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アルテミス  作者: 田中嘉彰
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アルテミス

月の女神・・・その矢に疫病を載せて人を殺す。


「この船は月へ向かってるのよね?」とアルテミスは言った。

「そうよ。知ってるじゃない?気になることでもあるの?」彼女たちの子守役(監視役?)のミンチン博士は言った。彼女はアルテミスを造った研究のリーダー。


「いいえ。何となく、不思議な感じがしただけよ。だって私の名前って月の女神の名前でしょう?そこに行くのね」アルテミスは言った。


「綺麗な名前だよね。アルテミスって・・」その様子を見ていたタカシはうっとりするように言った。彼はアルテミスのことが少し、好きみたいだ。「そう?ありがとう。実はね、私も気に入っているのよ。」とアルテミス。


 「今日はアルテミス達が月に到着する日ですね。」オリオンの声は心なしか嬉しそうだ。


「君たちは仲がいいね。ああいう力を持っている人間は、同じ人間よりもコンピュータが好きなのかな?」若い科学者は言った。彼に悪気などはない。しかし少しだけだが、力を持つ子供達に対する侮りのようなものをオリオンは感じ取った。


 「久しぶりー。オリオン。寂しかったわー」オリオンの端末であるロボットに駆け寄るアルテミス。本体のコンピュータは大きすぎて人のサイズには収まらない。

 「私も寂しかった。会えて嬉しい。ようこそ。ツィオルコフスキー月面基地へ」オリオンはアルテミスに抱きつかれながら言った。

「よっ、オリオン元気そうじゃん。」こう言ったのはリクト。ニヤニヤしている。何がおかしいのだろう?

 「ごきげんよう、リクト。あなたも元気そうですね。」アルテミスに抱きつかれながらも微動だにせず、顔だけリクトの方に向けてオリオンは言った。


「こんにちはタカシ。あなたもお元気そうで良かった。」とオリオン。「ありがとオリオン。僕も会いたかった。」タカシは静かに言った。


 彼らは特別な絆で結ばれているようだ。少なくともタカシはそう思っていた。

 

 どんなに、笑顔で話せていたとしても、力を持たない人間達との関係を、タカシはどこか違うと思ってしまう。そして何より、向こうの人間もそう思っているのだ、そう感じているのだと。彼はその思いを払拭できない。

 

 アルテミスは黒い炭酸飲料を飲んでいる。未だにあるのだ。不変の飲みもの。

 部屋にある大きな窓からは、ずっと続く月面と星。本当に美しい、アルテミスは思った。大きなテーブルの向かいにはリクトとタカシ。


 「座らないの?いつも座らないけど?」アルテミスは言った。オリオンは人間の様に疲れたりはしない。しかしアルテミスがそう言うなら、とオリオンはゆっくりと腰掛けた。


 「私は疲れませんよ?それに執事は座らないものでは?」その言葉にアルテミスは驚いたように言った「あなたは友達よ。ほかの人より遥かに・・」

 

 アルテミスもタカシ達も、決して人間に心を許してはいない。少しでも関係が悪くなれば、化物扱いされてしまうのだ、心の底でそう思っていた。

 近くに普通の人間はいないので、アルテミスは安心してそのセリフを口にした。


 「アルテミス、今は良いですが、他の人に聞かれると感情的な軋轢が発生するかもしれませんよ?」とオリオン。

「そうね、もちろん他の人、がいないのを分かって言っているのよ」アルテミスは怒っているふうでもなく言った。

 

 地球合衆国と火星連合との戦争のあと、どちらの陣営も、なりふり構わず兵器研究に巨費を投じた。その中で意外なものが大変な進歩を遂げた。遺伝子操作の分野。

 

 ミンチン博士は手を触れずに物を動かすことができる人間を誕生させたのだ。多くは力を使うたび脳に障害を起こし実験半ばで死亡した。アルテミス達はやっとのことで完成した作品。


「あの子供達・・たった3人。兵器としては役に立たないだろう?」でっぷりと太った国防長官は言った。元々、生物兵器などより派手に惑星でも吹き飛ばせる兵器を望んでいる男だ。

「しかし、あの力は使いようです。特にアルテミス。彼女は表層の意識なら読める。訓練を積んで、思考を誤魔化すことが出来るようになった人間の意識は読めませんが、その技術は誰でも習得出来る訳ではありません。彼女をスパイにすれば、例えば火星の極秘事項も知ることもできるかもしれません。」痩せて背の高い男が言った。彼は秘密警察のトップ。


 この会議には地球合衆国大統領も出席していた。近く火星侵攻作戦が実施される。合衆国は今度こそ火星を全滅さるつもりなのだ。あの生意気な元植民地の奴らを。

 

 一方火星では・・・。「傲慢な地球人たちを皆殺しにしなくてはならない。」火星軍司令官は吐き捨てた。


「また戦争?こちらも人口の半数近くが死んだというのに?」火星の大統領は言った。惑星間戦争で火星は人口の半分ほど、地球は三分の一程を失っている。      


「あなたは弱腰だ。何故だ?何故彼らの肩を持つ?」と火星軍司令官。司令官だというのに、この男は大局を見ていない。次に戦えばどちらも滅びるだろう。まったく愚かな。火星の大統領エリザベスは思った。


「私の役目は火星の人々の安全を守ること。あなたの方法では守ることなどできないと思いますが。」本当は、政治力だけでここまで来たボンクラ、と言ってやりたいのを彼女はこらえて言った。「もう一度戦争になればあなたの太鼓持ち達も、いなくなってしまうかもしれませんよ?」と火星大統領エリザベス。


 和平への道を模索しているエリザベス大統領。しかし地球は違うのだ。好戦的な火星軍司令官の方が実は正しかった。でもそのことを、火星の人達は知らない。ボンクラの言っていることの方が正しいだなんて、なんて皮肉なのでしょう。


「俺たちに何ができるって?」だらけた感じの若者が言った。

「だからさー俺たちで何かこう・・・でかいことしねえ?って事だよ。」これは仲間と思われる一人。

「お前はいつも夢みたいなことばっかだな。具体性がねえんだよ、具体性が、何だよ、でかいことって、口だけじゃん。」頭で手を組みながら彼は言った。彼の名前はヨシュア。

 

 彼らの汚い溜まり場。親は一応中産階級のちょっと上くらい。でも既に軽犯罪を幾つも犯しているヨシュア達は親に見放されている


「アイツら、遅えなあ。何してるんだ?」とヨシュア。

「どっかで遊んでんじゃねえの?俺らのこと忘れてるんじゃねえ?」ヤマダは言った。

 

 そうしていると、いきなりドアが蹴破られた。「両手を見せろ。ヨシュア・バル・ヨセフ。デビッド・ヤマダ。お前たちを逮捕する 」そのロボットの顔には高出力レーザーが付いていた。それが狙っているのは明らかだ。

 この界隈で一回目の警告を無視すれば、すぐ殺される。人権無視モードだ(これはヨシュアたちがふざけてつけたモード名)

 ダルそうに、俺らは怖くなんかねえ、と言わんばかりの態度でヨシュアは、ゆっくりと立ち上がった。

 

  警察署内で、二人はテロリストを助けた疑いで取り調べを受けていた。

「お前らのようなクズがテロリストを助けるから、奴らがのさばるんだよ」刑事とみられる男はテロリストの画像を見せながら言った「こいつの逃亡を手伝ったのは分かってるんだ。」

 

 しかし、写真の男はヨシュアには見覚えのない男だ「俺、知らねえよ。こいつ」

「嘘をつくな。全部バレてんだよ」苛々した言い方で刑事は言った。短気な男らしい、内心では怒り狂っている。黙っているヨシュアの襟首をつかみ「さっさと認めちまえ。でないと、もっとひどい目にあうぞ」この男は暴力も辞さない男なのだ。ヨシュアのような者は弁護士など呼べない。惑星間戦争以来、スラム街に、たむろっているような連中には人権など認めない、といった空気が優勢になってしまっている。ヨシュアも罪を認めない限りかなり殴られるだろう。

                   

 目の前に浮かぶコップ。アルテミスは何を飲もうかと迷っている。ここは月面にある施設にある彼女の部屋。扱いは結構良い。彼女はやっと実験に成功した完成品なのだ。表面上は大切に扱われている。

 

 部屋には様々な飲み物が用意されていた。ホテルのスイートルームのようだ。

アルテミスは、この窓を割ったら、私どうなるのかしら?そんなことを考えてしまう。まあ、その時はすぐ、自分の周りに空気を留めるけれど。

 「あまり考えすぎない方が良いわね。割っちゃいそう・・・」その証拠に窓ガラスは少し振動し始めている。彼女はかなり正確に力をコントロール出来る、少し考えた位では勝手に物を壊したりはしない。しかし、あまりにも感情的になると制御できなくなる時もある。「もっと訓練しなきゃ」彼女は独り言を言った。

 

 その時部屋のベルが鳴った。ドアを開けるとそこにはタカシがいた。「行こうよ。練習」

「もうそんな時間?分かったわ。ちょっと面倒くさいけど行かなきゃね。」アルテミスは言った。


 だだっ広い格納庫のような場所。リクトは既に、そこにいて金属の破片を弄んでいた。


(遅くねえ?)リクトは言葉を使わず二人に語りかけた。金属片をゆっくりとアルテミスたちとの間に移動させる。

(そんなに遅れてないわよ。それにリクト、遊んでたんでしょう?)とアルテミス。


「非音声通信で話さないで、私が分からないわ。」これはミンチン博士。無言のまま一定時間佇んでいるのを見て、非音声通信をしているとミンチン博士は気づいたのだ。


「そうね。声で話すわ。今日は何をするの? 」アルテミスは言った。念動力の精度を上げるための訓練。三人の精度はかなり高い、だが、動かそうとする物とは違うところに焦点が当たってしまうことが時々ある。それでは兵器としては役に立たない。


「さっきリクト凄かったわね。あんなに重いものを持ち上げてた。何キロくらいあるのかしら」とアルテミス。「分かんねえ。でも2~30キロはあるんじゃねえの?」リクトは何てことはない風で言った。

「そんなに重たいやつを?僕もやってみようかな。」タカシが言った。そしてリクトが持ち上げていた金属片に意識を当てた。ゆっくりと金属片は空中に浮かび上がった。「かなり・・疲れる・・・でも・・なんとかなる。」とタカシ。


「お、できんじゃん。タカシ結構、力が強くなってんな」リクトは言った。この三人の中では一番力が弱いのはタカシだ。でもそんなタカシをリクトは見下すでもない。


「まあ凄いわ。タカシの力も強まっているじゃない!」ミンチン博士が言った。

ミンチン博士は母親のようだ。この力を自分に向けられたらどうなるのか?そんなことは考えてもいない。他の職員達はどう思っているのだろう?科学にとりつかれて、そんな発想などないのだろうか?

 

 小惑星帯にある植民島。巨大なドーナツ型密閉空間の中に数万人が暮らしている。周りの数百万キロには他の植民島はない。火星連邦の為の資源採掘の拠点。大部分がロボットによる採掘だが、主にそのロボットのメンテナスのために人間はいる。一応火星連邦の支配空域だが、地球や火星で落ちぶれた者が一攫千金を夢見てやって来る。しかし大部分は落ちぶれて犯罪に手を染めるか薬物で死んでゆくかである。

 

 オリオンのように自意識があるコンピュータは、ハッデン産業、太陽系で最大の大富豪ハッデンをceoに頂く巨大企業、の特許なのだ。使用できるのは地球合衆国政府だけ。今とのところは。


 火星連邦の弱腰政策に我慢ならない者たちがここにいた。

「俺たちは痛めつけられてきた。あいつらだ。地球の奴らに!」演説をしているのはストルムグレンという男。背が高くがっしりとしている。でも顔つきは理知的に見えた。良い服を着てメガネでもかければ、あのでかいインテリ、と言ってもらえたろう。


「今の政府は地球の奴らの靴を舐めて金を得ている。そんな奴らに、いつまでも、いいようにされて君達は本当に良いのか?うんざりしているんじゃないのか?」聴衆の中には頷く者もいる。「俺は耐えられない。今すぐにでも奴らの頭を吹き飛ばしてやりたい。」ストルムグレンは言った。

 

 一体、彼らの愛国心とは何だろう?少なくとも、火星の現政権に向かってはいない。だって現政権を彼らは憎んでるんだもの。では火星の文化を愛しているのだろうか?しかしそれは、自分たちが信じている限られた火星の文化。違う形のものを火星の文化と信じている者もいるのだが・・・。

 

「俺たちに何をしろって?」ヨシュアの顔にはアザがあった。警官に殴られたのだ。知らぬ、存ぜぬを繰り返して、こんな目に遭ったのだが、ストルムグレンは彼らに弁護士をつけて釈放させた。実際、下っ端のヨシュア達は何も知らないのだ。しかし、それはちょうど良かった。これから地球に核を打ち込む貨物船にヨシュア達は乗り込むのだ。もちろんヨシュア達に本当の事は教えない。

 廃棄物から採った希少金属を運ぶ運搬船。それなら地球を守る攻撃衛星の軌道内に入ることができる。そしてミサイルを発射した後、その宇宙船は攻撃衛星から攻撃されるだろう。しかしチンピラの命などストルムグレン達にはどうでも良いことなのだ。

 

 「君達には地球へ行ってもらいたい。資源運搬船に乗ってもらいたんだ。そのために助けたのを忘れるな。」ストルムグレンはハッキリと恩を売った。

「運搬船?はあ・・まあいいっすけど、それだけ?」ヨシュアの質問にストルムグレンは「ある人を運んでもらいたい、地球にいる、ある人物を我々の元に連れてきてもらいたいのだ。もちろん普通に連れてくる事はできない。彼は指名手配されてるからな。」これは嘘だ。そんな人間はいない。しかし捨て駒がそんなことを知る必要はない。

 

 退屈な力の訓練。アルテミスは、この訓練は好きじゃない。

でも次は戦闘機に乗ることができる。やっぱり戦闘機よねえ。アルテミスは、戦闘機訓練は気に入っていた。新しい力が発現しつつあるのを、前回発見してから。

 

 「準備はできていますか?」コクピットにいるアルテミスにオリオンが言った。ここにあるのはオリオン本体ではない。

 しかし通信が生きている時はオリオンがアルテミスをサポートする。「私がいつも一緒にいて差し上げられれば良いのですが。」とオリオン。

 「あら大丈夫よ。あなたのサポートの方が嬉しいけど、この子もそれなりに優秀。」アルテミスは戦闘機に内蔵されているコンピュータを指差して言った。

 

 月面から急加速して飛び立つアルテミス。「加速しすぎでは?体は大丈夫ですか?普通の人間では気絶している筈ですが。」とオリオン。その声は心配そうだ。

 そうなのだ。有に10Gは超えているが、彼女は力を使って重力を中和している。三人の中で最も力が強いのが彼女。

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