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アルテミス  作者: 田中嘉彰
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個人所有の宇宙植民島

 ハッデンは月から戻り、自宅のある私的宇宙植民島の豪邸の中にいた。アルテミスの成果を見て彼は言った。「素晴らしい結果だ。」

「アルテミスの力は予想以上のスピードで増大していますね。」オリオンが言った。 

 

 ハッデンはアルテミス計画の裏の立役者。彼女が、彼の望み通りの人間なのかは、まだ分からないが、彼にはアルテミスを使った計画があるのだ。そして太陽系一の大富豪。ハッデン産業のceoである彼にはその計画を実現する財力がある。

 

 彼の会社に関わらずに宇宙船は作れない。もちろん武器も。更に、彼は天才的な技術者でもある。オリオンを作ったのはハッデンだし、さっき会話していたオリオンは、自意識も持ったコンピュータ、オリオンの端末だ。同じ端末が月にもある。この技術は、形の上では地球合衆国に供与する筈だったが、ハッデンは、のらりくらりと地球に渡していない。

 

「月からのデータは本当に楽しみです。まるでアルテミス達と、会っているように感じます。」オリオンは言った。「そうかね。私も楽しみだよ。久しぶりに会ったら、あんなに綺麗な子になっているとは。数年前は人工子宮の中にいたのに。」彼は人口子宮にいる時からアルテミス達を見ていた。

 

「アルテミス達をこの屋敷に招待なさると思っていましたが・・違うのですね。」オリオンの声には若干の失望の色がある。「お前にとっては月との距離も関係ないんじゃないか?」とハッデンは言った。「それはそうですが・・できれば本体で会いたいとも思うのです。」不思議なことを言う・・ハッデンは思った。

 

 本体って・・・例え本体の置いてある部屋にアルテミスが来たところで、やはりカメラとマイクで彼らの姿を見て、声を聞くのだが・・・。

 

「お考えになっている事は想像が付きます。端末と同じ様に、カメラとマイクで姿を見たり、声を聞くのに・・何が違うのか?そう思っておいでですね?」オリオンは言った。

「まあ・・そんなところだが・・・私たち人間も、目から入った電気信号を脳内で再構築しているだけだからね・・一緒かな・・。」ハッデンは一人納得したように言った。

  

 オリオン本体を、自宅植民島からアルテミス達の船に移動する準備をオリオンに任せ、小惑星帯にあるハッデン産業の工場に向かう宇宙船の中、ソファに持たれて紙の本を読んでいるハッデン。「またその本を読んでいらっしゃるのですね。」オリオンは言った。

「何か悪いのかね?」もちろんハッデンは意地悪で言ったのではない、好意的な気持ちでそう言ったのだ。「悪くはありません。本当にお好きなのだな、と思ったので。」とオリオン。

 

 その本は年代物の「キリストにならいて」だ。「紙の本が好きなのは・・お前も知ってるね。私はどうもタブレットで本を読む気にはならない。他の人は2百年もそうしているのに」ハッデンは言った。

「好みはそれぞれです。善悪の問題ではありません。ただ少数派ではあるでしょうね。・・・ハッデン様・・もうすぐドッキングです。」

 

 巨大な構造物。全長およそ二キロ程だろうか。工場や研究施設、居住区を備えている。ここで新しい戦艦が作られていた。回転する車輪のようなものが居住区や研究のための施設。

 

 作る側の工場と、ほぼ同じ大きさの新しい船。「もうすぐ完成ですね。これはアルテミス達の船ですか?」オリオンは言った。

 

 この船の核心部分・・重力制御はオリオンの発明だ。彼の思考の速度だと、1分は人間の1年に相当する。全て実際の実験なし、とまではいかないが、頭の中の実験で大部分は済んでしまった。本物の実験は、どうしても必要と思える時だけだ。

 

「お前は天才だよ。オリオン。お前がいなかったら重力制御など夢でしかなかった。」ハッデンは言った。「ハッデン様の発想も必要でした。これはお世辞ではなく、流石私を生み出した方です。」オリオンはなぜか誇らしげ。

 

「久しぶりだわ。楽しみ」アルテミスは言った。「まだ月で会ってから、そんな時間経ってないよ?まあ、キミはお気に入りだからね。ハッデンさんの。」とタカシ。3人と施設の職員が何人かでハッデンを迎えに来ている。「あなただってハッデンさんのお気に入りよ!何言ってんのよ。」ハッデンに呼ばれて、月から小惑星帯に移動していたアルテミス達。

 

 ドアが開き、ゆっくりとハッデンとオリオン(の端末)が歩いてくる。(ややこしいようだがオリオンの本体はハッデンの植民島にある。)

 

 スムースにハッデンたちに近づくアルテミス。彼女はそのまま念動力で移動しているのだ。ハッデン達は磁力で床にくっつく靴で歩いているため、彼らの体は歩くたび揺れてしまう。「重力制御装置もっと小型化できれば良いのに」アルテミスは言った。

 

「それはまだ先ですよ。でも研究はしています。」オリオンは言った。アルテミスの船の全長は2キロを少し超えるくらい。巨大な粒子加速器を積んでいるため、SF映画などでよく見る円盤型。円盤の外周がそのまま粒子加速器になっているのだ。

 

「船の名前は何ていうの?」アルテミスは内心では自分が付けたいのだが、一応聞いてみたのだ。「君が付ければいい。いや、君達で。それとも、もう決まっているのかい?」ハッデンは言った。「本当に?!いいのかしら・・ありがとうハッデンさん!」アルテミスはハッデンに抱きついた。彼女はそう言って貰えることを期待していたのだ。

 

 船の全景が見える展望室に来たアルテミス達。「でも、こんな船を私たちに下さるなんて、どうしてですか?ハッデンさん。」アルテミスは殊勝なことを言った。

 いくらなんでも、数千億は、掛かっているような船を、ぽんっと貰って、何も感じない、という人間ではない。「投資かな・・。私は君たちを高く買っているんだよ。」ハッデンがアルテミスを高く買っていることは間違いない。何しろ太陽系の王にしようというのだから。「ほぼ完成していますよ、この船は。一緒に処女飛行に行きましょう。」ハッデンは言った。


「小惑星帯に不審なもの?」地球合衆国大統領は言った。「はい、かなり巨大な構造物です。」と秘書官。「何故今更・・」と大統領。


「火星攻撃のために配置された戦艦が発見しました。巨大な小惑星の影に隠れるようにしている物です。」レーダーの情報をもとに解析された画像がホログラムで浮かんだ。「このぼやっとしているものがそうなのか?」と大統領。

 

「そうです。ここが小惑星。そして隣にあるこの物体は、岩石ではなく金属が主な主成分です。」ホログラムに触れると、不審な構造物が拡大された。

「この小惑星は地球から構造物を隠していました。しかし火星侵攻のための作戦で、紹介機が発見しました」と秘書官。

 ハッデンともあろうものが小惑星で構造物を覆わなかったのだ。しかし彼も神ではない。彼のことだ。ふとよぎったのかもしれないが流してしまったのか。

 

「向こうは気づいているのか?」合衆国大統領は言った「紹介機はおよそ200万キロ離れた空域を航行していました。向こうは恐らく気づいていないかと思われます。」秘書官は言った。

 正体不明の構造物。少なくとも地球合衆国のものではない。それに火星の物なら問答無用で破壊すればいいだけなのだが・・・。「戦艦を向かわせろ。正体を突き止めるんだ。」合衆国大統領はまず正体を知りたいと調べる方を選んだ。

 

「例の構造物の調査命令が出た。」戦艦ウィンダミアの艦長チョプラは、ぽそりと言った。火星侵攻の為に、この空域にも戦艦が集まっている。その中の4隻が小惑星帯への調査を命じられた。


「気が進まないんですか?」副艦長が言った。

「いや・・別にいいが、俺は貧乏籤男なのかと思って・・」チョプラ艦長は言った。

「艦長・・変なこと言わないでくださいよ。ちょっと行って調べるだけですよ?どうせ活動もしていない廃棄された工場か何かでしょう。」副艦長は言った。

「まあ、そんなとこだろう・・そうあって欲しいもんだ。」とチョプラは言った。

 

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