっと呆れた顔をするアルテミス。
(この男を説得するのは無理そう・・どうしましょうハッデンさん・・。)アルテミスは非音声通信でハッデンに言った。(そうだね。でも君が判断すればいい。私は彼がどうなろうと君を攻めたりはしないよ。)とハッデン。(ありがとう、ハッデンさん)とアルテミス。
アルテミスは合衆国大統領ではなく、その周りにいる人間に語りかけた。「あなたはどうでもいいわ・・。周りの方々に言います。本当に私にはできないとお思いですか?本当に勝てないと?私に付いたほうがいい・・この頑固な大統領に尽くしても、良いことはないのよ?現に一人を除いて艦長達は私に付いたわ。」
「本当です・・彼女に逆らっても、勝てない・・今は降伏を。そうしなければ、あなた達も殺されます。」艦長のひとりが口を開いた。「あら、ありがとう。本当のことを言ってくれて。」とアルテミス。彼女は嫌味で言ったのではない。本気で感謝しているのだ。
「他の方々も言いたいことがあれば言って良いのですよ?私は、話してはいけないとは言っていない・・・」とアルテミス。
「こんな女に従ってはなりません!私は・・一旦は恐怖に負けました。しかしもう恐れない!」そう言うと彼は銃を取り出そうとした。しかし・・彼の体は二つに分断された。飛び散る血液と崩れ落ちる内臓。その光景を見た執務室にいる女性が悲鳴を上げた。
「こいつはただの殺人者だ!お前などに降伏するつもりはない!我々は戦う!もう話し合うこともない!これは全地球人が見ているんだぞ!人々はお前を許さない!」と大統領。
「私は敢えて銃を持たせたのよ?従うと思ったから。でも裏切るならば容赦はしないわ。でも・・そう・・。交渉決裂なのね。分かったわ。では望みの通り戦いましょう。」とアルテミス。そこで通信は途絶えた。
「直ちにあの船を核攻撃するのだ。」執務室にいたもの達に連帯感が生まれていた。ホログラムにアルテミスの船テティスの位置が映し出された。地球軌道上に待機していた戦艦から10数発の核ミサイルが発射された。
「地球軌道上の船からミサイルが発射された模様です。いかがいたしますか?」とオリオン。「そうね・・シールドは最大で、地球軌道上の戦艦に向かって、オリオン。」とアルテミス。
「ミサイルが来てるんだよ?いいの?」とタカシは言った。「もちろん近づいたら破壊するわ。そして戦艦も。オリオン、ミサイルがレーザーの射程に入るのはいつ頃?」とアルテミス。
「既に射程内です。攻撃しますか?」とオリオン。「あら、そうなの、そうね、かなり地球に近づいたんですものね。それなら攻撃してオリオン。全て破壊してね。」とアルテミスは言った。
高出力レーザーが発射され、核ミサイルは簡単に破壊されてしまった。大統領執務室にいる大統領は呆然とした顔をしている。「ミサイル消滅しました・・。敵艦は地球軌道上の戦艦に向かって秒速40キロ程の速度で向かってきます。」と秘書官。
アルテミスの船テティスのレーザーが非常に強力なのはチョプラ艦長が伝えていたはずだった。しかし大統領はそんな情報など、なかったかのように感情的に行動した。ここにもまた、単なる金銭回収団体と化した政府、政治家の姿があった。
合衆国軍の、どの船も出せない速度で地球軌道上にある艦隊に向かうテティス。減速しなくては合衆国艦隊に衝突してしまう。そんな速度だ。しかし・・減速しない。
地球軌道上にある合衆国艦隊の中「敵艦秒速40キロで接近中、衝突コースです。回避行動をとりますか?」コンピュータの無機質な声。「あの船、減速しない?いや、もうするはずだ・・・」と乗組員。ざわつく艦橋。
合衆国軍艦隊との距離は後6万キロほどしかない。今減速しても大変なGがテティスにはかかすはずだが、テティスは減速しない。それどころか更に加速していた。「か、回避、地球軌道から離脱。」と艦隊司令官。
エンジンが青い光を放ち、ゆっくりと軌道を離れ始める20隻の合衆国戦艦。しかし艦橋にいる乗組員たちは不安にかられていた。何か嫌な予感がするのだ。
同じ合衆国軍や火星連合の船からなら、逃げることも出来たであろうスピードに加速してゆく合衆国戦艦。しかしテティスは距離、数千キロのところまで来ても減速しない。「敵艦突っ込んできます!」テティスは合衆国艦隊の真ん中少し手前で急減速をかけた。そのまま突っ込んでゆく。強烈な空間の歪みが発光現象を引き起こし、光に飲み込まれると同時に破壊されてゆく合衆国軍艦隊。その光景は地球からも眩い光として見えた。
「全ての戦艦との通信が途絶しました。トランスポンダー反応なし・・。」合衆国大統領執務室の秘書官が呟いた。
「大変に・・良い副産物だね、重力制御の。こんな破壊力があるとは・・」ハッデンはとても爽やかな顔をしていった。
「確かに素晴らしい効果ですが、この力は重力と同じく、距離の二乗に反比例します。」とオリオン。
「距離の二乗に比例して、弱くなるんだろう?分かっているよ?知らないとでも?オリオン。とてもショックだ。見くびられたものだ」ハッデンは笑いながら言った。
オリオンは少しハッデンをからかったのだ。
「次はどうする?アルテミス。」リクトが言った。
「そうね、地球を支配することを宣言かしら?」アルテミス言った。
「オリオン。地球のテレビ全ての周波数帯で放送を準備して。インターネットもね。これから、また地球大統領と話すわ。最後の警告。その通信を地球の人達にも流してね。」とアルテミスは言った。
「了解しました。テレビの全周波数地帯およびインターネットで放送を準備します。地球合衆国大統領との通信開始とともに放送も開始します。」とオリオン。
大統領執務室があるのは、高さが1.5キロもある巨大な宮殿のよう建物。でも、そこから少し離れれば高価な遺伝子治療を受けられない貧困層が暮らすスラム街。その執務室にある大きなスクリーンと、各家庭のテレビに、街頭のスクリーンにアルテミスと合衆国大統領が映し出された。
「こんにちは大統領、またお会いしましたね。地球軌道上の合衆国艦隊は瞬時に消えてしまった。残った戦艦に招集をかけるつもりなんでしょうけど、科学力の差は歴然としているわ。私もむやみに殺したくはありません。私に従ってくれれば生きてゆける。あなたは合衆国大統領のままでいいわ。ただし、私の支配下にいるというだけよ?」アルテミスは言った。
「お前は・・まだそんなことを・・こんなことをしても我々は屈しないぞ!殺人者のお前を地球合衆国の市民も許さないだろう!」放送されている事を知っている大統領は意気揚々と演説調で言った。
「あなたの支配に、地球市民はうんざりしているかもしれないわよ?合衆国の皆さん聞いていらっしゃるかしら?私の支配は・・戦争の禁止。あらゆる差別の禁止。富の適切な配分。この大統領を始めとして、富裕層から、お金を没収し均等に配分します。そして、今まで通り大統領選挙も行われます。意外でしょう?他の政治家も今まで通り選ぶことが出来ますよ。しかし軍事的なものは全て私の支配下に入ります。」アルテミスは地球市民に向かって言った。
合衆国大統領の顔は憎悪そのもの。自分より上にあんな小娘がつくというのだ。許せるわけがない。
「我々は絶対に負けない。繰り返すが、お前には支配されない。」大統領は言った。
アルテミスは表情を変えない。そして「他の方々はいかがかしら?その豪華な執務室にいるあなた達は、彼に従うの?それなら一緒に滅びることになる・・1時間猶予をあげるわ。もし逃げたいのなら一時間以内にできるだけ遠くへお逃げなさい。一時間後にそのビルを攻撃する。」ただ冷たく彼女は言い、そして通信を切った。
互いに顔を見合わせる合衆国の高官たち。一人がそっと去ると、後に続いて皆逃げ出した。
「彼らはどうするだろうか?そういえばアルテミス。あの建物ごと吹き飛ばすのかい?」とハッデン。
「そうね。いえ・・殺すのは大統領だけにしようかしら?・・オリオン、大統領官邸上空100メートルで静止して。」とアルテミス。
「了解しました。大統領官邸上空100メートルの位置に静止します。」オリオンは言った。
上空に留まる巨大な船。そこからアルテミスは大統領執務室に瞬間移動した。大統領の居る場所だ。建物からは我先に人間たちが逃げ出している。エレベーターは満員。エレベーターを待ちきれない人が階段を駆け下りていた。
ほうけたように佇む大統領。この建物から皆こぞって逃げ出している!大統領の私をおきざりにして!
「あなたは逃げないのね。この巨大な建物から皆逃げ出しているのに。」アルテミスは少し迷った。佇むおじさんを殺しても、仕方がないような気がしてきたのだ。最早なんの力もない。「そうね・・殺すのはやめましょう。あなたを拘束します。大統領の任を解きます。」とアルテミスは言った。
「お前に・・・そんな権限はない・・」しかしその言葉には力などなかった。
「権限なんてどうでもいいのよ。」そう言うとアルテミスは大統領とともにテティスへと瞬間移動した。
「前地球合衆国大統領は今、私の船の中にいます。彼は大統領の任を解かれました。次の大統領を選出してもいいし、私が大統領になってもいい。それは皆さんがお決めになってください。しかし・・繰り返しますが軍事的なものは全て私の支配下に置かれます。」アルテミスは地球と月に向けて放送を行った。
残った合衆国軍の司令官、艦長達は困惑していた。中には火星付近にいるものも居る。リアルタイム通信ができない距離だ。
およそ12分後「艦長・・私達はつまり・・・アルテミスというあの子?の下につくということでしょうか?」ある副官は艦長に呆然と呟いた。
「分からん。しかし逆らえば殺されるんだろうな・・」と、ある艦長は言った。
火星侵攻の為に集結していた地球合衆国軍は、およそ2000席程。合衆国大統領を失って、他の空域に散っている艦隊は集結しようとしていた。
「今は緊急事態だ。暫定的に、ヨシガ将軍を最高司令官にすることを提案する。」まだリアルタイムで通信ができない距離の艦隊もあったが、火星付近に集まっていた艦長たちは暫定的なリーダーの話を始めていた。
「火星付近に艦隊は集結するようです。数千隻の船が各方面から向かっています。」とオリオン。
「それはそうだろうな。我々と戦う気なんだろう。しかし今から火星に向かっても集結前にテティスが到着するのは無理そうだね」とハッデンは言った。「はい。こちらが最大速度で進んだ場合、合衆国艦隊が集結する頃に到着するでしょう。」とオリオン。
「むしろ、ちょうどいいかもしれないわ。もし戦っても勝てると思う?オリオン。」アルテミスは、およそ6千船籍になろうかという艦隊と戦う気だ。
「急激な減速による副作用を利用すれば、・・敵艦の間隔にもよりますが、三分の一は破壊できるかと思われます。」オリオンはシミュレーションを表示した。まずは最も標準的な戦艦の間隔で、次はもっと戦艦の間隔が広い場合、もっと広い場合はこう・・・と。
「ハッデンさん。あなたの家は大丈夫なのかしら?ほら・・自宅にはオリオン本体があるんでしょう?少し心配なの。」とアルテミスは言った。
「ちゃんと用意してある。オリオン本体を守るためにヘレナを向かわせたよ。」とハッデン。「そうなの。良かったわ。彼女?がいれば合衆国軍が来ても大丈夫ね。」とアルテミス。
「ヘレナはご自宅の植民島に到着しています。そして私を戦艦テティスに移動するための準備は全て整っています。」オリオンは言った。ハッデンの植民島に生きた人間はいない。いるのはオリオンが制御するロボットのみ。
合衆国軍がハッデンの植民島に近づきつつあった。彼の植民島は秘密にされているわけではない。だから、彼らは裏をかいたつもりなのだ。植民島の中には誰もいないのだが。それを知らない合衆国軍。
ハッデンの自宅植民島に迫るミサイル。合衆国軍が発射したものだ。それに気づいたヘレナ。
人間で言えば顔にあたる部分から大出力レーザーが発射されミサイルを焼き払ってゆく。真っ青な装甲。パッと見は絵を書く人が使うモデル人形を少しだけ骨太にした感じだ。全長は40m程。余計な装備は少なくとも表面にはついていない。しかしその大出力レーザーは10数秒でミサイル群を破壊した。
「ミサイル・・全て破壊されました・・・」呆然とするオペレーター。
「一体・・何がいるんだ、あの植民島に・・それにこの距離で・・。何がいるのかは分からないのか?」とディミトリ艦長。
「まだ距離がありすぎます。光学望遠鏡、最大での映像がこちらです。」映し出された映像にはヘレナのはまだ見えない。
「うかつに近づくのは危険だ。すぐ減速しろ。」とディミトリ艦長。既にヘレナのレーザーは艦隊を狙っていたが、ヘレナはオリオンの指示を待っていた。
「私の植民島に合衆国軍が近づいて来ているようだよ。ヘレナからの映像だ。」とハッデンは言った。ホログラムに映し出された。合衆国軍の位置。
「彼らにも降伏を勧めるかい?」とハッデン。「そうね。ここが済んだら行くわ。でもヘレナだけで大丈夫かしら?」とアルテミス。
「それは・・大丈夫だろうね。ヘレナにもレーザーがあるし、それも強力な・・。そしてテティスと同じく、急減速すれば周りのものを破壊出来る例の機能も付いている。」とハッデンは言った。「ハッデン様、あの急激な加速、減速で空間を歪ませ、結果的に敵を破壊する方法ですが、あまり多用すると加速機がオーバーヒートします。20分程、間を空けても4~5回が限界です。」とオリオンが言った。
「まあ・・そんなところだろう。熱は厄介だからね。でも4~5回使えれば敵の大部分を破壊できるだろう?それにその4~5回を使い切ったらどのくらい期間を開ければ使えるようになるのかな?」とハッデン。「5時間ほど冷却すれば元の状態に戻ります。」オリオンは言った。
「私の予測より速いな。上出来だよ。」とハッデン。
その時新しい情報が入った。「合衆国軍艦隊は減速を始めました。ヘレナのレーザーを警戒していると推測されます。」とオリオン。「合衆国軍の司令官も、闇雲に近づいたりはしないようだね。それはそうか・・今は火星に集結しつつあるメインの艦隊をどうにかしないとね。」とハッデン。
火星空域に集結しつつある合衆国軍艦隊、それに合わせるように戦艦テティスもその空域に突進している。
間もなく合衆国軍艦隊、集結予定空域に到達します。減速を始めますか?このまま進めば合衆国軍艦隊の三分の一を破壊できるポイントで減速を開始することもできますが。いかがいたしますか?」とオリオンは言った。
「このまま破壊しちゃおうかしら?」ポツっとアルテミスは言った。「そうなの?話をせずに殺しちゃうの?」とタカシ。
「少し迷うわ。チャンスじゃない?千載一遇って今みたいなことを言うんでしょう?」とアルテミス。「それはそうだが、ほんとに言いの?説得もせずいきなり?」と今度はハッデンが言った。
「例えこのチャンスを逃しても、多分私達が勝つわよね?」とアルテミス。
「それは、そうだよ?よほど油断しない限りはね。」とハッデンは言った。
「ホントはそんなこと思ってないんじゃ?」とリクトは言った。「良く分かったわね。少し面倒くさくなったけど、いきなり殺したりしたくないわ。それに生かしておいた方が、地球の人達にも受けがいいでしょうね。」アルテミスは言った。
「何だ。人が悪いよ。僕は本気かと思った。」とタカシは言った。「ごめんなさい。少し迷ったのよ。」とアルテミスは言った。
テティスは減速していた。合衆国軍が集結する頃、テティスもそこに着けるだろう。
「オリオン・・通信をお願い、地球合衆国軍に。一応降伏勧告しないと。」とアルテミスは言った。「かしこまりました。通信を開始します。しかし・・言うセリフはもうお考えなのですか?本当に通信を開始してよろしいですか?」とオリオンは心なしか心配そうに言った。
「あら・・前と同じように言うだけかと思ったのだけれど・・それではダメかしら?」とアルテミス。「ちょっとはセリフを変えてみたらどお?降伏とか言わず、別の言い方にしてみるとか?」とタカシ。
「そうだよ、あいつら・・フツーの人間て、そういうのスゲエこだわる。なんか知んねえけど。」とリクトは言った。アルテミスやタカシ達の感覚は少しずれている。最早、人間の思惑など考えなくて言い存在になってしまったからだろうか?
「ハッデンさん。私の言葉遣いは間違っていたのかしら?」とアルテミス。「ううん・・間違ってはいない。でも私達、ふつーの人間はメンツとかこだわるんだよ。君は見た目まだ十代の女の子だ。そんな子に従うのは・・とくにおじさんはね。いや年上の女性も激怒するかも・・・でも仕方ないさ。君が分からないのも当たり前なんだから。」とハッデンは言った。
「ハッデンさんも私に従っている、いえ・・服従させられている、ってそう思っているの?」アルテミスは少し心配そうに言った。
「私はね、少し変わっているのかな。そんな風には思わないよ、全くね。それより、あの激怒したおじさんたちの方が嫌いだね。人間の集団心理を悪くしている。真に排除すべきなのは多分ああいう人達なのさ。」ハッデンは穏やかに言った。
「そう、良かった。安心したわ。じゃあ・・・少し穏やかな言い方?敬意を払った言い方にしてみるわ。」アルテミスは言った。
この会話を聞いている間、オリオンは合衆国軍に通信を繋げていない。アルテミスに助言して良かったと彼は内心思った。
「嫌だわ。少し緊張しちゃう。オリオン、まだ通信は繋げないでね。」とアルテミス。
「分かっていますよ。考えてください。もう少し減速を強めますか?このままでは後20分程で合衆国艦隊と合流してしまいます。」とオリオン。
「いえ・・このままでいいわ・・・。」アルテミスは浮かびながら言った。少し体から光が出ている。「考え事してウロウロしてる。」タカシは笑いながら言った。