第三話 国家間及び民族間の信頼関係を破壊するならず者!月山 明博(げつさん あきらひろし 78歳)に天誅のチュー!前編
夜の公園ではアベックを十数人の人影が取り囲んでいた。
「兄ちゃん持ち金あるだけ出せや?彼女の前でええカッコしようとすんなよ?タバコで目え焼いたろかい?」
「こっちのお嬢ちゃんのほうはかなりの上玉じゃねえか?たっぷり可愛がってやるぜ?抵抗すんなよ?タバコで目え焼いたろかい?」
在日チョン星人グループ「タバコで目え焼いたろ会」のアベック狩りである。
普通は大人でもこの人数に囲まれれば動揺するものだが、この少年少女はやけに落ち着いていた。
少年はやれやれといった表情で連れの少女のほうに顔を向け、呆れた様に一言こぼした、ナ?言った通りダロ?と。
少女は瞬間唇をきつく結んでから、それでもわたしは―――と寂しげにつぶやいたのだった。
―――同日 朝 鳳凰学園――――
ここは鳳凰学園初等部第4学年1組教室、この物語の主人公である旭日 旗子の在籍するクラスだ。
「チョン星人の強制連行なんてまったくの大嘘じゃん!」「嘘吐きチョン星人さん!ハイ!ド論破ァ!」
「なんだとチョッパリ!差別だ!ヘイトスピーチだ!謝罪と賠償を、このポルジャンモリジャップ猿どもに要求する!」
朝も早くから香ばしい罵り合いが、教室の空気を限界まで悪くしていたが、当然、当人たちにそれを気にする様子は微塵も無かった。
「ちょっとあんた達!やるなら教室の外でやんなさいよ!」「そーだそーだ」
クラスメイトである双子の根斗 右与太郎&右与次郎(ねと うよたろう&うよじろう)と在日チョン星人の白 信愚たちの言い争いの間に旗子が割って入り、朝のホームルーム開始を待つ周囲の友人たちがそれに同意の声をあげる。
「なんだよ旭日ィ!嘘吐きの差別主義者を退治して何が悪いんだよ!」「日本の敵を吊し上げるのは正義!ハイ!ド論破ァ!」
「チッ、メス猿が!女のくせに生意気だぞ!そういえばお前のアボジは人殺しの自衛隊だったな!戦犯国が生意気に軍隊持ってんじゃねーよ!レーザー照射すんぞ!」
―――チヨニ!ヤ!チヨニーッ!―――
「(ほう、旗子のやつ、衆目のなかで変身しよったわ!肝が据わっとるのう!)やばっ!ムカついた勢いでつい変身しちゃった!(考えも覚悟も無かったンかい!)こつんてへぺろ!」
「旗子ちゃん!ボクが旗子ちゃんに変身するからそれでやり過ごソuyp…!」「(おお!はやぶさ殿!機転が利くのう!)ナイスだよ!大好き!はやぶさくん!」「ッ!!カレシなんだしこれぐらい当然デsy…!」告ってもいないのに彼氏アピールだけはこまめに入れる、ちょっとウザいはやぶさくんであった。
突如、最近噂の魔法少女ラスフちゃんが教室に登場して、騒然とするクラスメイトたち、どうやら間一髪で旗子がラスフの正体だとばれていないようだ。
旗子が魔法少女に変身したように見えたが、ラスフとは別にそこには旗子がいたので問題無しッ!…この旗子、多少昭和を感じさせるロボットチックではあったが…「ミンナ ナカヨク シマセウyp…!」…問題無しッ!からの―――
「ネットウヨクに天誅のチュー!」
魔法少女は双子の根斗兄弟それぞれに必殺技天誅のチュー!で日本の心を口移しにチュー入した!
「君たちのやっているのは愛国行動なんかじゃないっ!日本国に対する愛国心や天皇陛下に対する忠誠心といった大義を掲げて、自己の暴走行為を正当化しているだけの未成熟な自己顕示でしかないんだよっ!」
「(わらわにも言わせてくれんか?)いいよ!んんっ!猿に日の丸の旗を振らせるのは簡単じゃが、その意味を解らせるのは難しいからのう!若い時分に麻疹にかかるのは構わんが、手遅れになる前に自ら決着をつけよ、そなたらも自分自身と日本国の恥を晒しているだけと薄々気づいておるんじゃろう?」
「…日本人ってだけで俺自身が何か成し得た訳じゃないのに偉そうに…今までやってきたこと、日本人の美学に反する、とか、男としてカッコ悪い、と思います…」「匿名で他人を攻撃するの、恥ずかしい事だって、薄々思ってました…ハイ…ド論破されたァ…」
兄弟の独白にクラスは優しい雰囲気に変わってゆく。クラスメイトの少なくない人数が双子兄弟に同情し、そして感謝の気持ちを感じていた。自分たちが踏み外したかもしれない道とその落着地点をこの双子が先んじて見せてくれたのを直感的に理解したからだ。
そんな温かい空気の中でラスフがシメに入る。
「よしっ!じゃあ根斗君たちも反省したみたいだし!」邪魔するような、空気を読めない者はいるはずが―――
「今日一日を気持ち良く始めy「負けをォ!負けを認めたなチョッパリィーッ!」―――いたーッ!!
「反省してるなら今すぐ!戦犯チョッパリのお前らのジジババの墓を暴いて!そこに小便してこい!クソしてこい!チョッパリーッ!」「クワッ!ヘンナ、ドクデンパ、ジュシンシチャっts…!」これにはダミー旗子もドン引きである。
勿論クラスメイトは一人残らず息をするのも忘れてドン引いていた、重過ぎる沈黙に分け入るように始業チャイムが響き渡る、気のせいだろうか、チャイムの音色がいつもより低く濁って聞こえる。
「はーい、おはよーさーん!ってどうしたみんなー?」担任の桜井 斗地治(さくらい とちじ 31歳 男)が舞台に登場する、嵐のホームルームが始まる予感がする。
ロボ旗子と入替るタイミングを逃したラスフも何食わぬ顔をして朝のホームルームに参加していた。かなりシュールな光景だが、教師も、生徒も、誰もそこにはツッコまなかった、否、ツッコめなかったのだ。
「さてー、何が起こったか、誰か教えてくれないかー?」教師の問いかけに生徒たちは目線を教室の後ろの壁に向けることで答えた、そこには
Z 3 7 5 6 4
と黒い塗料で大きく書き殴られていた。それは異様な雰囲気を醸し出し続けている、明確な悪意のある落書きであった。
「あー、その落書きかあー、最近ネットだけでなく街でもよく見かける落書きだなー」ガタン!バン!立上り、机を叩き絶叫する生徒がひとり。「先生はッ!先生はそのZ37564の意味を知っているにも関わらず!なんでそんなに呑気なんですかッ!」
白 信愚だ。桜井の言葉をぶった切るように割って入る。クラスメイトは皆うんざりといったムードで、それを聞き流すことにした。朝からこんなにもイヤな感じに疲れてしまった、という苛立ちすら、そこには無かった。
「Zは在日、37564は皆殺し、そんな凶悪な意味なんですよォ!」大袈裟な身振り手振りで白のワンマンカラオケ大会が始まった。「犯人は根斗たちに決まってる!こいつらを退学にしてください!」
「先生」根斗兄が挙手し、桜井が発言を促す。「その落書きをしたのは僕たちではありません、けど彼にそう決めつけられて、お前の自作自演だろって言い返しちゃって…」
根斗弟が続ける。「それでケンカになって騒ぎになってしまいました、騒ぎの発端を作ったこと、反省しています、みんな」「「ごめんなさい」」同時に立上りクラスメイトに頭を下げるふたり、流石は双子、息がぴったり合っている。
「んー根斗ー、なんかお前たち少しだけ大人になった感じがするなー、先生ちょっと感動したぞー」桜井はメガネの奥の細い目を更に細めて嬉しそうだ、受けて根斗兄弟は照れくさそうにしている、この辺はまだ小学4年生だ。
「アアアアアァ!先生ッ!差別を!ヘイトスピーチを!放置するんですか!それでも教育者なんですかッ!」またコイツかよと誰かが吐き捨てるようにつぶやいたのが聞こえた。誰かの舌打ちも聞こえる。
「先生はな、この日本国では、如何なる差別も絶対に、絶対に許したくないんだ―――」怒気を含んだ厳しい表情になった教壇の男は静かに語った。この瞬間は彼が顧問をつとめる「日本大好きクラブ」の部活動中の表情になっていたのを数人の生徒は認識した。
「―――だから、みんなで、落書きを消そう!」笑顔に変わった桜井につられるように皆笑顔になる、ちょうどその時、HR終了のチャイムが鳴った。ラスフは教室の後方で浮かびながら桜井の見事なシメに思わず拍手をしていた。
「FU!ZA!KE!RU!NA!」ワンマンカラオケ大会セルフアンコール公演開幕である。「アイゴー!なんで被害者の俺まで突き合わされなきゃなんねーんだよ!加害者のチョッパリだけで、俺の為に!在日の為に!この目障りな落書きを反省しながら消すべきだろ!」
「ちょっといいかのう?」発言を求めるラスフ、どーぞと促す桜井。「わらわの神様パワーでこの落書きの犯人見つけることが出来るぞよ?」「んー、みんなー、この提案に賛成なら手を挙げてー?」ひとりを除いてクラス全員の手が挙がる。
「ではー、よろしくお願いしますー」「まかせておけ、ふん!」ペカーと教室の後ろの壁が発光し落書きが消えて、クラスメイトたちのホログラムが教室に現れた。「昨日の放課後はまだ落書きされていないようじゃのう」
「あっ!わたしがいる!これって昨日着てた服だ!」女子はこの現象をすぐに受入て楽しんでいた。「へーわたしって後ろから見るとこんな感じなんだーおもしろーい!」「これこれ、わらわの神様パワーをオシャレ研究に使うでない」ラスフ苦笑いである。
「おっ!おれじゃん!なあ神様、おれこれで自分のピッチングフォームの確認したいんだけど、ダメ?」「ダメに決まっておろう!」このやりとりにクラスメイトたちは本題を忘れて大爆笑である。「夜の間は早送りするかのう」場面は朝になった。
「ッよし!わかったーッ!被害者の俺が許す!ここでおしまい!いいな?おい、早くこれ止めろ!止めロッテ!」白が絶叫したそのタイミングで今と同じ服装の白のホログラムが、まだ誰のホログラムもいない教室に、キョロキョロと辺りをうかがいながら入ってきた。
白のホログラムは鞄から黒い塗料缶を取り出し、刷毛を使って教室の後ろの壁に落書きを始めた、Z37564と。
「ギィエエエエエエ!捏造ッ!これは捏造だーッ!」盛大にファビョる白、暴れている最中に机の横にかけてあったランドセルを蹴り、中から塗料缶と使用済みの刷毛が転がり出てきた、お約束過ぎるドベタ展開である。
「キサマらぁ!チョッパリの分際で!よくも絶対的被害者の在日チョン星人様にィ!恥をかかせたなぁあああ!恨!恨!恨ッ!ハンッ!ッアイゴー!アイゴー!」白が教室を飛び出していったと同時に一限目開始のチャイムが鳴った。教室をまるごと脱力感が包み込む。
「あー、なんだか騒がせてしまったのう、お詫びにこの落書きはわらわが消しておくぞよ?」「神様、ありがとうございました、みんな御礼しよう、ハイ!」クラス一同「ありがとうございましたー!」元気で無邪気な御礼の言葉がラスフに降り注ぐ。
「そうじゃ、これからはラスフちゃんと気軽に呼んでくれんかの、神様と呼ばれるのはちと恥ずかじゅうての」照れくさそうなラスフにクラスのみんなは笑顔だ。男子だけでなく女子の一部からも熱い視線が投げかけられていた。ラスフちゃん、人気者の自分にまんざらでもなさそうだ。
「で、ラスフさん、もし出来たらでいいのですがー、落書きに関してはー、ゴニョゴニョ…」「ほう!いいぞよ!承った!チヨニ!ヤ!チヨニーッ!」
教室の後ろの壁に書きなぐられていた凶悪な文字が消えて、新しくピンクの可愛らしいサインが浮かび上がる。
三 七 七 四 九 R S F
歓声がわきと拍手がはじける教室。「ミンナナカヨク ラスフ ダネ?イイネコレ ボクモ8823ッテ カイテイイかna…!」「これ!今しばらく旗子の身代わりを大人しく務めんか!」魔法少女の戦いは続く。
旗子のクラスは、ウヨ曲折はあったものの、いい感じに一日のスタートを切った、その頃、
「もしもし!俺だよ!聞いてくれよ酷いんだよ!クラスのチョッパリどもが寄ってたかって俺を差別して…そう!だから『タバコで目え焼いたろ会』のみんな招集して、今日の放課後…」
白はなにやら不穏なコンタクトをとっていたのだった…
中編に続きます、お付合い頂きたくよろしくお願い致します
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