第3話
第3話
「遅かったから心配したよ」
「ごめんごめん、ちょっと買いたいものがあってさ」
そう言って机の上に置かれたのは高級アイス、しかも2個。
「丈くん、コレ好きだよね?」
そう、俺はこのアイスが大好物だ。
鞠さんと一緒に買いに行くこともあった。「アイス食べるといつもお腹壊すんだよねぇ」と言ってあまり食べないんだけど。
「アイスの引き換え券もらったから、一緒に食べようと思ってさ」
「ありがとう、うまそうだな」
「今日は私も食べる」
「珍しいね」
「暑いんだもん、たまにはね」
確かにもう夏みたいな天気だ。暑い暑いとみんな言っている。
鞠さんは自分の前にもアイスを置いた。
「チョコレート味だよ」
「もしかして、わざわざ俺の好きな味買ってきてくれた?」
「私もチョコレート味好きだから」
「ありがとう、いただきます」
俺たちはアイスを食べる。
「赤色4号なかったからさ、どこかに買いに行ったんだろうなとは思ったけど」
「ああ、アイス券あったの思い出してさ。まだ時間あるし、いっかなーって」
「でもなんであの自転車が赤色4号なの?」
「赤色で、人生で通算4台目の自転車だから」
「着色料みたいだな」
「それでその名前にした。ちょっと変わった名前だけどね」
鞠さんは面白い感性を持っていると思う。ガチャガチャに見入ったり、駄菓子コーナーに入り込んで駄菓子を物色したり。おもちゃ付きお菓子も大好きみたいだ。
変わってる、と言われるかもしれないけど、俺は面白いと思う。
「可愛いより、ちょっと変わったものでみんなに楽しんでもらえるのが嬉しい」
らしい言葉だ。そんなところも、好きなんだろうな。
アイスを食べ終わったころ、この控え室にだんだん人が集まってくる。
「お疲れ」
「お疲れ、長田」
こいつは長田。俺たちと同い年だが、一学年下。俺たち二人とも面識がある。
「暑くなってきたし、飲み行こうぜ。週末あたりどうよ」
「ああ、いいねえ」
「週末だな」
「あっ、もしかして俺邪魔?」
「んなことないよ」
「長田くんがいると楽しいよ」
「悪いなー、お邪魔しちゃうなー」
「とりあえず、金曜の仕事終わり?」
「私金曜仕事休み」
「あ、それなら別の日がいい?」
「大丈夫、その時間に来るよ」
「よーし、飲むぞー」
俺たちはこの顔ぶれで飲むのが多かった。
たくさん飲んで、大声で笑って、いろいろな疲れを吹き飛ばせるメンツ。
3人に共通の話題があるから、誰かが置いていかれることもない。
他の人と飲むこともあるが、一番楽しいのはこのメンツだ。
俺たちは今回もしこたま飲んだ。
「小野寺さん送っていかないのか?」
「送って行くよ、当たり前さ」
「丈くんと一緒に帰るもん」
「小野寺さんいつもこうだから酔ってるのか素面なのかわからないな」
「だって丈くんのこと大好きなんだもん」
「うん……これは酔っているな、明らかに」
長田もかなり引いている。
家が遠い長田と別れて、俺たちは家に向けて歩き出す。
「具合悪くないの?」
「余裕余裕」
今日は返事をするだけの元気はありそうだ。ちょっと安心した。
家に着く。
「ただいま」
「おかえり。丈くんも、いつもありがとうね」
「まりねえちゃんおかえりー」
「ただいま、瑠璃」
「ねえ、このひとまりねえちゃんのかれし?」
「こら、丈くんを困らせないの。ごめんなさいね。最近の子はあちこちでいろんな言葉覚えてくるからね、まったく」
「いえ、大丈夫ですよ」
まあ、事実なんだし。
でも、ずいぶん歳が離れた妹だな。まあ、そういう話もたまに聞くし、そんなもんかな。
「また明日ね」
「またな」
すっかり夜だ。俺は一つあくびをして家路に向かう。さあ、寝よう。
鞠さんの家族。やはり少し引っかかる気がする。
その違和感の正体を知るのは、もう少し先。