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シュートの悪魔9  作者: 神楽京介
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シュートの悪魔9

「すいません、これ間違っていたので、お願いします」

短期で来ている人が凍りついた。60歳を超えてるだろうこの人は申し訳なさそうに頭を下げた。

ここはとある地域区分局の輸送ゆうパック部である。シュートになだれ込む荷物をひたすらパレットに入れるだけの単純仕事だ。だが、この人は正しいパレットに荷物を入れることにさえ苦心していた。

「 難題だな」

休憩中に暴言を吐いた男はいつのまにか後ろにいた。彼にとって繁忙期は初めてではない。夏にも短期の人と接する機会はあった。だが、この冬はひどいと彼は思っていた。

「冬は夏に比べて人が集まりにくい 。年賀要因は集まりやすいが、パックはそうというわけではない」

この男は夏に比べて冬の方が時給が高いことを指摘した。

「だが、夏の暑さに比べれば、冬はだいぶ楽なんだが、ほとんど年賀に流れてしまう。仕方ないことだ」

この男はそう付け加えた。

短期の中に見知ったおばさんを見かけた。おばさんが手を上げたので彼は近づいていった。

夏に来ていたおばさんが冬にも来ていた。リピーターは郵便局にとって心強い。それでも、なぜ、辛いゆうパックの機会区分に来たのかと問いかけたかった。でも、それを吐き出すことは出来なかった。

休息時間に入り自動販売機でジュースを買っている時に、あの短期の人が来た。ジュースを買うのかと思って譲ったが、自販機にお金を入れる様子はない。荒い息をしながら、壁に身を委ねていた。

「大丈夫ですか」と声をかけるとうっすらと笑った。どう見ても大丈夫には見えなかった。

「今、休息時間ですので、体を休めてください」

彼が、そう言ってもこの短期の人は申し訳なさそうに笑みを浮かべるだけだった。

いつのまにか、この短期の人はいなくなっていた。担務表にこの人の名前がない事を残念がっていいのか、それとも安堵していいのか、彼は迷った。

とある地域区分局の輸送ゆうパック部に来る人は様々だ。昔読んだ漫画を思い出していた。様々な事情がある人が集まってくる外人部隊である日戻ってこない人がいる。彼にとってはここはそういう戦場だった。夏に来て冬にも来てるおばちゃんがけたたましく話しながら、通り過ぎていく。

沈んでいた彼の心が少しだけ浮上していた。

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