第4話
第4話
近くのコンビニにはもう花火は置いていなかった。
「ちょっと歩くけど、大きい店まで行ってみるか」
「最初からそうすれば良かったんじゃないか」
「まあまあ、行こうぜ。夜はまだまだなんだし」
大きい店で大量に買い込んだのはいいが、実際に花火をする会場がないことに気がついた。
「うちに聞いてみる」
「鞠さんの家?」
「近くにうちの持ってる空き地があって。この前友達と花火したときもそこ使わせてもらったから」
「小野寺さんの家って、不動産屋?」
「ううん、違うよ。とりあえず、聞いてみるね」
……今電話で話しているのは、お姉さんなんだろうな。
「使っていいよ、って」
「よっしゃ、行こうぜ」
飲んで、2次会してからの花火大会だから、時間はずいぶん遅くなった。
「とりあえず、静かにやろうな。近所迷惑になるのはアレだし」
「まあな」
鞠さんが家から水の入ったバケツとライターを持ってきてくれた。
まずは手持ちの吹き出し花火。定番といえば定番のやつだ。
「花火って、音もだけど煙がすごいね」
「そうだな、あんまり気にしたことなかったけど」
長田が大はしゃぎで花火を振り回し始める。
「おーい、周りに迷惑かけないようにしろよ」
「こうやって花火持つと、なんかテンション上がっちゃってさ。分かった、静かにしないとな」
「民家は少し離れてるから、あんまり騒がなければ大丈夫かも」
「まあ、静かにするのが一番だ」
買い込んだたくさんの花火はあっと言う間になくなった。
「よし、シメは線香花火だ」
バケツを囲んで線香花火の軸を持つ。
パチパチと弾けた線香花火は、最後に先端で丸くなり、バケツの中に落ちて行く。
「落ちるな落ちるな……あー、落ちた」
「線香花火はいつかは落ちるもんだよ」
「これ、なかなか長いよ」
鞠さんの持つ線香花火は、先が大きく黄色く膨れ、いつ落ちてもおかしくないぐらいだが、なかなか落ちようとしない。
「あ、あ、落ちる落ちる…!」
ぼとり、と線香花火の先から黄色い火の塊がバケツの水の中に落ちていった。
「小野寺さん、そういえば、何系を志望してるの?」
「うーん、教育系、かな……」
「学校の先生とか?」
「それは無理。教育実習諦めたし」
「え、そうなの?」
「選べるのが中学校しかなかったから、もともと行きたくはなかったんだけどね。でも行かないって決めたら決めたで、なんか残念な気にもなるけど」
「教育実習、大変そうだもんな。友達も実習終わったばかりの頃はしばらく死んだ目してたよ」
「地元に残るのか?」
「わからない。東京とかに行けって言われたら、そうするかも」
「そうなったら遠距離恋愛か」
「そうなるかも、しれないね」
鞠さんと離れてしまう。ずっと近くにいた鞠さんと。
それは仕方がないのかもしれない。でも……
見上げた空にはぽっかりと大きい月が浮かんでいた。
急にどうしようもない寂しさに襲われる。