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アルテミス  作者: 田中嘉彰
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地球圏からの援軍

「アルテミス。どうする?彼らを。」とハッデン。「どうするって、一応は仲間に引き入れようとしてみるわ。」アルテミスは言った。「あのとぼけたチョプラ艦長のようには、今度は上手く行かないかもしれないよ?」ハッデンは言った。

「試してみるわ。もしダメなら殺してしまうから・・・。」アルテミスは言った。彼女は人間の命など、なんとも思ってはいないらしい。あんな力を持ってしまっては当然か・・もはや人間以上の存在になってしまったのだから。こうしている間にも合衆国軍に戦艦テティスは猛スピードで近づいている。

「正体不明の船が更に加速しました。」オペレーターは言った。

 

 合衆国軍の援軍を率いているヤマグチ司令官は、地球生まれで火星人差別主義者だ。

奴らは二等の人間なのだ、が彼の口癖。「戦艦ウィンダミアは毒ガスを注入されたのかもしれない。あるいは内部に何らかの戦闘ロボットを送り込まれ、全滅したのだ。」艦橋にいるヤマグチ司令官は言った。

 

 少しの沈黙のあと司令官は続けた「核ミサイルを発射しろ。不用意に近づかれてはならない。」彼は内心臆病なのだ。未知の方法で、戦艦ウィンダミアが攻撃されたと思い込んでいる。それに対処できない自分を薄々分かっている。だから近づく前に破壊したいのだ。それには核攻撃が最も強力なのだから。

 

 程なく援軍艦隊から核ミサイルが発射された。

「複数のミサイルが発射されました。推測ですが、あの中に核が混じっているでしょう。」とオリオン。ホログラムにもミサイルが表示されている。「さて、迎撃しようか。」ハッデンは言った。彼は内心呆れている。援軍艦隊司令官は、どんな奇策があるのか?などとは思っていないのか?。


「了解しました。」とオリオン。高出力レーザーが照射され、ミサイルを破壊してゆく。すぐに全てのミサイルは破壊された。2つ核が混じっていて爆発したが60万キロ程の距離があるのと、テティスにレーザー照射の後すぐにシールドを張ったため全く被害はなかった。


「しかし・・向こうの司令官は馬鹿なのかな?オリオン」ハッデンは言った。「それは・・私には分かりかねますが・・何かの奇策があるのでしょうか?もしそうだとしたら注意しなくては・・」オリオンは言った。「お前・・本気で言っているのかい?」ハッデンは奇策など入り込める余地のないこの状況を、分かっていないのか?と言わんばかりだ。

 

「申し訳ございません。少し・・敵艦の司令官を擁護しました。」とオリオン。

「そんなことだろうと思ったよ・・・。アルテミス、例の敵艦に降伏勧告をしようと思うのだが・・来てくれるかね?」ハッデンは言った。程なくしてアルテミスはタカシ、リクトと共に艦橋に瞬間移動してあらわれた。


「君たち・・・タカシもリクトも瞬間移動できるのかい?」ハッデンは言った。「いや・・僕達はまだ・・リクトは出来るかもしれないけど・・」タカシはうつむき加減に言った。彼は少し、自分を恥ずかしいと思ってしまっているようだ。

 

 そんなタカシにアルテミスは「タカシ・・あなたがそんな風に考えがちなのは知ってるわ。無理に直せなんて言わない。でも私たちは、あなたをそんな風に捉えていないのよ。少しずつでいいから、それを信じていってくれると嬉しいわ。」そう言った。

「ありがとう・・そうだね。少しずつなら出来そうだよ。僕だって君たちを疑ってなんていないんだ。ホントはね。」タカシは言った。「そうだぞお前。考え過ぎなんだよ。」リクトは言った。タカシはリクトのこんなところも好きだった。彼の言い方はどこか優しい。ただの毒舌とは違うのだ。

 

「私もそんな風に思っていませんよ。もっとも、分かっていらっしゃると思いますが。」とオリオン。

「私だってそうだよ。オリオンほど、信じてはもらえないだろうが。」ハッデンは少し意地悪な笑いを浮かべて言った。実は、彼らをつなげているのはオリオンかもしれない。悪意を持たない、少なくとも人間より悪意がないと本当に信じられる存在。

 

「じゃあ、アルテミス。敵に降伏勧告をしようじゃないか。」とハッデンは言った。

 

「ミサイル全段消滅。」とオペレーター。すべてのミサイルを焼き払い、テティスは艦隊めがけて向かってきている。「全艦高出力レーザー用意。目標は正体不明戦艦」ヤマグチ司令官は言った。

 

 その時オペレーターが言った。「敵艦から通信が入っています。」ヤマグチ司令官は内心降伏を言ってくることを期待していた。彼には優れた戦術などはない。実は飲み屋で面白いやつ、そう言われる能力しかないのだ。利害なく話せば面白いだろう、確かに。

 そして、彼から(いじり)の標的にさえならなければ、だが。侮られたが最後、集団の感情のはけ口、又はケープゴートの役を何が何でも押し付けてくるだろう。そう言った口の上手さは持っているのだ。そして威厳を保つ演技も上手い。

 

「よし。通信をつなげろ。」ヤマグチは言った。

 ホログラムに映し出されるアルテミス達。「子供がいるのか?」とヤマグチ。

「こんにちは。」とアルテミス。アルカイックスマイルのまましばらくの沈黙。ヤマグチは少し口を開けて憮然としてアルテミスを見つめていた。気味の悪い男だ。何か言えばいいのに。

 

 何だこの子供は?あの船は難民船なのか?では横にいる男が、人身売買の親玉とでも言うのだろうか?それとも・・この少女もグルなのか?ヤマグチは思った。

 

「お前達は何者だ?所属はどこだ?」と司令官。「所属なんて関係ないのよ。だって私たちは、あなた方に降伏を勧めようとしているの。」アルテミスは言った。

 

 ヤマグチは鼻の先で笑った。「たった一隻で何が出来る。ふざけているのか?それともお前達の頭はおかしいのか?」 

 

 全くチョプラ艦長といい、この男といい、たった一隻、たった一隻って馬鹿みたいね。アルテミスは思った。しかしこれは彼女が間違っている。だってテティスの性能を彼らは知らないのだから。「一隻でも私たちは勝てますよ。試してみますか?」そう言うとアルテミスはオリオンにレーザー照射を命じた。

 

 少しの振動。何だ?揺れたのか?位の。しかし警報が鳴り響いた。「船体温度が上昇しています。およそ1400度・・1600度・・」コンピュータの冷静な声。チョプラ艦長の船と同じだ。戦艦の表面をレーザーが焼いている。程なく溶け始めるだろう。

 

 アルテミス達は同じことを繰り返した。しかし今度は何故か気持ちが入らない。降伏勧告など無駄かな?・・そんな気がしてならなかったのだ。

 

「お前たちに降伏などするものか!何を言っているんだ!狂っているのか?」嘲笑うようにヤマグチは言った。


(ねえハッデンさん、この人は無理みたいな気がするわ。)アルテミスは言った。

(そうだねえ・・。でもアルテミス、他の人は受け入れるかもしれないから、他の人たちの為に続けてみてはどう?)

 

 アルテミスはチョプラ達にしたのと同じように瞬間移動して見せた。これを見れば、もしかしたら気が変わるかも?そう思ったのだが。

「何だお前は!トリックなのか?化物?!この化け物!」ヤマグチは言った。この男を説得することは不可能なようだ。表層の意識も攻撃的な言葉と差別で溢れていた。

 

(この人チョプラ艦長と違うわね・・無理かもしれない)アルテミスは思った。

 彼女は取り敢えずヤマグチを眠らせた。でも急激に眠らせたので、顔面を床に叩きつけるようにして彼は倒れた


 アルテミスは乗組員達の心に直接話しかけた。内容は、ほぼ同じ降伏勧告だ。

そして数百人の声を同時に聞こうとしたが、声そのものは聞こえても内容までは、ハッキリとはわからない。彼女は試しに、重力のある居住区に居る、あまり攻撃的ではない言葉で降伏を拒否している人間の元に瞬間移動した。

 

「こんにちは、私はアルテミス。はじめまして。」にこやかな笑顔。これから人を殺すかもしれないし、第一、降伏勧告にはこの言葉はふさわしくない。しかし彼女はそんなことは気にもしないらしい。

 

「あ、あなた何なの?いきなり降伏しろなんて・・・。この船は地球合衆国戦艦なのよ?ただで済むとでも思ってるの?」と女性が言った。

 当たり前だが彼女は怯えていた。心の中で母親に助けを求めている。「お母さんに助けを求めても、彼女は今ここにいないわ。」アルテミスは言った。

 

「何で・・?」彼女は繰り返すしかなかった。しかし無駄な抵抗をしようとはしていない。銃を使う気はないようだ。

「あら、何故、抵抗・・銃を撃とうとしないの?試しに撃ってみたらどう?多分そんな事をしても無駄でしょうけど」アルテミスは言った。しかし女性は銃を使おうとしない。

 

「そうね、正しいわ。私に何をしても無駄。」とアルテミスが言ったその時、彼女の背後から銃を撃った男がいた。部屋にはアルテミスが話している女性の他数人がいたのだ。アルテミスは敢えて他の人間に背中を見せていた。

 

 しかし男がアルテミスを撃った角度が悪かった。弾丸は殆んどそのまま、撃った男に跳ね返った。蹲り呻く男。「ほらね、こんなものは役に立たない。」アルテミスの目の前には銃が浮かんでいた。「私についたほうが得策よ?まあ・・すぐにとは言わないわ。少し時間を上げる。よく考えてね。」そう言うとアルテミスは元いた艦橋に瞬間移動した。

 

 頑固なヤマグチ司令官の元に現れるアルテミス。彼はしたたか打ち付けた顔から鼻血を流し、そこを手で覆っていた。「ヤマグチ司令官。少し時間をあげるわ。そうね・・1時間だけ。その間に決めてくださいな。私につくのか、戦うか。」そう言うと彼女はテティスいるハッデン達の元へと瞬間移動した。


「望み薄そうだね・・あの司令官は。」とハッデン。「多分駄目だと思うわ。きっと死んでも降伏はしない。でもいいの。私に考えがあるの。今はまだ秘密でいい?ハッデンさん?話すと、上手くいかない気がして・・何故か分からないけど。」とアルテミス。

「構わないよ。君がそう思うなら・・。」そうハッデンは言った。

 

 合衆国援軍戦艦の、鼻先に止まったままの戦艦テティス。他の艦はテティスに攻撃を仕掛けない。艦隊の乗組員の中には降伏を受け入れたいと思っている者もいた。アルテミスが瞬間移動する場面や、銃が跳ね返って男に当たる画像と音声は、数千人いる各艦の乗組員たちの脳に直接送られていた。脳に直接画像が映る、なんて初めての経験の者ばかりだ。それだけでも彼女の力を信じたものが大多数だが、中には、それも含めてまやかしだと思う者もいた。

 

 ヤマグチは艦隊全体に、降伏などしない事、あんな小娘に屈してはならない事を放送したかったが、戦艦の機能はアルテミスが全て掌握していた。

 

「ダメです。通信はどうやってもできません。我々の操作を全く受けつけません。」オペレーターがヤマグチ司令官に言った。

 ダン!とコンソールを叩くヤマグチ。「あの・・女!・・」憎悪に歪んだ顔。軍人とは言え内心、オペレーターは引いてしまった。

 

 そして、その映像と音声はアルテミスによって艦隊の乗組員たちに放送されていた。もちろん、ヤマグチ司令官の目の前にいる人間たちには放送していない。

画像が放送されていることがバレればヤマグチに演技をされてしまうから。

 

 こんなことで、どれだけの人間の気持ちが動かせるかは、アルテミス自身にも疑問があったが、あの醜悪な司令官を見ていると思いついてしまったのだ。この顔を兵士たちに見せたらどう思うのかしら?と。

 

 ヤマグチはそんな歳でもない。50代だろうか。色白で神経質そうな顔。蛇のような目つき。別に美男子なら性格が良い、なんてことはないけれど、多分、彼は利己的なんだろうと思われがちな、冷たいブ男。髪は細くストレート。そんな男。

 

 一時間が経過し、ホログラムにアルテミスの姿が映し出された。「時間が来たわ。答えはどうかしら?ヤマグチ司令官?」アルテミスは内心諦めていた。だから、思いっきり尊大な言い方をした。

 

 そして思惑の通りの答えが返ってきた「降伏などするものか!お前に従うのなら死んだほうがましだ!」その時ヤマグチ司令官の首がスパッと切られた。後ろに落ちる頭。吹き出す血液。「もういいわ。あなたはいらない。」とアルテミス。

 この映像も艦隊全ての乗組員の頭に直接送られた。ヤマグチ司令官の周りにいた者の叫び声も一緒に。

「あなたたちはどうするの?」抵抗したいなら機会をあげるわ。一旦武器を使えるようにしてあげる。」とアルテミス。

 

 彼女は、攻撃した船だけを破壊するつもりだった。その船の中にも、もしかしたら降伏したいのに、言えないだけの者もいるかもしれないが、それはどうでも良かった。しかしいくら待っても攻撃はされなかった。「どうしたのかしらね。攻撃してこないわ。」アルテミスは言った。

 

 実は彼女、近くにある幾つかの船を透視し、尚且つ、数人の心も読んでいた。皆恐れて諦めていた。この軍隊はどうなっているのだろう?忠誠心を持つものなどいないのだ。ダラダラとしたお役所軍隊。「まあ興味深いわ・・ハッデンさん・・何人かの心を読んでみたの。そしたら自分が助かる事だけよ。心を読んだ数人に限られるけど、今の所、命懸けで戦おうなんて人はいないわ。当たり前かもしれないけれど」アルテミスは言った。

「そうだね。そんなものだろう。職業なのさ、軍人だって。」元々地球合衆国の腐敗は極まっていたんだよ。政治家も官僚も自分の富を増やす為の、いいシステムを見つけた、そんな風にしか考えてはいなかった。」ハッデンは言った。

 

 地球合衆国も火星共和国もそんな者しか上層部にはいなかった。不思議なことに、そんな支配者の下では、格差は固定し貧富の差は広がっていくばかりだった。もちろん、そんな指導者も国民の中から出てきたのだけれども。

 

「それぞれの艦長の答えを聞きたいわ。ハッキリと言葉で。その沈黙は、私に従うという解釈でいいのね?」それぞれの艦橋のホログラムに映し出されるアルテミス。各艦の艦長は誰も言葉を発しない。

「答えてもらえないかしら?でなければ従わないとみなして、攻撃するけれど、いいのかしら?」各艦の艦長はモゴモゴしていた。中には副艦長に促され、渋々ではあるが小さな声で、「従います。」

 それぞれ言い方に多少の違いはあっても各艦長たちは言った。


「分かったわ。あなたたちの忠誠を受け入れます。」アルテミスはそう言うと通信を切った。」

 

「ホントに彼らは従ったの?」タカシが聞いた。「一応ね。全員の意識は、まだ読み終わってないけれど、大抵は自分が大事なだけよ。隙を見て攻撃しようってのもいたけれど。」とアルテミス。彼女はその後も一人一人の心を読んでいった。全員を読み終わったが、やはり反抗の気骨のある者はいなかった。チョプラ艦長のような人間は少ないようだ。

 

「次はどうする?」とハッデン。「どうって・・・地球合衆国大統領?じゃないかしら?」とアルテミス。ハッデンは笑いながら「そうだね。もたもたしている意味もない・・か。」

 

 ハッデンは自社の社員には、既に解雇の通達をしてあった。感情的にどんな扱いを受けるかは分からないが、法的には無関係になっているのだ。それに、彼らに寛大な処遇を、などとハッデンから言えば、却って弱みと受け取られてしまうだろう。

 

 船は急加速し、地球とリアルタイムで通信ができる空域に向かった。

 

「大統領。例の正体不明の船からの通信が入っています。」合衆国大統領は無表情なままだ。

「正体不明の船から?いきなり私宛なのか?」彼は不機嫌そうだ。秘書官は言いづらそうに言った。「そうです大統領宛です。そして、ほぼ全員の艦長もアルテミスという少女と共にいます。」と秘書官。「それは・・どういうことだ?」ますます表情の険しい大統領。


「ヤマグチ司令官一人を除いて、全員がアルテミスという少女に従っている、とそう言っています。」と秘書官。

「合成ではないのか?」と大統領。「今解析しています。しかし今の所、加工の痕跡は発見できません。通信にはお答えになりませんか?」秘書官は言った。

「いや・・そのアルテミスという少女を見てみたい・・」大統領は言った。


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