後悔しても仕方ない話
だが、どうやって――――?
「はぁぁぁぁ……」
秋葉は堪らず顔を両手で覆った。だからそれはスレイヴの手も借りて探さなければいけない問題なのであって。
自分一人焦ったところでどうしようもない、悠長に待つしかない。なにせこの世界には錬金術なんていう素晴らしい技術があるのだから、おそらく帰れないこともないはずだ。
しかしそれでも、と秋葉は頭を悩ませる。
もし時の流れが違っていたとして、向こうに帰ることができる頃には何年もの時間が経過していたとしたら。戻っても、誰も自分の存在を知らないなんてことになっていたら、と考えると胃が痛くなるばかりだ。
色々とあったせいか、ネガティブな思考ばかりが秋葉を追い詰めていく。
これはあくまで自分の想像でしかないのだから、スレイヴに聞かないことにはわからない問題なのだ。いや、もしかするとスレイヴでさえ知らないのかもしれない。
その当人は今部屋におらず、だがどこかに出掛けたわけでもない。風呂でシャワーでも浴びているのではないかと、秋葉は部屋を見渡した。
後ろ向きな考えばかりをしていては、一向に前には進めない。そればかりか段々鬱陶しくなってくるので、とにかく今は振り切ったほうがいいのかもしれない。
本当なら秋葉もシャワーを浴びてさっぱりしたいところではあるが、もう贅沢など言っていられない。自分のこの状況だ、寝泊まりさせてもらえるだけでも感謝をしなくては。
秋葉は自分の姿を見下ろし、そのまま重苦しい溜息を吐き出した。
制服だって本来なら脱いでしまいところだ。だが他に服がないのだから着替えることだってできない。皺にならないよう気にかけて横になるしかないのだ。
自分の持っていた鞄を見つめては後悔する。学校の体育着さえ持ってきていれば、とわざわざ異世界で肩を落としてしまった。
「こればっかりは後悔しても仕方ない話だよね……。あとでスマホにこれから揃えなきゃいけない物をリストにでもして、メモしておこうかな」
居候が図々しくベッドなど占拠できるはずもなく、秋葉はソファーに横になった。やはりどうしても寝にくいが、こればかりは我慢するしかない。
しばらくぼーっと天井を見つめていると、段々と眠気に襲われてくる。風が吹いているのか、外で葉の擦れる音が聞こえ、またそれが耳に心地よい。
特に抗うこともせず静かに目を閉じると、余程疲れていたのかすぐに意識は沈んでいった。
明日のことは明日考えればいい、とりあえず今はもう何もする気が起きないのだと秋葉は静かに眠ることにした。眠いから後ろ向きなことばかり考えてしまうのだ、きっと。
若干肌寒いような気がし、受け取ったばかりで申し訳ないがスレイヴに貰ったローブを毛布代わりにしてソファーの上で丸くなる。
これからどう話が進んでいくのか、自分の立ち振る舞いも踏まえ、自分に出来ることを明日から実行していかなければならない。灯りは後でスレイヴが消してくれることだろう。
秋葉は瞼を閉じ、深呼吸をした。
秋葉が眠りについた後、部屋に戻ってきたスレイヴがわたわたと一人焦っていたなどと、すでに眠っていた彼女は知る由もない。