第5話
第5話
もしかしたら、とは思ってたけど、やっぱりお姉さんだったのか。
「親とあんまり仲良くなくて。実家にいるとすごく疲れちゃって。心配したお姉ちゃんが、うちに来なよ、大学ならうちから通えばいいじゃないって言ってくれたから、今は甘えさせてもらってる」
ドラマみたいだ、って思うけど、これが現実。
「これ以上甘えるのもアレだから、ちゃんと就職しないとね。丈くんは、これからどうするか考えてる?」
「院に行く、かな。理系の学生は院まで行ってないと企業側からも相手にしてもらえないとか聞いた」
「理系ってそんなものなんだね。文系だと院に行くとなんで?って聞かれるらしいし」
「俺もそろそろ仕事辞めようと思ってるよ。院試とか卒論とかあるしな」
「うわー、めっちゃ現実」
「仕事辞めても、またちょくちょく飲もうぜ。長田も一緒にさ」
「うん、たまには息抜きしないとね」
そして、俺たちはいつものような他愛ない話を再開した。二人とも、その話には意図的に触れないように。
「今日はそんなに飲んでないよ」
「そうは見えないんだけどな」
「だって全然平気」
「やっぱり心配だ。ちゃんと家まで送っていこう」
そうしていつものように、俺たちは鞠さんの家へと向かう。
「ただいま」
「おかえり。いつもいつもありがとうね。鞠、お酒弱いのに飲むのは大好きだから、ちょっと心配よ」
「今日は大丈夫、と本人は言っておりますが」
「大丈夫だってばー」
騒ぎを聞いてか、見た所小学校に入るか入らないかぐらいの女の子が眠そうな顔でやって来た。もしかしたら、この前の…。
「まりねえちゃん、おかえりー」
「ただいま、瑠璃」
「じょうおにいちゃんも、おかえりー」
えっ? いま、この子が俺の名前を呼んだ?
「瑠璃が丈くんに会いたいって、ずっと起きてたの。さすがにもう眠くなってきたみたいね。瑠璃、鞠お姉ちゃんと丈お兄ちゃんにちゃんとご挨拶できたし、次はお布団さんにご挨拶したら?」
「パパは?」
その時、後ろからドアを開ける音がした。
「ただいま」
「パパー!」
「ただいま、瑠璃、鞠ちゃん。そしてそこにいるのが丈くんかな」
「大正解」
「千代の話通り、イケメンだね」
俺の話は、どこまで広まっているんだ?
「ごはんは食べてきたんでしょ? お茶でもどう?」
「ありがとうございます」
あえてお茶を頂くことにした。
話の広がりを知りたい。その先に何が待っているかは知らないけど。
また目の前にたくさんのお茶菓子が並ぶ。
「鞠、ご迷惑かけてませんか?」
「いえ、こちらこそ」
「いつも楽しそうに話してくれるから、こっちも安心しちゃって。こんな姿見るの、久しぶりだから」
「瑠璃は?」
「ちゃんと寝たわよ」
「あの……」
「うん? どうかした?」
「皆さんは、俺の話を……どこまで知っているんですか?」
一番知りたいことを、ストレートにぶつけてみた。
「そうね……」
お姉さんは考えこむ。
「たぶん、丈くんが思うよりもたくさん知ってるんじゃないかな」