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アルテミス  作者: 田中嘉彰
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ロシナンテ号

「まもなく月軌道を越えます。」無機質な声が響く。ヨシュア達の貨物船は、今のところ順調に航行していた。「月軌道を越えちまえば、もうこっちのもんだろ?」ヤマダは言った。彼はいつでも安易なのだ。「お前さ、ホント安易だな。そういう事言ってると、ロクなことねえんだよ、いっつも。」ヨシュアはうんざりしたように言った。いつも一歩立ち止まって考えるヨシュアが尻拭いをしているからだ。しかしそんなヤマダをヨシュアは捨てられない。なんだか気が合うのだ。


 貨物船の窓からも地球が大きく見えて来ている。合衆国軍の戦艦に何度か身元をチェックされたが、トランスポンダーも偽のIDも効力を発揮していた。「スゲエちょろいじゃん。」ヤマダは言った。確かに上手くいっている。案外こんなもの、なのかもしれない、テロリストの活動なんて。所詮、地球のヤツラは間抜けぞろい。


「後10分で大気圏に突入します。着席してください」貨物船のコンピュータが淡々と発音する。「どの辺りに着くんだっけ?」ヤマダが言った。


「そのくらい覚えてろよ。ロシア州のエカテリーナ空港・・」その時だった、「貨物ブロックの扉が開いています。貨物ブロックの扉が開いています。」コンピュータの棒読みの声。


「何だ?貨物ブロック?」とヨシュア。「開くのなんておかしくねえ?大気圏突入だぜ?」とヤマダ。「ロシナンテ・・・すぐに調べろ。何が起きてる。」ヨシュアがそう言うと、スクリーンに貨物ブロックが赤く表示された。


「すぐに扉を閉めろ、ロシナンテ」とヨシュア。しかしロシナンテは言った「貨物ブロックは真空だった為、酸素損失なし。ただし私の管理を受け付けません。独立した命令を受けている模様。繰り返します。貨物室は独立した命令を受けています。私にはコントロールできません。」

 貨物ブロックに行こうとするヨシュア。しかし、その時既に貨物ブロックからはミサイルが発射されていた。「高熱源体、本船から急速に離れて行きます。」発射されたミサイルは7発、その中には5基の核弾頭が搭載されていた。


「なんだそれ?あ、あれじゃねえの?」ヤマダが見る方向に、いくつかの光の点が見えた。地球に向かっているようだ。「ミサイルなのか?地球に?」ヨシュアは嫌な予感を思い出した「これだったのか・・」

 地上の迎撃ミサイルが発射され、大部分が破壊された。しかし4発の核弾頭が地表に着弾した。


「成功・・と言っていいでしょう。」ストルムグレンと共にスクリーンを眺める男。

「ヨシュア達は上手くやってくれた。当人達でさえ、知らなかったのが幸いしたな。」ストルムグレンは呟いた。

「しかしよろしいのですか?部下を騙してしまいましたが」ストルムグレンの傍らにいる男が言った。「革命に犠牲は付き物・・・月並みだが仕方ない。」彼はヨシュア達を見捨てることなど、何ともも思わない。


(すぐにそこを離れて・・・)アルテミスは幻影を見ていた。見知らぬ男の子が何かに狙われている。何が狙っているか分からないが、とにかく良くないものなのだ。


「お前誰だ?」虚空を見つめながらヨシュアが呟く。「どうしたんだよ、おい、ヨシュア?」ヤマダの眉間には皺。ヤマダの呼びかけに答えない。こんな時にヨシュアは狂ったみたいだ。


「とにかく逃げて、そこから逃げないと、あなたは死ぬわ。何かは分からない、でも危険なのよ」アルテミスは言った。「そんなこと言ったって・・・何で?」とヨシュア。


「おいヨシュア?おーいダイジョブかー?」ヤマダはヨシュアの目の前で手を振った。

「理由なんて私にも分からない。でも言ってる事はホントなのよ。驚異が近づいてる!私にはその力があるの。だから・・・」アルテミスはなるべく誠実に聞こえるように言った。「分かった・・」そうヨシュアは言うとヤマダに向かって言った「逃げるぞ。7Gまで加速する。すぐ座れ」


「ロシナンテ。今すぐ地球から離れろ。緊急事態だ。7Gまで加速しろ」しかしロシナンテは「目標を設定してください。でなければ発進出来ません。」


「お前使えねえなあ・・・太陽だ。太陽に向かえ」ヨシュアはイラついたように言った。船体が方向を帰るのがわかる。「了解しました。命令を実行中です。席に着いてください。緊急加速・・・開始します。」ヨシュア達は既に席に着いていた。


 太陽と聞いてすぐ、ロシナンテは姿勢を太陽に向け始めていた。緊急加速が始まりヨシュア達はシートに押し付けられた。「2G・・5G・・気分は悪くありませんか?緊急加速を停止しますか?」呑気なロシナンテ。

「いや。このまま加速を続けろ・・ロシナンテ、トランスポンダーを切れ」ヨシュアは言った。「なんで切るんだよ?」ヤマダは言った。二人共7Gの加速で、喋しゃべるのが苦しそうだ。「俺たちは地球を攻撃したテロリストだぞ。きっと戦艦がやって来る。」ヨシュアは言った。

 

 地球合衆国軍司令部ではロシナンテ号を補足し攻撃衛星からミサイルを発射した。

「目標、太陽方面に向かって急激に加速しています。」オペレータが言った。「戦艦も向かわせろ。決して逃がすな。」と司令官は言った。


 かなりの距離を感じた。あんな距離を越えて通信出来た事がアルテミスには驚きだった。

「多分、彼は地球の近くにいた。」今は通信が途絶え、アルテミスは彼らの事を知ることが出来ない。もう一度彼らの事を見ようとしたが、上手くいかない。当然だ、遠すぎるのだ。


「ロシナンテ号との通信は途絶したままです。何かあったんでしょうか?」ストルムグレンの部下の女が言った。ヨシュア達は通信を遮断していたが、彼らの呼びかけは聞いていた。「こいつら、しれっと呼びかけて来てるぜ」ヤマダは吐き捨てるように言った。

「いや・・・このことを知っているのはストルムグレンとか上の数人だけだろう。呼びかけてる下っ端は何も知らないよ、多分」とヨシュア。

 

 本当はミサイルの発射20秒後にロシナンテ号は自爆するはずだった。しかし作業員がいい加減で爆発しなかったのだ。所詮テロリスト集団。酒を飲みながら適当に付けたのだ。その事をストルムグレンが知った時、その作業員は殺される。

 

 それを知らない今は、地球への核攻撃が成功してストルムグレンは満足していた。早々に録画してあった地球への宣戦布告メッセージがあらゆる周波数帯で流された。


 地球側は好都合とばかりに火星に攻撃を仕掛けた。元々攻撃するつもりだったのだから。しかし今は不意打ちを食らわせた、卑劣な火星に正義の戦争を仕掛けるのだ。

 

 地球合衆国大統領の動きは素早かった。火星側の何者かが核攻撃を仕掛けた。理由はそれだけで十分だったのだ。確証も持たないのに、火星への核攻撃が実施された。

 

 火星への核ミサイルは迎撃衛星によって少しは防がれた。しかし迎撃衛星そのものも完全にミサイルを防げるわけではない。よって少しずつ破壊されていった。降り注ぐ核弾頭に火星は焼かれていた。迎撃衛星も火星表面への核弾頭着弾を徐々に許しつつある。火星近辺にいた戦艦だけでは、全てを防げない。

 

 戦艦を広範囲に分散させすぎていたのだ。 火星の大統領は戦争などしないつもりだった。火星側は油断していたのだ。ストルムグレンは最良のタイミングで戦争を引き起こした。

 

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