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第1章  第2幕  Eccentrics and the first case

今日も、変人部隊の一日が始まった。


 年の一番若い和田透(わだとおる)。27歳。独身。

 北の地にある警察本部から配属された。郷土を愛する純朴な青年である。

 一応、犯罪心理が専門だ。

 くるくると動く大きな目が、まるでアイドルを思わせる愛嬌たっぷりの顔。

 出身地が東北北海道方面であるにも拘らず、綺麗な標準語を話す。本人曰く地元から出たことはないそうだが。

 この顔で、必殺技を繰り出す和田。

嫌味の無い顔で聞き込み等を得意とし、次々と情報を収集するのである。情報のソースはバラバラだが、殆どが同じ見解を述べることから、その精度は高い。


 和田は、自他共に認めるシャーロキアンでもある。小学生の時に読んだ子供向けのシリーズ本を読み終えた直後、身体に電流が走ったのだという。余程感化されたようで、小学生の間にシリーズ全巻を読破、大人用の文庫本が彼の宝となった。

 日本国内のシャーロキアン親睦団体にも入会し、かの大物作家が作り出したこの世で最も偉大な探偵、シャーロック・ホームズを人類のカリスマと呼ぶ熱狂的ともいうべきシャーロキアンだ。

 彼にとって聖典とも呼べる大人向けシリーズ本を片時も手放すことが無く、サイコロ課の机の引き出しには文庫本が並ぶ。


 和田の場合、他のシャーロキアンと比べ、研究テーマが犯罪者心理に著しく傾倒しており、特にホームズ最大の宿敵であるモリアーティ教授の心理を様々な面から明かすべく、己が道を研鑽する日々を送っている。


 何のことは無い。今はまだ、和田は若輩者である。

 サイコロ課内では、ペーペーの1年生として遠慮しながら過ごしているのが実情で、和田は内心がっかりしている。



◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


 日本国内で、毎日のように起きる(おびただ)しい数の事件。

軽犯罪を含めると、何百、多い時では1千件に近づく勢いで事件の数は年々増加の一途を辿るばかり。

国内47都道府県から集めたデータをデータベースに入力するのが和田の仕事だ。

作業は単純だが、お世辞にも、楽だとも楽しいとも言えるような仕事ではない。

 しかし、どんな小さな事件ファイルでもサイコパスの5文字が関係すると思われる事件があるかもしれない。放っておくことの出来ない重要な作業である。

 先輩方の話に交じりたいし、ホームズ研究もしたい、なのに事件が多すぎて入力だけで一日が終わる。

和田にしてみれば、非常に不満の残る生活だ。

 早く新人に来てほしいと願ってやまない、北の地出身の若造クンである。


 入力を続けながら、入力画面を見たまま、皆に向けて報告する和田。

 報告は、データベース入力している事件の中で未解決事件または事件そのものが奇異なストーリーを展開しているものが中心になる。


「皆さん、今日は進行中の事件が一件あります。概要は、A‐9ファイルを見てください」


 それは、都内で発生した児童失踪事件。

 失踪したのは、幼稚園児の男子、5歳。事件後、5日が経とうとしている。男子の両親に、ある程度の資金力があることから、大方の予想は営利目的の誘拐か、いたずら目的の連れ去りという見方で、所轄署及び当該県警での初動捜査が行われた。

 不思議なことに未だ身代金の要求は無く、誘拐の線は消えつつあった。捜査本部の連中が別室に集まり協議を重ね、いたずら目的の連れ去りと判断された。いたずら目的の場合、子供を生かしておく例は少ない。

小さな命に、待ったなしで危険が迫る瀬戸際の事件である。


◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


「『うちの子に限って』が一番危ないんですよ」


 それが口癖の、弥皇南矢(みかみあけただ)。38歳、独身。

 児童心理や発達心理を専門にする。

 関西方面の警察本部から此処に来た。弥皇(みかみ)の両親は関東圏住まいだが、一族の本拠地は近畿地方にあるという。普段弥皇(みかみ)は関西弁を話すことはないが、一族との会話時には関西弁を話すのだという。


 一見、ナルシストな気障男。

 奥一重の瞼は切れ長。

 睫毛がとても長く、ある種女性的な風貌を感じさせるも、奥に見える眼差しは深く何を考えているか周囲にも悟らせないような雰囲気を持つ。

 少し鷲鼻気味の鼻がお気に召さないらしく、いつも鏡を見ては溜息を吐いている。唇は薄く、情が薄いと言う諺が当てはまりそうな顔立ち。

 それでいて、女性にはとても優しいフェミニストの一面も見せる。言葉遣い、身のこなし、洗練されたエスコート。まあ、本人にとってナルシストもフェミニストも、その自覚は一切無いようだが。

 ワインと一人旅を愛する、孤独と言えば孤独、自由と言えば自由な生活を好んでいる。


 結婚が墓場と思い知った方なら、この言葉の意味も十分にお解りいただけるであろうか。


 弥皇(みかみ)自身は、結婚に興味がない。

 一族から追い掛け回されているという噂も聞くが、本人に聞いても、上手くはぐらかされるばかりだ。だから、その素性はサイコロ課の面々にも、警察庁の人間にも、ひいては地元警察の人々も、一切知り遂せない。

 サイコロ課の面々は、弥皇(みかみ)が結婚に、いや、女性そのものに興味がないと見ている。

 そのくせ、児童生徒の心理は己が子供を持たないと理解できない、と平然と言ってのける。自分もその一人のくせに。

 どうやら自分だけは特別と考えている節があるようだ。


『うちの子に限って』 

 弥皇(みかみ)曰く、両親が「知らない人についていっては駄目よ」と言い聞かせれば、子供は「うん、わかった」と答える。

 両親は安心する。

 分かったと答える我が子に限って、知らない人間になど付いていくわけがない、と。


 して、その実態はどうか。

 子供は、心の中で両親の言葉を理解していない。

 此処でポイントとなるのが「わかった」というワンフレーズ。

 このワンフレーズがてきめんな効果を発揮する。

 必ず、両親は自分を褒めてくれるからだ。

「そう、いい子ね」

 そして半ば説教めいた親との会話から解放される。

 だから子供は「わかった」と答えるのだという。

 両親を安心させるために言うのでもなく、言葉を理解していうのでもないと。


◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


「全員が全員、そうではないだろうがね」


 反対意見を述べる佐治嘉元(さじよしまさ)。こちらは45歳、妻と一人娘がいる。

 行動心理と犯罪心理を専門としている。

 こちらは南関東の警察本部から来た。

 がっしりした身体の、如何にも警察官という風貌。マル暴も経験済みの眼差しは、一見するとそちらの世界に身を置いた人間かの如く、目の奥まで何もかも見透かしているかのように鋭い。まるで黒豹のようだ。

 某国の大統領に似ていると専らの評判だが、本人は頑として受け付けない。


 佐治自身は、今回のような事件を見聞きするたび、自分の子供と重ね合わせて心を痛めてしまうという。

 なんと素晴らしい父親振り。


 世の父親諸君。そう思っているのは、実は貴男だけなのかもしれない。


 佐治の場合、家庭より仕事=佐治自身を大事にすることに腹を立てた佐治の妻が、佐治が現役を引退したら熟年離婚するつもりだと周囲に漏らしているという噂が当該県警本部や警察庁内で乱れ飛んでいるらしい。

 そのせいか、一人娘にも毎日父親の悪口を吐き出しながら生活しているのだとか。

 今や高校生になった一人娘には、口すら利いて貰えない。

 奥さんが企む熟年離婚への道のりを知らないのは佐治本人のみ。

 それとも薄々気づいているのか、サイコロ課人の面々には殆ど家族の話はしない。家族の話をするとしても、娘が可愛かった子供時代のことだけだ。

 これは噂というよりも和田が仕入れてきた情報で、何件ものヒットがあった。和田の情報網は広く信憑性が高い。洗面所や給湯室で皆が噂しているのを見聞きし、佐治本人に探りを入れた結果だ。

 たぶん、きっと、奥さんの心は変わるまい。


 佐治が何をしたわけでもない。

 男性からしてみれば、仕事が忙しいあまり、家の中を顧みなかったら妻と子に捨てられた、何て理不尽なと嘆くことだろう。

 互いの意向がすれ違った結果とはいえ、必死で働いた結果が三行半では悲しすぎやしないか。

 それとも、何を相談しても夫は暖簾に腕押しで、奥さんのプライドをズタズタにしたのか。

 程度問題ではあるが、月に1度でもいいから奥さんと向き合うべきだったのか。


 人の家庭内をどうこういう権利など、本来、誰にもないのだが。


「全員が全員、親の言うことをスルーしているわけではない」

 佐治によれば、理解せずに親に返事をする子供がいるのは確かだが、幼児は別として、今の小さい子供たちは、自分たち大人が思っているほどのんびり屋ではない。

 損得勘定の出来る子が多い。それこそ大人顔負けに。

 それでも、大人の顔色を窺い、両親の求める答えを常に考える嫌いは確かにある。これは弥皇(みかみ)と同意見だ。

 佐治は皆の言葉を制するような素振りで次第に声を大きくしながら持論を展開していく。

「俺達の小さい頃は、両親の言うことがわからないとか、言うことを受け入れられなくて駄々を捏ねたものだけど、今の子供たちには、それが無いように思えて仕方がない。表面的に受け入れてしまう。由々しき事象だと思うがねえ」


◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


「母親と子供の関係だけは、一種異様というか、独特なものがありますから」

 データベースをぼんやりと見ながら、低く太い声で独り言を吐き捨てるのは、我がサイコロ課紅一点、麻田茉莉(あさだまつり)。40歳、独身。

 麻田は北関東からの出向組である。

 T大を出た才女で、しなやかでサラサラの黒髪が印象的なアラフォーのお一人様。

 メガネを掛けているので目立たないが、すっと流れていく二重瞼は少しだけ垂れ目気味で可愛らしささえ感じさせる。

 本人がアイラインを釣り目気味に引いているところをみると、垂れ目を隠したいと見える。黒目が大きく鼻筋やあごのラインも丸みが無くすっきりとしており、お公家の姫君というよりは、洋風ドールといった風情を醸し出す。


 そんな麻田女史だが、此処で「お一人様」などと麻田の前で言ったが最後、その人間は(おの)ずから身の破滅を招く。

 麻田お得意の投げ技を掛けられ瞬殺されるという専らの噂だ。

 事実、柔道における警察官全国大会での成績などを勘案すれば、かなりの腕前を持つ。下手な男性警察官では及ばないと皆が口を揃えるほどだ。

射撃や剣道、体術などにも優れた強者である。

 SPとして警察庁に採用される予定だったが、本人の強い希望でサイコロ課に来たという噂と、当該県警本部内で最初から厄介者扱いされていたという噂が2分する、サイコロ課の美人警官だ。


 麻田の場合は、行動心理が専門だという。

 弥皇(みかみ)同様、ワインと一人旅を愛する本物の「お一人様」である。



 血の繋がり、母と子の繋がり。

 一見温かく深いようでいて、実は脆いというのが麻田の持論だ。


 ネグレクトの始まりも、母親の心理状態が不安定な要素が大きいと見る。

母親になった女性が本来持つべき母性本能が欠落している、女性だけの問題ではないだろうが、と前置きをしたうえで麻田は語る。

 特に離婚し母子家庭になると、子供よりも男に走り、伴侶を求める女性たちが後を絶たない。子供たちなど視界に入れようとせず、入ったとしても邪魔にしか感じない。

 子供を中心に再婚を考える女性など皆無だと、世の母親たちを敵に回すような暴言を吐く。

 その結果、ネグレクトの犠牲になり、川に突き落とされ死亡した子供もいれば、1カ月以上家に放置され餓死した子供すらいる。一番多いのが、同居を始めた男性が子供を嫌い、虐待に至るケースだ。

普通という言葉を当てはめていいかはまた別の問題として、母性のある母親なら、虐待されかける子供を守ろうとするだろう。

 男ばかり追いかけるネグレクトの母親たちは、「暴力が怖かった」と称し、自身の身の安全を図る。子供が暴力を受けていても見て見ぬふりをし、自分を第一にするのである。

大事な我が子が暴力を振るわれそうになった場合、自分が盾となるべき実の母親が、だ。

 子供が虐待されるのを黙って見ているだけ。子供より、自分。

 だから男が付け上がり、家庭内を暴力で支配するようになる。そんな痛ましい事件が各地で起きているのが現実なのだ、と、麻田の怒鳴り声交じりの暴言は続く。そういう理由から、ネグレクト症候群が現在は至る所に蔓延しているのだ、と麻田は力説する。


 一方で、これが、父親が扶養している子供ならどうか?

 父親は伴侶を求めて女の尻を追いかけるだろうか。否。


 勿論働きながら子供の面倒を見る健気な父親から、自分の両親を頼る父親もいる。家事をさせるためか、愛してのことかは知らないが、新しい伴侶を求める父親もいるだろう。

 それでも、ここで一貫しているのが、子供に不便な生活をさせたくないという心理である。継母を迎える子供たちの心理は別として、子供たちが飢えるような生活を好む父親は少ない。

 これは、本能が満ち足りた状態と考えられる。

 自分のDNAが傍にいるから、本能的に守ろうという意識が働くのだろうと。


 とはいえ世の中も様々だ。中には、妻に逃げられ子供だけが残り、虐待に及ぶ例も少なくない。

 DNAを残したいという雄の本能の部分からすると、この手の虐待は起こり得ないはずだ。従って、この場合の虐待は子供に対してではなく、子供の中に、逃げた母親、つまり妻を見ている、と考えられる。持論を早口で一気に捲し立てる麻田。

「課長は、どのようにお考えですか」


◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇


「動物の中でも、人間が一番複雑で厄介だな」


 課長の市毛那仁(いちげともひと)が麻田の力説を引き取る。55歳。妻はいるが、子供はいない。

 深く優しげな眼は、誰もが美男子だった昔を思い起こすことだろう。甘い声で優しく語るその口元は、オジサマながら、とてもセクシー。何故、警察官など選んだのか皆不思議がっている。


 課長曰く。

 他の動物は、殆どが犯罪なんぞに手を染めない。他の鳥が作った巣にいるヒナの卵を追い落して自分の産んだ卵を巣に置くといった事例もなくはないが。

 子孫を残すのが動物としての本能であり、それこそが究極の生への執着だからだ。

それなのに、人間は己の一番大事な本能を忘れつつあるのかもしれない、というのが課長の持論だ。

 母親が夜なべして何かを編んでくれた時代は、何処かにいっちまった、というわけである。


 市毛は元々、警察庁の人間だ。心理学全般に精通していると言われる。

 ところが同期の人間はどんどん昇進しているのに市毛本人はそんなものに興味はない。妻も同様に興味を示さないらしい。できた嫁だと皆が感心する。


 佐治の家庭のように、普通の奥方なら、誰それさんは昇進したのにどうして貴男は昇進しないの、と五月蝿いだろう。しかし市毛の妻は全くそういった類に口を挟まない。

 妻には感謝しているし、とても大事にしている。

そう言って課長はいつものろけ話を皆の前でほざく。


 和田の情報収集は、なかなかどうして、侮れない。課長の奥さんは家柄の良い人で、ある種のイス取りゲームには興味が無く、市毛がやりたいことさえやっていれば満足だという説を集めてきた。

 ということは、かなりの資産家であるということも考えられる。他の説としては、「似た者同士説」これがサイコロ課の中では、一番確率的に高いと言われている。少数だが、市毛自身が資産家の子息という説もある。本人は弥皇(みかみ)同様、肯定も否定もしない。唯々煙に巻くだけだ。


 さて、その市毛が、母親論を語り出した。

 女性が子供を産む限り、必ず母性本能を求められる。

 実際に個のDNAを残したいのは男性かもしれないのに。


 女だから、母親だから子供の面倒を見るべきだという考えが、世の女性と子供を一緒くたにして縛る。かといって、父親と母親のどちらに、より子供が傾くかと言えば、大抵は母親だ。


「一般的には母親に懐くと言うだろう?俺に言わせれば、それはちょっと違うね」


 鳥の子が殻を破って初めて見たものを親だと認識するように、人間の子も産まれてすぐに母親の元に運ばれ、母の匂いを嗅ぎ、母乳を吸う。だから本能的に母親を親だと認識する。鳥の子と本能的に変わらない。

 これが産まれてすぐに別の場所に移され、1ヵ月も粉ミルクを飲んだらどうなるか。本能は混乱し、誰が本当の親かわからなる。実験したことはないが、その子の父と母を天秤に掛けたら天秤は釣り合うだろう、と市毛課長は静かに語る。

 まして、両親のどちらかといる時間が長いほど、そちらに傾く傾向はある。この場合の傾くは、「好き」だけに限らない。畏怖の対象にもなり得るのだ、と。

 だから子供は、専業主婦でいつも一緒に居る母親に肩入れしつつも、どこかで支配されている。母親の言うことさえ聞いていれば怒られない、虐待されない、と子供は思う。

反対に母親は、自分の普段の教育がいいから口答えもしないいい子に育った、あるいは言うことを聞くいい子だから、虐待に発展するような心理状態が解消される。

 ところが、そのような母親になると、段々と独特の心理状態が心の中に芽生えるという。

 自分が居ないとこの子はダメになる。自分がいればこの子は大丈夫。そういったある種の母子コーディペンデンシーに陥るだろう、というのが市毛の意見である。


「なるほど、コーディペンデンシー、共依存ですか。母子関係にも成立するんでしょうか」

 弥皇(みかみ)の問いに、答える課長。

「俺はそう思っている。1950年前後、高度成長期前の母親像と現在の子供から見た母親像を比較したことがある。手元に資料は無いが」

 課長が講釈する、昔の子供と現在の子供から見た母親像の違い。


 昔は虐待ではなく躾として体罰が容認されていたから、虐待の類いは検証の要素から外す。どちらも子供から見た母親への安心感と同時に畏怖がある。

 1950年前後の子供たちは、戦後の混乱した時代で、生きるのに必死だった自分の母親を見て育った。

決して収入が高くない家庭が殆ど。手作りされた洋服や手袋、マフラーなどの小物は、母親が家事の終わった夜遅くに編み始まる。お金が無いから、母親の着ていた洋服や着物、冬ならセーターを解いて子供のために夜通し編む。母親は自分が寒かろうとも、子供には寒い思いをさせまいと必死だった。

冬、目覚めると新しいセーターが枕元にあったことを思い出す年配者は多いだろう。

仕事に家事に忙殺され子供に構う暇さえなく、必死に働いていた母親たち。

だが、子供に当たり散らする場面はあったとしても、子供も母親の疲れを背中で見ていたから一定以上の文句は出なかったとみている、と評する。


「一方で、現在はどうだ?」

 課長が皆を見回す。

 フルタイムで一所懸命働いて夜なべする母親も、そりゃ、まだ残っているかもしれない。

 でも現実的には、コンビニで弁当を買って食わせるとか、冷凍食品やデリバリーで済ます親も少なくない。

 いや、それが悪いというわけじゃない。

 さっき麻田が言ったとおり、子供より伴侶、子供より自分という母親が増えているのは明らかだ。子供と一緒にいようとするだけでもマシであることに違いないだろう、と課長は言う。


 課長が考えるに、物が溢れ返る現代、コンビニやデリバリーなど、働く主婦を助ける商売はこれからさらに増えるだろうと指摘する。

 母親たちは忙しい。

 しかし、昔の母親像と比べると、その違いは鮮明になっている。

 今の母親と比べ、家事労働に時間を取られたのは圧倒的に1950年前後の母親である。時間換算で比較すれば、間違いなく3時間以上は違うであろう。

 とした場合、現在、少しでも楽になった時間を母親たちはどのように過ごしているのか。

 自分の趣味に使うのだという。

子供と遊んだりはしない。子供には必要最低限を求め、母親にとって都合のいい返事をさせ、自分の時間を大切にするのだと。

 子供を大事にするよう父親が進言しようものなら、家事育児仕事をこなす母親と仕事しかしない父親、どっちが大変か考えてみなさい、という強烈カウンターが父親を見舞う。


「ここにコーディペンデンシーは成立しないんだよ。依存する相手がいないだろう?」


 問題は、どちらかと言えば高収入のサラリーマン家庭や、中堅以上の会社社長宅に多い。金に困らず、家事の時間はふんだんにあるか、ハウスキーパーを雇用している。家の中は全てがきちんと、自分の思うとおりに進んでいく。

 そう、何もかもが。

 そしてそこに、子供が組み込まれていく。手塩にかけて子供を育てる。その実態が、過保護なまでに子供を育てる親であり、内的には子供を言葉で縛り支配し、支配されていれば母は何でも自分の願いを聞いてくれるという、母親と子供、共依存そのものの関係を構築していくというのだ。


 と、ご立派な講釈を垂れ流す、今、この瞬間。


 大切なのは、失踪した子供の安否であり、犯人の検挙であろう。

普通に考えれば、失踪事件の犯人像がここでの「問題解決」であり「捜査への道筋」である。

事件の起こる前或いは事件後の犯人や被害者の心理状態が人ひとりの命を左右するというのに、サイコロ課の面々ときたら、一向にお構いなし。

 こんな会話を伝え聞くから、尚更、他の部署では「変人扱い」する。そんな話をしている暇があったら仕事をしろ!と、皆が苦々しく思う、というわけだ。

 それでも、大事な捜査をかき回されるよりは、変人部隊にいてくれる方がまだマシ、という意見が大半を占めているのも、また事実なのである。


 そんな調子で、A‐9ファイルは、話が終わろうとしていた。いつもなら、市毛課長の「はい、次」の合図で一件の報告は終了する。

 だが、その日は課長が何故か言葉を発しない。

 サイコロ課の皆が、「課長。また朝から何か空想してるよ」

 そう思った矢先のことだ。

 課長が常にない行動をとって急に声を発し、皆ドキッとした。


「母親のアリバイは?共依存かもしれない。ネグレクト心理が働いた可能性もあるな」

 和田がデータベースを見返す。

「母親は、子供が失踪したと思われる時間帯、幼稚園のママ友たちと近所の珈琲ショップ店で歓談していたとのことです。ママ友たちの証言も取れています。ただ、その日、母親の携帯電話の通信履歴に、交友関係とは思えない着信が一回だけあるということです。確認したところ、宅配業者の番号でした」

「ママ友たちの証言で、母親に関する何か出ていないか?子供もだ」

 和田の他にも、皆がデータベースにアクセスし、事件概要を読みだした。


 一番のり!っとばかりに佐治が話し出す。

 他を制するように両手を広げ、手のひらを肩の前に置くような、いつもの仕草で。

「課長のいう共依存に当てはまる家庭ですね。一人っ子で過保護に育っている。幼稚園ではやりたい放題か。共依存の反動ですかね」


「共依存だったとして、母親のネグレクトとは話が繋がらないでしょう、課長」

 弥皇(みかみ)は相手が課長だとて、容赦がない。

「ネグレクトなら外に出さず何も施さない。1950年前後の母親を正反対にしたようなものでしょう。この母親はそういう所作は見受けられませんよ。ねえ麻田さん、どう思います?」

 弥皇(みかみ)が麻田の方に顔を向け、一指し指を左右に振りながら麻田を挑発している。


「直感的にだけど、私は、この母親が怪しいと思う」

 子供の粗暴な行動は母親からの抑圧に他ならないように見受けられる。子供が幼稚園で我儘なのは、母親に関係しているのは確かだ。

 これが麻田の推察だった。

 一方で子供の粗暴な行動は、常々幼稚園から母親にも連絡が行っているはずで、ママ友たちも各々の子供から聞き及んでいることだろう。

母親は心の奥底で、この子は自分に恥を掻かせた、悪い子。この子は私の言うことを聞かない、とても悪い子。

 そういった心理に変化してもおかしくないという。

 こうして、今までの共依存から一転し、子供を疎ましく思い、急転直下でネグレクト状態の心理的要素を前面に出し始めるパターンは意外に多いのだ。


「幼稚園で、失踪直前に事件とかは無かったの?和田くん」

 麻田からせっつかれた和田が、急ぎ資料を眺める。

「えーっと、あ、入力漏れでした。失踪の前日、他の園児に暴言を吐いた上に、転ばせてちょっとした怪我を負わせています」

「顛末は?」

「怪我をした園児の母親が謝罪を求めましたが、謝罪は無かったそうです」


 課内の空気が、変化の色を見せ始めた。

 佐治が、先ほどとは打って変わり深く椅子に腰かけている。

 そんな佐治の決め台詞が、出る。

「ジャスト・ミート!」


 サイコロ課内では、珍しく全員が残業していたと見える。

 少なくとも、課内の電気が付いていたのが付近から確認できる状態だった。

 和田が警視庁に出向き、捜査一課にメモを持って顔を出す。和田自身、電話もメールも信じていない。盗聴なんてどこからでも可能だ。出来る事ならフェイストゥフェイスで。

 それが和田の座右の銘。

 捜査一課に近づくにつれ、廊下まで怒号が飛び交うのがわかる。


 其処に運悪く、和田は顔を出してしまった。


 警視庁の連中は、ただでさえ被疑者の行動が掴めず焦っているところに、よりによって捜査一課浅野課長の前にサイコロ部隊如きが顔を出したものだから、和田はその場で浅野課長の前に突っ立ち、ゲリラ豪雨が降ったかのように叱責された。

 頭の先から爪先までびっしょりという、滅多にない体験だ。

 犯人像を語ろうにも、浅野課長が烈火のごとく怒っているのでは、取りつく島もない。


 さて、どうしたものか。このまま帰れば、サイコロ部隊から「幼児の使い」と、バカにされる。

特に麻田さん。

男性全般を仇とみなすような、たまに本気が判ってしまうような上から目線のキツイ態度。その実は可愛らしい人に違いないと和田は信じてやまないのだが。


 などと、考えている暇はない。


 和田は給湯室に回り込んだ。流石に事務の女性は帰っていたが、一課の新米女子警官、遠藤かおりが、げんなりと疲れ切った背中を披露していた。

 遠藤に声を掛けた和田。

 捜査一課に掛けてあった時計はアナログ時計。針は夜中の2時前を指していた。今の時間に残っているとすれば、A-9事件の関係者に違いない。

 女性の苦労話は時として現状までの流れを語ってくれたりもする。進展しない事件にイラつく課内の雰囲気の悪さをねちねちと和田にぶちまけると、遠藤は突然元気になり、和田に向かっておほほと笑いかけた。


 一か八か。


 和田は遠藤に事件終了後ランチを奢る約束を取り付けた。『A-9事件:警察庁からメモ』とデカデカ書きこんで、お茶と一緒に皆の目に入る様、遠藤に頼みこんで届けてもらったのだ。

 机に突っ伏している長谷川巡査部長、磯部巡査部長。

 ここで『こんなもの!』と一蹴されればお仕舞。そのメモは永久に日の出を見ることが叶わず事件は泥沼に嵌る。

 ところが二人はそれまでの仏頂面とは180度変わって美青年になり、メモを読みだしたのである。

 長谷川が磯部に向かって翌朝のゲリラ作戦を持ちかけた。朝5時、明るくなったところに捜査のメスを入れる。

 当然その内容は和田も知って然るべき事案なのだが、捜査一課の連中は先程とうって変わって元気になり、和田を邪魔にする。

「お前誰だ。ああ、変人部隊の1年生か。もうサイコロ課に関係ないだろ。帰れ帰れ」


 和田は廊下で様子を窺うことすら許されず、ぷりぷりと怒りながらサイコロ課に戻った。

「市毛課長!あんまりじゃないですか。夜中に警察庁からわざわざ出向いたんですよ」

「彼らの脳ミソは、自分たちが事件を解決した、に摩り替るのさ。面白いじゃないか」

「だって・・・」

「俺達が纏めた事件経過を時系列に入力することで、捜査一課の人間がそれを基にしながら色々資料書くだろ」

「あ、それずるいです」

「ま、そう言わずに。此処はこういうところなんだよ。それよりお前、都内と四国、間違えて入力してたぞ。俺達が気付かなかったら四国の幽霊事件に発展するところだった」

「そうでした?都内って入力したはずなんだけど」

「そのすっとぼけだってズルい。今日はお相子だ」

「うげえ」

「夜中に資料を一人で持って警視庁まで出歩くのも禁止。誰が狙ってるかわからんのに」

「まったく。こういうのなんていうんでしたっけ。四字熟語。ああ、思い出せない」


 @[が和田の隣に立って、薔薇の花を一輪持ちくるくるとまわしながら、くすくすと笑う。

「折角ありがとう、でいいんじゃない?」

 和田が目を三角にするように下から睨みつける。

弥皇(みかみ)さん、貸し一つ。何か僕の耳に入ったら、速攻で其処等辺(そこらへん)にばら撒いてやる」



◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


 事件を時系列に整理した「A-9事件」の概要。


 送迎バスに乗った園児たちは、午後2時30分にバスから降り、母親たちと合流し帰宅。

 ママ友と称した5人がその後、午後3時に近所の珈琲ショップで会う約束をした。

 失踪した園児の母親が家を出たのは午後2時40分。

 園児が失踪したのは、母親が歓談中の午後3時30分前後。


 歓談が終わり、母親が帰宅した午後4時30分には、園児の姿はどこにもなかった。

 園児には、宅配便が来るので荷物を受け取るよう、その間、出かけないように何度も言い含めておいたという。

 午後3時30分前に、家の前に宅配トラックが止まっていた

 その宅配トラック便を調べたところ、トラック便のドライバーは、何度インターホンを押しても中から応答はなく、留守だったと証言している。

 それらを勘案して午後3時30分前後に失踪したという判断が下ったというわけだ。

 実際には、母親が帰宅直後に閉じ込め、或いは殺害した可能性があり得る。

 送迎バス降車から自宅まで数分、珈琲ショップまで歩いて20分。


 弥皇(みかみ)が呟く。

「ギリギリだな」

「歩けば、だろう?」

 と、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)の市毛課長。 


 課長が話を続ける。

 失踪した、誘拐かもしれないと言われれば、初動捜査で大規模な家宅捜索を行うわけがない。各部屋くらいは見るだろうが、屋根裏や家の下にでも隠しておけば、そこまで見ない。

 ましてや、お金持ちの奥様であり、半狂乱で子供の安否を気遣えば、まさか誰も自分の子供に虐待や暴力をふるう、あるいはネグレクトなどという心理面を考え付かないのが妥当な線であり、誘拐に携わるのが特殊班とはいえ、そこまで考えなかったのかもしれない。

 いや、もし仮に遺体が見つかったとしても、母親は知らぬ存ぜぬを決め込んだことだろう。そのように脳内変換していたはずだ。


 今度は反対に、母親の心理に立ち返り、物事を整理してみよう。

 付近の地理に詳しい母親が防犯カメラに映らないよう、自転車を使って珈琲ショップに行くのは時間的に見て充分に可能だ。自転車は何処かに乗り捨て防犯シールを剥がしておくか、見つかったとしても盗まれたと主張すればよい。手袋さえすれば自分の指紋も出ないし、万が一出たとしても、元々主婦専用の自転車だ。毎日のようにランチなどに参加してその場所まで自転車で行っていたとしたら、指紋があってもおかしくあるまい。


 心配なのは、事件発生後、5日経過していることだった。今まで母親が車で出かけた事実があるなら、車の中を捜索すれば何か出るに違いない。出かけていないなら、家の、そう、居室に置くはずがない。夫がどういう生活をしているか掴めていないものの、死体と一緒に暮らせる人間は、そうそう居ないものだ。

 だから、一時的に台所下の収納を外して何かビニールのようなものに入れるか、大き目のスーツケースのようなものに遺体を隠し見えないように放置しているだろう。

屋根裏に容易に侵入できれば別だが、着飾ることがステイタスの奥様が取る行動としては余りに手馴れ過ぎていて違和感が残る。

この母親は子供を殺めてしまった罪悪感より自分の洋服の汚れを気にするに違いない、とサイコロ課の面々は踏んだ。


 事件の経過を辿れば、腐敗臭が立ち込め始めてもおかしくない時期だ。そろそろ母親に動きがあるに違いない。

「どうして床下と当たりをつけたんですか?」

「警察は自宅に行くだろう?誘拐もあり得るわけだから。庭を掘れば、どうしたって警察の目に付いてしまう。だから、主に女性しか入らない台所、それも床下収納庫の下、と目星を付けたのさ」


 3日後、警視庁刑事局特殊犯罪対策部長が、サイコロ課に姿を見せた。

 皆、直立して敬礼する。

「事件解決への糸口、ありがとう。児童は残念な結果だったが、犯人は逮捕できた。これからも職務に励行するように」


 部長が居なくなってから1分も経たないうちに、だらだらと動き始めるサイコロ部隊。

「課長。あれって誉めてたんですか?もっと稼げってことですか?」

 和田の問いに、首を横に振る市毛課長。

「さあな」


 佐治が顎に親指と人差し指をVの字に当てて、顔を傾け、不思議サインを皆に送る。

「あの事件、被疑者が共依存していたのはわかったが、果たしてサイコパスだったのか?元々、サイコパスが連れ去りを起こしたとして、こちらに事件ファイルが来たんだろう?」


 麻田がさらさらの黒髪をかきあげるような仕草をしたあと、縁がグレーベージュのセルフレームメガネをかける。麻田が声を大にして言うには、このメガネは「近近両用メガネ」だ。周りは揃って反論する。

「それは遠近両用の間違いじゃないのか?」


 麻田は早口に異論を(まく)し立てるばかりか、掌を広げて自分に構うなという所作をする。その割には話たがっているようにも見える。

「みなさん。近近、遠近、この2つには明確な違いがあるんです。私の場合、普段使いのメガネは近視用、辞書や細かい字を見るときは老眼用、データベースと手元の資料をみる仕事中のみ、近近両用を使用しています。近近両用はパソコン等画面を見る距離に合わせますので遠くは見えません。そもそも、遠近両用は、普段使いと老眼鏡を兼ねた商品ですから、2つとも持っている私には必要ありません」


 和田が聞く。

「要は、何本メガネ持っているんですか?麻田さん」

「仕事に生きるには必要な道具だからね。何本でも」

 弥皇(みかみ)が頬杖をついて、麻田をまじまじと観察するように見る。

「コンタクトにすればいいのに。今じゃ遠近両用コンタクトあるんですよ。メガネだと見えない周辺もカバーするらしいし。麻田さんにメガネは勿体無いですよ」

「いいの。私の場合乱視もあるから、どうしてもハードレンズになるのよ。風が吹いた時のあの痛み、忘れないわ。もうしない」

「昔より付け心地良いかもしれないじゃないですか」

「付け心地関係ないから」

 麻田は、残念そうな顔をする弥皇(みかみ)を振り切って、仕事の話に戻る。


「先程のサイコパスの話に戻りますが、私は彼女がサイコパスだと確信しています」

 相手の気持ちはお構いなしに、自分の尺度や気持ちのみを優先させるのがサイコパスである。今回の母親の行動について、まず子供を諌めるのが先決であり、そのために親が自ら頭を下げ周囲に謝るのが、周囲と上手く付き合うための鉄則。

 結局、母親は頭を下げるどころか、父親にも報告していなかった。

 サイコパスは頭を下げることや、自分が諌められることを何より嫌う。サイコパスが頭を下げるとしたら、必要な場合に演技としてのみ。


弥皇(みかみ)くんはどう思う?」

「ハーフハーフ」

「馬鹿か、あんたは」

「失礼。ただ、所轄の取調べ状況は聞いています」

 取調べによれば、夫との確執というか、夫が別の女性と食事していたことで浮気を疑い、精神錯乱状態にあった、と言っているそうだ。輪をかけて子供の幼稚園での出来事があり、つい魔が差したと。


「僕は女性じゃないから分からないけど、食事に行ったくらいで精神錯乱するんですか?麻田さんの意見をどうぞ」

「私の意見が参考になるはずないでしょう、弥皇(みかみ)くん。夫もいないし子供もいないのよ。一つだけ言えるのは、サイコパスには口達者な者が多く、脳内変換力が極めて高い、ということよ」


 佐治が後を引き受ける。

「恐らく夫の浮気のせいにして、情状酌量を狙っているんだろうさ」

 それも、俗にいう、うそ発見器などに引っ掛からないほど、(もっと)もらしく脳内変換された、事実とは真逆のストーリーで。サイコパスのような類稀なる人種は、どんな機械にも反応しない。根っからのサイコパスなのだ。

「願わくば、反省、と言う言葉を知ってほしいものだ。情状酌量などあり得ない事件だから、しっかりと罪を償う機会は与えられる。しかし、反省しなければ罪を償ったことにはならないからな」

 市毛課長の言葉に、皆が神妙な顔で頷いた。


 こうしてA‐9事件ファイルは、まさかの展開で事件解決をみる。

 解決できた警視庁では少しは感謝したことだろうが、他の都道府県警では、サイコロ課の活躍を「あり得ない」と噂し合っているらしい。

 そもそも、どこからサイコロ課の話が漏れたのか。

 捜査一課では浅野課長を初めとし、長谷川刑事など皆が脳内変換したはずである。あのメモは捜査一課が考え付いたと。

 それこそがサイコパス的な考え方ではあるのだが、皆が皆サイコパスに当てはまるわけではない。

 その証拠に、各県警に今回の事件でサイコロ課が活躍したらしいという情報は流れた。


 そんなことはお構いなし。サイコロ課の面々は、今日も我が道を行く。

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