Ep.0:何時かの日
なろうには初投稿になります、作者です。
某所では二次創作を投稿していますが、一時創作は今回が初となります。
色々と変なことをしてしまうかもしれませんが、温かい目で見守って下されば幸いです。
『Lording……』
合成音声が真っ暗な空間に響く。
僅かに、一人の男がコンソールに手を置く音が聞こえた。
『Lording……』
二人の人間の目の前、大画面半球型モニターの僅かな光だけが、二人を照らす。
バイクに跨る様な姿勢で構えている女が、操縦用のコントロールバーを再度握りしめる。知らず、汗が滴る。その感触を、女はむしろ心地よく感じていた。
『Start up』
突然、真っ暗だった空間に光が灯る。
二人の眼前一杯に、モニターに映し出された均された地面とそれを囲うように建てられた金属製の壁が見える。
『さぁ、両選手とも。
準備はいいかーー!』
実況の声が五月蠅いくらいに備え付けられたスピーカーから聞こえる。
二人と、今回相対することになった選手が、双方とも機体をドックからアリーナへと進める。
「行ってこい」
コンソールに手を置いて座っている、メカニック兼オペレーターを務めている男が送り出す。別に機体その物に搭乗しているわけではないのだが、女の気分は否応なしに盛り上がっていた。
「ああ、行ってくる。
勝って来るが、相手も相手だし派手に壊れると思うから……」
「後で整備してくれってことか?
いつものことだろ」
呆れたような声音で、けれどどこか優しみを感じられる口調。いつもと変わらぬ声音と、その相方の整備があってこそ、彼女はためらいもなく試合に出られる。
(彼がいてこそ、私も存分に試合に臨めるというものだからな)
心の中だけで礼を言いながら、頼もしい相方に見送られ、女は歩を進める。その瞬間に聞こえるのは、割れんばかりの大歓声。
――ワアアァァァァァァ!
二人の気体と相手の選手もほぼ同じタイミングで出てきたからか、はたまた会場に渦巻く熱気のためか。二人にはいつにも増して歓声が大きく聞こえていた。
「さて、いよいよか」
モニター画面に移る相手の機体と、女の我儘で付けられた機体の駆動音をある程度聞こえるようにするシステムのため聞こえてくるアクチュエータの息吹、モニター自身が発する僅かな音、そして最初からついている操縦期のショックドライバから帰ってくる機体が感じている振動。そのどれもが女を刺激し、高揚させて止まない最高のスパイスになる。
それは隣で座ってコンソールに触れている男にも伝播し、二人を試合へと駆り立てていく。
『両選手が出てきたことで、最期の準備が整った!
いよいよカウントダウン!』
司会が試合開始まで間もないことを告げる。
――3!
観客も一緒になってのカウントダウン。
――2!
凡ての選手にとって、何度味わっても、格別の興奮を覚える瞬間。
二人の背筋をゾクゾクとした感覚が駆け巡る。
――1!!
ひときわ大きなカウントダウン。
――0!!!
その叫びが聞こえた刹那、女は思考ではなく反射で機体を動かす。それは相手も同じだった。
ガキイイイィィィ!!
金属同士が打ち付けられ合う、硬質な音が大音量で響き渡る。
楽しい楽しい試合の始まりだ。