第二話 逃亡詐欺師!カルロス・ゴーン太 66歳に天誅のチュー!
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日の出は山に僕の影を映す
もう いっそのこと この堤防をぶち壊してしまおう
その 僕が僕自身に言わされた叫び声 土砂降りの中の作業員全員 兄弟全員が眩い光と共に 今 共鳴した
僕達に銃を突きつけ 堤防決壊を それはやつらの幸せを守るためだけの作業 強要され時々刻々と 殺され 殺されてゆく無数の兄弟たち
もうやめだ もはやなぜ今まで
守れといわれた堤防を 僕たちはやっとで壊し始めた すべてを破壊しつくすのだ やっとで始まりだ
ほどなく堤防は決壊するだろう 間違いなく僕らも奴らもみんな みんな残らず死ぬだろう
まっとうに生きているにもかかわらず それが報われないのであれば 神に逆らう理由は もう 充分にある
それでいいのだ
そうでなくては いけない
そうでなくては いけないと知れ
BY AKARU
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「ヤ、ヤバイ、俺モノ凄い天才的な詩を!ランボーとかボードレールとかそんな連中軽くぶっ飛ばす詩を!創作っちゃったよヤバイだろ!」
―――翌朝―――
「な!な!な!なんじゃこりゃーぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
深夜に詠んだONOREポエムに翌朝悶える、小見川 耀 13歳、これが若さである。
「発狂すんなヨ!見どころあるヨ!」「な、なんだお前!幻覚!?」「オイラはただの気狂いピエロだヨ!一緒にぶっ壊そうヨ!堤防とか、クフフ…」「ひっ、ひぃぃぃ!」
気が付けばアカルは、ピエロ姿の美少年と仲良く一緒に、日の出の光が強く刺さり込んだ部屋で、大爆笑しつつ大発狂しながらタコ踊りを乱舞るしていた、そう、これもまた若さである。
「「ジョーカーで浄化!」」
合体するピエロ姿のインターネットの神様とアカル、後に魔法少女ラスフが最狂のライバルと認める、反逆のアイドル(自称)おじゃまジョーカーくん誕生の瞬間である。
―――同日午後 首相官邸前――――
魔法少女ラスフちゃんとおじゃまジョーカーくんが対峙している、間には黒い大きな箱があり、周りには官邸警備隊やマスゴミ報道陣が騒然と取り囲んでいる。
「ちょっと、ちょっとー、何よジョーカーくんって?重症の厨ニ病じゃない、こっちまで恥ずかしいんですけど?で?どのジョーカーにやられたの?ホアキン?それともジャック?」魔法少女ラスフの先制攻撃だ。
「AKIRAに出てきた方だヨ!」「え?そっち笑?(こやつ…、わらわから一本とりよったわ笑!)」ジョーカーくん、すかさず反撃する、ちなみにアカルがジャックのジョーカーを崇拝しているのは図星である。
「犯罪者匿ってたウン国家バレノンくんだりからゴン太運んできて、これから見せ場なんだから邪魔しないでよねー」「ボク、塵を拾って帰ってくるのは得意なんデsx…!」はやぶさくんドヤ顔をしながら援護する。
「その見せ場!仕上げのお手伝いをさせて頂きましたヨ!ソレッ!」パンパカパーン!間抜けな効果音と共に開くゴン太愛用の音響機器収納ボックス。これは確かにラスフがゴン太を詰めて運んできたものだが、中から現れたのは…!
「無罪ッ!無罪ですぞーッ!」飛び出してきたのは犯罪者ゴン太を海外に逃がした主犯非国民、弘チュー弁護士だった!「これでゴン太は無罪ッ!ワタシの無罪請負人の名声は守られましたぞーッ!」
血まみれ全裸の弘チュー弁護士がゴン太の生首を掲げる、ゴン太の額には黒い油性マジックペンで大きく「無罪」と記されていた。「うわっ!なんか今、変な毒電波を受信シtq…!」はやぶさくんドン引きである、両脇のパネルで懸命に頭のアンテナを覆い隠そうとしている姿が可愛らしい。
一方マスゴミはヨダレを滝のように流しながら、降ってわいたイイ画に大歓喜である。「ヒャッハー!ヨタ公商事の時より絵ヅラキツイぜーッ!」悪趣味の極みだがそんなマスゴミを許している大衆もまた悪趣味の共犯者と言えるだろう。
騒然とする首相官邸前、ラスフは固まったままだ。「…(おい!旗子、しっかりするのじゃ!)」冷笑を顔に貼り付けて近づくジョーカーくん、ラスフの肩を抱き寄せてマスゴミに向き直りピースサインを突き出す。
「コレ!オイラたちふたりでやったんだヨ!」「…!(くっ、こやつ侮れん!共犯者にされてしまったぞ!)」瞬くフラッシュの洪水、そこで我にかえり突き飛ばすようにして距離を取るラスフ、だがもう遅い、ここにきてやっとで旗子は理解した、状況最悪の大ピンチになったと。
「わたしたちがやったのはゴン太に天誅のチュー!して箱引きこもりにして捕まえただけだよね!?(そうなんじゃが分が悪いのう、わらわたちはそれを証明出来ん!)」「そもそもゴン太のサンプルリターンが越法行為だyk…!」
「オイラのお姫様!お困りデスかァー?まあコレを見てヨ!オイラにかかればザッとこんなもんサ!」ジョーカーくんが手を挙げると空一面に映し出されるネットの各種書込み、すべてラスフちゃんとジョーカーくんに好意的なコメントばかりである。
それもそのはず、彼はネット世論を操作する能力を持っているのだ。「オイラは笛を吹くだけサ!後はみんなが勝手に踊ってくれるんだヨ!」そしてまた彼は悪しき者たち同士を争わせる能力も持っているのだ。「そこの弁護屋もオイラの『浄化』活動に使わせてもらったヨ!」
「(ちょっと俺にマイク返して)オーケーだヨ、んん、ラスフちゃん、君も俺も目指してるのは同じ『新しい社会』だ、共に闘おう!」「…例え悪人とはいえ人間同士で潰しあいをさせるなんて、こんなやり方…わたしはイヤ!わたしは人間の良心を信じる!」
「(アカルー、話になんねーヨ)ラスフちゃん、君のその考えを俺は尊重する」けれど、とアカルは続ける「「良き人が助け合って共存する世の中は、悪しき獣が潰し合って破滅した後に誕生する、モンだヨッ!」」ジョーカーくん、攻撃を再開する!負けるな!ラスフちゃん!
「あーもうっ!うるさいうるさい!あんた間違ってる!あたし正しいっ!いくよっ!(応じゃ!)」「えっ?ちょっ!?」「おじゃまジョーカーくんに天誅のチュー!」「ギニャー!(なにこの超展開!フザけてるヨ!)」ラスフちゃんの口撃!一発喰らうもすぐに離脱するジョーカーくん。
「マズイ!今ので術が解けるヨ!」ゴン太の生首がフェイクの作りものに戻った!マスゴミの皆さんは大あわてだ!「ヒャッハー!フェイクニュース流しちまったーッ!」「「いまさらダヨ!いまさらじゃろ!(あ、ハモった)(きゃっ、ハモっちゃった!)」」
「(けど良かった、ゴン太生きてるんだね!)油断大敵じゃ!来るぞ!」「反撃するヨ!ジョーカーで浄化!」ジョーカーくんが突き上げた手のひらをクルリと返したのと同時に、突如ネット世論が手のひらクルーを始めた!
今やネット世論はラスフちゃん叩き一色である。そしてラスフちゃんの正体特定が進んでいた。ネットの匿名者が如何に悪質で醜いかを見せてくれている、これにはラスフちゃん半泣きである。「なんで…なんでジョーカーくんはあたしにイジワルすんのよ!」
「二回も無理矢理キスされたからだよ!この前のは俺のファーストキスだったんだぞ!」「えっ?ジョーカーくんの正体ってアカ…むぐぐ(これ!ここで本名出したらマズイじゃろ!)」「(アカル!ヤバいヨ!)俺を、知ってるのか?マジか!(ハイ、テッシュー!)」逃げ足の速いジョーカーくんであった。
ジョーカーくんが退散すると同時にラスフちゃんのネットでの大炎上は沈静化した。大健闘のラスフちゃんを称える拍手と歓声の中マスゴミ報道陣がラスフちゃんを取囲む。「ヒャッハー!今の政権はクソです的な発言プリーズ!」
「(わらわたちが懸命に護っているのがこんな連中だと思うとため息が出るのう)そう言わないで、みんなの良心を信じましょ?」いい笑顔のラスフちゃん、カメラに向き直って渾身の投げキッスだ。「天誅のチュー!」マスゴミとその視聴者は少しだけ、ほんの少しだけ良心を取戻した。
「ところでゴン太は?(おや、箱の中に何かいるようじゃのう)あ、ゴン太ここにいたよ!(うむ、じゃが天誅のチュー!で自閉症になっておって箱から出たがらないようじゃの)」ちなみに後にゴン太は裁判に箱に入ったままで出廷し、天誅のチュー!で注入された良心から素直に罪を懺悔し、以前の様な盗人猛々しい発言はひとつもしなかったというが、それはまた別の話である。
「(む、強力な神体反応が迫って来ておるぞ)だね、はやぶさクン!」「うん!戦闘機もーdp…!」高速離脱するラスフちゃんが振り返る。「(おや、あの追手のヤマタノオロチの背中に乗っておるのは)お父さん!?」陸上自衛隊通信団超常通信隊所属、旭日 昇(あさひ のぼる 31歳)の登場である。「陸自の緑の制服着て颯爽と働くお父さんカッコイイ!!」
「対象を深追いするな!国民の安全確保を優先するぞ!」マスゴミがヤマタノオロチから降り立った自衛官に詰め寄る。「ヒャッハー!なんでもっと早く来ないんだよ!守れよ俺達を!暴けよラスフの正体を!」「いやあ、憲法が改正されればもっとスピーディな対応が出来るんだけどなあーチラッチラッ」「テレビカメラをチラ見しながら、大人のかけ引きっぽいことしてるお父さんなんか見たくなかったよっ!(大人はいろいろあるんじゃ)」戦闘機は夕日に溶けて誰からも見えなくなった。
―――翌日早朝 鳳凰学園――――
旗子がいつもより早く登校しているのは、自主練習で毎朝早くに校庭を走っているアカルに会うためだ。グラウンドが見えてくるにつれてなぜだか強い胸の高鳴りを感じる旗子、これはジョーカーくんの正体に相対する前の緊張からだけなのだろうか。彼女はとにかく彼に会って話をしたいと思ったのだ。
(あたし二度もキスしちゃったんだよね、まあ、あたしっていうかラスフだけど)小中高一貫のこの学園には5年生が1年生の登下校を補助するシステムがあり、それが旗子とアカルの出会いであった。(今までこんな風に意識したこと無かったのにヘンだな)ちなみにいつも旗子の肩に乗っているはやぶさくんは、今は上空で嫉妬に悶えて味噌練り状態だ、これも恋、これも青春である。
部活のラグビージャージ姿で汗を流し走るアカルが見えた、その瞬間、旗子は胸の奥でレモンが握り潰されたかのような刺激を感じた。だが、不思議と旗子はひるまなかった、むしろ歩の進みは力強くなっていた。走り終え肩で息をしているアカルに近づく。
「や、やーおはよー」「おう、ハタコちゃん、おはよう」ふたりともいい笑顔だ「ねえアカルくんさ、魔法少女とキスしたよね?どんな、風に感じた、のかな?」震え声の問いかけに、真面目な顔になり一呼吸分考えたのち応える、校庭にチャイムが鳴り響く。「あの時はなんだかわからなかった、けど今の俺の気持ちははっきりわかる」鼓動の高鳴りがチャイムの音をかき消している。「俺、ラスフのことが好きになった」「…っ!」ほどなくチャイムは余韻を残し鳴り終わった。
「そ、そうなんだ頑張ってね!アカル先輩」「おう!」(そうだよね、アカルくんが好きになるとしたらわたしじゃないよね、でもラスフもわたしな訳だし、うーんなんかスッキリしないなー、そうだ!)アカルに近づいてその肩に手をかけて引き寄せ「ねえ…!っ天誅のチュー!なんちゃって!」旗子はアカルの頬に軽くキスをした。
驚いた顔で旗子を見つめるアカル、対して旗子はイタズラっぽく笑っている、この年頃だと恋は女子の方が数枚上手だ。「じゃ、じゃあねー!ラグビーも恋も頑張ってねー!」スキップのようなあやうい足どりで真っ赤に染まった頬を隠しつつ走り去る旗子、呆然とたたずむアカルはつぶやく「…この感じ、旗子ちゃん、君はひょっとして…」
そんなアカルを、校庭を取囲むように植えられた、満開の桜の木にとまっている八咫烏が嫉妬の業火を轟々と燃やしつつ憎しみを込めて睨みつけていた。
「ゆー るー さー んー ぞぉーっっっ!!!絶対に許さんぞおおおぉぉぉ!!!」ゾクッ!全身に悪寒を感じるアカル、汗が冷えたか?否!「これは!殺気!ってうわあああ!なんだこのカラスども!ヒッチコックーッ!ひぃー!」次の瞬間、八咫烏に率いられたカラス軍団のくちばしアタックの餌食になるアカル!いきなり大ピンチだ!
その八咫烏を操っているのは「絶対に、絶対に許さんぞおおおぉぉぉ!!!」旭日 昇、そう旗子のお父さんだ!ちなみにアカルを襲撃しているカラス軍団にはなぜかはやぶさくんも混じっていた!「オラッ!シャオラッ!サンプラーホーンアタックを喰らいやガrw…!」このはやぶさくんノリノリである。
「ジョーカーくんに変身してやっつけるぞ!(ダメだヨ!この八咫烏は陸自の所属だヨ!今変身したら身バレして取押えられちゃうヨ!)公安じゃなくて?ってあれ旗子のお父さんじゃんか!」アカルはネットの神様の眼を通じて八咫烏に憑依している旗子の父が見えた!そう、超常通信隊員である昇の超能力のひとつである!「絶対に、絶対に許さんぞおおおぉぉぉ!!!」「ひっ、ひぃぃぃ!(娘LOVE過ぎダロ!)」
一方、そんな男たちの修羅場とうって変わって平和な初等部4年生の教室では「おはよーはた子!」「おはよーたか子!」「昨日も大活躍だったじゃん!お疲れちゃん!」「ありがと!」旗子が親友の竹島貴子とおしゃべりに花を咲かせていた。「フェイクニュースの殿堂、アカヒ新聞社が自主廃業路線に入ったって今朝発表があったね!」「だね、これまでのアカヒのフェイクニュースが原因で起こった事件の後始末が終わった後で廃業するってね」
「これってやっぱり昨日のラスフちゃんの天誅のチュー!が効いたのかなあ?」「わからない、でも―――」旗子は教室の窓越しに見える富士山を背負いながらつぶやいた。「―――わたしは信じたい、マスコミュニケーションの志が、そしてそれを支えている日本人大衆の良識が、この歴史を作ったのだと」魔法少女の戦いは続く。