第2話
第2話
でも、どうしても薄れた記憶ははっきりしない。
ひとかた歌って満足気な鞠さんに聞いてみることにした。
「丈くんも歌う?」
「うーん、そうじゃなくて」
「せっかくだし、歌えばいいのに」
話を切り出す。
「中学の時のこととか、覚えてる?」
「あんまり覚えてない」
「俺もなんだよ」
「急に、どうしたの?」
「鞠さんの歌が上手いことは知ってたんだけど、一体いつ知ったのかなって。思い出そうとしても、思い出せない」
表情が少し曇った。カラオケの部屋なんて明かりがほとんどない暗闇みたいなものだから、はっきりとは分からないけど。
「思い出せない。特にあの頃のことは」
「思い出せない……」
「うん……思い出せない。断片的には思い出せても」
「そっか、ありがとう。気持ちよく歌ってる時にごめん」
「丈くんも、歌いなよ」
「ああ、そうだな」
何曲か歌った。
「歌上手いね」
「そうか?」
「昔から知ってるはずなのに、いつから知ってるのかなぁ」
お互いにお互いを思い出そうとしながら、カラオケ店を出た。
さすがにだんだん眠気を感じ始めてきた。
帰り道。
「ちょっと付き合ってくれない?」
「ていうかずいぶん真夜中だけど、大丈夫?」
「カラオケ店で話す内容でもない気がしたから」
まさか、そんな、な。
普通なら期待してしまう……んだろうけど、そんな気配はしない。
すぐ近くの公園に立ち寄った。
二人ともブランコに腰掛ける。
しばらく沈黙が続いた。
ふと時計を見る。日付が変わるか変わらないかぐらいだ。普通の日ならすでにうつらうつらしている時間。俺は明日3限からだからいいけど、鞠さんは明日何限からだ?
そんなことをぼんやり考えていたら、唐突に話し始めた。
「さっきのことなんだけど……」
「さっきのこと?」
「中学の時とか……思い出せないって」
「ああ、それか」
「中学の時のどんなことを覚えてる?」
「うーん……合唱コンクール?」
「クラスの?」
「うん」
「いつの?」
「1年生か……2年生か……な」
「その頃の記憶がないんだ。全部忘れたわけじゃないよ。何組だったとか、部活のこととかは、なんとか覚えてるけど。小学生の頃の記憶の方がはっきりしてるって、おかしいよね」
「記憶がない……」
「記憶がない、というより、思い出したらいけないんだと思ってる」
なんで、と言いかけたが、その顔がとても辛そうに見えたから、言葉を引っ込めた。
「思い出せないことは、無理に思い出さない方がいいって聞いたことがある。精神的なバランスをひどく崩すこともあるらしいから」
「でも、なんで今……?」
「ゼミの後輩に、中学の時の同級生がいたの。今日学年混合ゼミの飲み会で初めて、その人がいるのを知った」
「……」