ハッデン月基地に到着
「お越し頂いて、ありがとうございます。」ミンチン博士は満面の笑みを浮かべてハッデンを出迎えた。「ミンチン博士、お元気そうで何よりです。アルテミス達は元気ですか?」ハッデンは言った。彼はミンチン博士のパトロンのようなもの。厳密には地球合衆国政府の最大のパトロン。太陽系でも最も巨大な企業のceoだ。
「早速アルテミス達に会いたいですね。なんでも彼女の力が増大しているとか?」とハッデン。
「お送りした報告の通りです。もちろん他の二人の力も増大していますが、アルテミスは飛び抜けています。戦闘機で戦いながら相手の機体を破壊できます。他の二人は戦闘に集中してしまうと、攻撃の精度が下がってしまいますが。」ミンチン博士はアルテミス達がいる部屋に向かいながら言った。
「やあ、久しぶりだね、3人とも。」ハッデンは言った。「こんにちはハッデンさん。お会い出来て嬉しいわ。」とアルテミス。「ども・・」これはリクト。
「こんにちは、ハッデンさん。」タカシは言った。タカシもハッデンの事は好きだった。不思議と力を持つ自分たちを恐れない。
「お待ちしておりました。ハッデン様。」先に到着していたオリオンの端末が言った。
「アルテミス、君は戦闘しながら相手を破壊する事も出来るんだって?」ハッデンは言った。「そうよ、出来るようになってきたの。自分でシールドを作りながらも出来るわ。」とアルテミス。
「ホントに?そんなことまで?」タカシは驚いて言った。僕達より遥かに上に行ってしまったようだ。大丈夫なんだろうか?僕たちは、お払い箱になってしまうのかな?不安そうにリクトの方を見る「そんなことにはならねえよ。」リクトはタカシに耳打ちした。
「ではアルテミス・・・君は今ここで、私を殺すことも出来るんだね?」ハッデンは微笑んでいる。「何故?そんな・・そんなことはしないわ。私・・そんな風に見えるの?」アルテミスは驚いた。私は、そんなことをして嫌悪されるのだけは嫌。だから心も読まないようにしていたし、すごく尊重しているつもりなのに・・・。
「ああ、ごめんよアルテミス、そんなふうに思っていはいない。ただ可能性を言っただけなんだよ。それに「私を」と言ったのは言い過ぎだね。誰かを、だ。例えば敵を。」ハッデンは言った。「殺していい人?それなら出来るわ。」アルテミスは言った。彼女は時々、道徳心などないかようなことを言う。「そう。殺してもいい人だ。それなら出来るんだね?」彼はあくまでも優しく言った。
早速、火星軍掃討のためにアルテミス達の出番が来た。
「あの子供、アルテミスと言いましたかな?実戦投入いたしましょう、大統領。」合衆国軍、総司令官が言った。彼は超能力者などというものは、人類にとって危険だと思っている。あわよくば戦闘で死んでくれればいいと。
「まだ・・子供ですよ?」大統領秘書官が言った。「それがどうした。君は黙っていればいい。」と総司令官が言った。
「まあ、あんな力を持っているんだ。そう簡単には死なないだろう。それに、役に立ってもらわなければならない。大変な費用をかけたのだからな。」合衆国大統領が言った。
ここいる者で一人を除き、皆超能力を恐れていた。何故こんな結果に?そう思っていたのだ。まさか本当に生まれるとは思っていなかった。あんな力・・・映像を見てさえ信じられない。。そして驚異なのだ。彼らに近づくことさえ願い下げだ。
「そうですね。確かに・・・彼らは脅威だ。皆さん内心では恐れているのでしょう?邪魔で優秀な部下を最前線に送る、いい方法です。彼らが、どれほど役に立つか見ることもできる。一石二鳥では?」心の中ではアルテミスを支持する議員の一人、リー・ササヅカが言った。彼はあえて真っ向からの反対はしなかった。
「君はあの研究を支持していなかったかね?」他の議員の一人が言った。傲慢で不遜な感じの男。
「支持?ええ・・支持していましたよ。しかし合衆国の為に役立つと思うからです。あくまでもね」ササヅカは言った。これは半分嘘だ。心の中ではアルテミスたちが、死ぬとは思っていない。いつかは合衆国の指導者を排除することを彼は予感していた・・・お前たちの命もそう長くはないかもな・・・ササズカは心の中で呟いた。
「あんな子供が乗るのかよ?」パイロットの一人が格納庫に現れたアルテミスを見て言った。
弱いものを見ると侮辱したくて仕方がない心の醜い人間。それがここにいた。でも厄介なことに彼はパイロットとしての腕は良いのだ。本当に・・厄介なことに・・・。アルテミスのほうへ飛んでいくパイロット。彼女とすれ違いざまに頭を叩く。パイロットの方を見るアルテミス。
「何故?そんなことをするの?そんな事は良くないわ。あなた心の醜い嫌な人ね。その思考が、あなたの不幸の原因よ」彼女は言った。パイロットは途端に顔色を変えた。表情は醜く歪みアルテミスを睨みつけ「なんだと?・・・この女・・」と言った。
幸せな人は意地悪しない。古今東西の法則だろう。この男には敵がいる。殺したいほど不愉快な。友人たちも表面上は騒いでいるが、ホントは敵同士。そしてなにより、苦しいほどに求めている恋人はいない。一人とてつもなく好きになった女性がいるが、その人は、彼の思考の醜さに辟易し去ってゆく。つまり彼は図星を刺されたのだ。パイロットはアルテミスに掴みかかろうとした。無重力ではうまく掴めない。これが普通の少女だったら、かなり酷い目に遭わされていただろう。しかし相手はアルテミスなのだ。
パイロットの顔が苦痛に歪んだ。アルテミスは心臓を少し押さえつけたのだ。もっと力を加えれば心臓を止められるけど・・どうしよう?・・彼女は思った。胸を抑え、漂う男。何やら、うめき声が聞こえる。更にホンの少し力を加えた。心臓は止まりかけ、男は意識を失った。アルテミスは男を一瞥し、そのまま戦闘機に乗り込んだ。
「アルテミス・・何てことをしたの!」ミンチン博士である。あの騒動の後、男は医務室に運ばれたのだ。「あの男が悪いのよ?最初に仕掛けてきた。そして私は言葉で言っただけ、事実を。そしたら暴力を振るおうとしたのよ?いけない事じゃない?」とアルテミスは言った。「それは・・・そうだけど・・でもやりすぎよ・・」トーンを落とすミンチン博士。
「そう・・そうね。やりすぎだったかも。でも後遺症は残らないはずよ。その時は、苦しかったでしょうけどね。ごめんさない博士。次はもっと加減するわ」アルテミスはミンチン博士には謝った。しかしパイロットのことなど、どうでも良かった。
アルテミスは戦闘空域に向かっている。心の醜いパイロットどころではないのだ。彼女の他には無人戦闘機のみ。彼女は実験台にされているようなものなのだ。お手並み拝見、そういう扱いだ。しかしアルテミスを良く思わない者たちは思い知ることになる。
アルテミスは敵戦艦に攻撃を仕掛けた。敵の戦艦もレーザーで応戦しているが、何故か当たらない。アルテミスの頭の中にはレーザーの照準が見えていた。敵艦のコンピュータを読み取っているのだ。決して未来を見ている訳ではないが、照準が合う前に彼女は逃げることができる。
「融合炉、温度上昇、繰り返します。融合炉、温度上昇。危険です。退避してください。」多少間の抜けた冷静な声が火星軍戦艦の艦橋に響いた。「何だ!何が起きてる?!」その戦艦の船長が言った。
アルテミスは核融合炉を暴走させた。敵艦の中では暴走の原因も分からず、止めることも出来なかった。そして「融合炉、更に温度上昇。退避してください。」猶予は、ほぼない、といったところまで温度は上昇していた。「直ぐに退避命令を出せ!融合炉爆発まで時間がな・・・」その時、融合炉が爆発した。アルテミスは爆発する戦艦から既に離れていた。
「敵艦撃沈。」淡々と言うアルテミス。強い閃光が巨大な艦橋に映し出された。ミンチン博士達は驚きを持って報告を聞いた。「たった一機で・・あの戦艦を・・」アルテミス達に否定的な議員の一人が言った。彼は監視役なのだ。戦闘でアルテミスが死ぬも良し、成果を上げるのも良し、そんなところ。
「アルテミスの力は大変有益ですよ?是非、議員にも良い報告をしていただいきたいわ。」ミンチン博士は言った。「しかし、あんな力を我々に向けられたらどうしますか?」痛いところを付いてきた。
ミンチン博士はアルテミス達を恐れていない。実は、彼女の遺伝子を元に作られた人間達なのだ。つまり子供のようなもの。しかし、他の人間がアルテミス達を恐れるのも、当然なのは理解していた。アルテミスは白人、タカシは黄色人種、リクトは黒人。決してミンチン博士の意図したことではない。何故か成功した3人がこうだったのだ。この事は、何か運命の流れのような物をミンチン博士は内心感じていた。
「恐れるのは、ごもっともです。でも・・彼女たちが我々に歯向かうなんて・・何故、思うんです?」ミンチン博士は、恐れるのが当たり前だと、実は分かっていた。納得のゆく説明など出来ない。ここは誤魔化そう。
思うだけで、自分の脳を破壊できる人間を恐れないなど、普通の人間には出来ないだろう。しかし彼女は敢えて言ったのだ。
「何故?本気で言っているのですか?恐れるのが当たり前、だと思っていましたが・・」議員は言った。「恐れることは・・ないと思いますが。彼女達は、そんな事はしません。事実、私は生きていますよ?」ミンチン博士は言った。
「しかし、あなたは良好な関係を築いています。が、彼女達と、そりの合わない人間は?彼女たちが嫌って、憎む人間にはどうでしょう?例えばあのパイロットのような」と議員。
うるさい男だ・・・ミンチン博士は思った。「彼女達は、普通の人間である私達より遥かに穏やかな人間です。私達のように残忍ではない。パイロットは、とても良くない事をしたのでは?あなたは、もしあんな事をされても、黙っているのですか?」ミンチン博士はしまった、と思った。
「アルテミスは、さっき戦艦を破壊し、数百人を殺しましたよ?」と議員。「命令だからです。命令したのはどなた?」ミンチン博士は言った。
議員はため息をつき「さっきのパイロットは・・確かに良くないでしょう。私がされたら?激怒しますね、でも触れずに心臓を圧迫するなんて私にはできない。違いますか?そして・・やり過ぎです。」と議員。
「やりすぎ・・そうかもしれません。しかし、掴みかかろうと、したんですよ?パイロットは。正当防衛かもしれない・・・とは思いませんか?」ミンチン博士は賭けに出た。かくいう自分も、やり過ぎ・・と言ってしまったのだから。
しかし、議員はそこで黙った。呆れた、といった顔だ。「そうですか・・しかしアルテミスは驚異を与えている、いや驚異になる存在です。」議員は言った。そんな事は分かっている、ミンチン博士は思った。「だから・・そのことに対処は始まっているのよ。」ミンチン博士はふと呟いた。「対処、とはなんです?」議員は言ったが、ミンチン博士は答えなかった。
アルテミスはその後、4隻の戦艦を一人で沈め大勝利を収めた。が、その事は、彼女を恐れる人々を更に恐れさせただけだった。この結果を見てアルテミス暗殺を考える者も、その思いを強くしていた。