第4話
第4話
さらに季節は進み、もう半袖の時期。
そんなある日、突然携帯が鳴った。
「悪いんだけど、今日の夜入れる?」
唐突なバイト先からの電話。
「はい、なんとか」
「ごめんなさいね、急にお休みが出ちゃって。お願いね」
バイト先はある程度のきちんとした服であれば問題ないようだが、大概みんなスーツ姿だ。
慌てて着替え、家を飛び出す。
「ふぅ……」
急ぎに急いで、時間よりは早く着いた。
まだ時間がありそうだったので、控え室で一息つく。
「お疲れー」
「あ、鞠さん、今日仕事終わり?」
「うん。あれ? 丈くん今日仕事休みじゃないっけ?」
「いきなり呼び出し」
「あー、たまにあるよね。びっくりするけど」
そう言って、俺の目の前に立つ。
「ネクタイ」
「ん?」
そう言って、俺のネクタイに手をかけた。
「結び直してあげよう」
手際よくネクタイを結び直す。
「はい、出来た」
「てか、なんでそんなに上手いのさ」
「男役の衣装着るときに練習した。舞台って早着替えだからさ、他人の手伝いもしてたし」
「ありがとう」
「どういたしまして。女の子が好きな人のネクタイを締めるって、その人を独占したいとか、……関係を持ちたいとかっていう意味があるらしいよ。独り占めしたいな、丈くんを。もっともっと、ずっと」
笑顔で言う。
ここが控え室でなければ、後に仕事がなければ、俺の理性は大暴走、大爆発していただろう。
「俺も、鞠さんを独占したいな」
「独占禁止法です」
二人で笑う。
「じゃあ、俺も独占禁止法」
「ははは」
その後も、心拍数はずっと上がりっぱなしだった。
数日後の休みの日。
午後から揃って仕事だった俺たちは、帰りに近くのカフェに寄った。
「晩飯食べて帰ろうぜ」
「うーん、うちご飯あるからなぁ」
「じゃあ、お茶でも」
「なんかナンパっぽいね。いいよ、行こう」
とりあえずコーヒーを2人分注文する。
「あー、疲れた」
「お疲れ様です」
「明日ヒマ?」
「たぶん」
「飲み行こうよ」
「いいよ。そういえば、サシで飲みは初めてじゃないか?」
「腹を割って飲もう」
何か話したいことがあるのか。しかも酒を飲みながら。
ちょっと不安になった。
次の日の夜。
俺たちはいつもの居酒屋にいた。
話って、なんだろう。
他愛ない話をしながら、俺は鞠さんが本題を話し出すのを待つ。
「丈くん」
「何?」
何でもない顔をしてるけど、心臓バクバクだ。
「仕事、辞めようかなと思う」
「就活?」
「うん、まあね。お姉ちゃんはまだやりたいことがあるなら院行けば?って言うけど」
「お姉ちゃん?鞠さん、お姉さんいたの?」
「うん、歳が離れてるけど」
「一緒に住んでるの?」
「うん」
もしかして、俺を丈くんと呼んでくれるあの人はまさか……
「あの人は、お姉ちゃん」