第5話
第5話
遊び終わった後の花火をバケツに入れて、俺たちはお姉さんのところにお礼を言いに行く。
「すみません、夜遅くにお騒がせしてしまって」
「いいのよ。今日は二人ともいないから」
「行かなくてよかったの?」
「今日はパパと二人でデート、って言うし、今日はお母さんお休みの日」
「そんな日にすみません」
「いいのいいの、丈くんにええと……」
「長田です」
「そう、長田くん。二人とも、鞠がお世話になってます」
「いや、こちらこそ」
「トイレ行ってくる」
鞠さんが席を立った。
「丈くん、長田くん」
「何でしょうか?」
「ちょっと最近のあの子について聞きたくて」
「それなら俺より西川の方が詳しいはずです。な、西川」
「そうか? ……そうかもな」
「しばらく穏やかだった鞠の様子が、また昔に戻ってる気がして。まあ、就活の時期だから、仕方ないかしらね」
「そうかもしれませんね」
「あ、この話本人にはしないでね。余計に気を使わせちゃうから、ここだけの秘密で。
でもちょうどいい機会だし、私もゆっくり話してみる」
鞠さんが洗面所から戻ってきた。俺たちはそのタイミングでおいとますることにした。
「またね、丈くん、長田くん」
お姉さんが玄関口まで見送ってくれた。
「お邪魔しました」
帰り道。
「西川はこれからもずっとここにいるのか?」
「まだ分からないな」
「遠距離になったりしたら、大丈夫なのか?」
「大丈夫かどうか……考えたことなかった」
「おいおい、結構差し迫ってる状況なんだぜ」
「うーん」
考えてなかったわけじゃない。でも、ずっと近くにいてくれるなんて、勝手に思っていた。
今日の話を聞いて、急に現実に引き戻されたんだ。
「そういえば、何でお姉さん見て驚かなかったんだ?」
「知ってたから」
「はぁ?」
「1年の時の三者面談で、たまたま会ったんだよ。すごく若いお母さんだな、と思って次の日に聞いた」
「『あれは、お姉ちゃん。お姉ちゃんが、お母さんの代わりをしてくれてるから』って言った。ああ、事情があるんだな、っていうのはわかったね」
「それだけなのか、知ってるのは」
「ああ」
まだまだ深い事情がありそうだ。
そんなある日。買い物をしにふらっと近くのショッピングセンターに向かった。
「おう、西川」
突然に声をかけられる。
そこにあるのは、期間限定でオープンしている小さな店。そしてそこにいたのは……
「あ、にっしーだ」
俺たちが高校に受かるまでいろいろ教えてくれていた人。いろいろな仕事を経て、今はゆかい屋という店をやっている。
「その呼び方を聞くのも久しぶりだな。元気してたか?」
「はい、おかげさまで」
「たまにはうちに遊びに来いよ」
「場所知らないです」
「こんな小さな店ネットにも上げてないからな、知らなくて当たり前か」
手刷りのチラシをもらう。
「他の奴らが元気してるかどうか、知ってるか?」
「鞠さ……小野寺さんと、長田なら」
「ふぅん、鞠さんね。せっかくなら、一緒に遊びに来いよ」
にっしーは生徒一人一人にコードネームをつけて呼んでいた。まあ、単なるあだ名だけど。
俺は普通に西川だったけど、ええと、……たまに「革命」とか呼ばれた気がする。鞠さんのことは苗字で呼んだり、名前で呼んだりしていた。
「鞠って、すごく覚えやすいじゃないか」って言ってたような。
あの頃のこと、少し思い出せたのかな。
その手刷りのチラシを見ながら、鞠さんと一緒にゆかい屋に遊びに行こうと考えた。