第2話
第2話
次のバイトの日、控え室で。
「この前、びっくりした?」
「そりゃあ驚かないはずないさ。だっていきなりお母さんが出てきたんだぜ」
「お母さん……うん、お母さんね」
言い方が何か引っかかる。
「丈くんのお母さんってどんな感じ?」
「うーん、そう言われると難しいな……」
「何か得意なこととかは?」
「うーん、絵、かなぁ」
「へえ、絵が上手なんだね。丈くんも絵うまいしね」
「そんなことないと思うけど」
「だってパネル描いてたじゃん」
「あれか」
話は高校の学園祭まで遡る。
鞠さんと俺は違うクラスだったが、体育祭で同じ組になった。
「私応援団やろうと思うけど、丈くんもやらない?」
「俺はいいや。パネルでも描いてる」
「了解ー」
30人近い応援団の中で、鞠さんは頑張っていた。学校が終わってからもかなり遅くまで練習していた。
俺は俺で、頑張ってパネルを完成させた。
「パネル、すごい出来だよね。まさか全部描いたの?」
「んなわけないだろ。描いたのなんてごく一部だよ」
「どのあたり?」
「うーん、あのあたり……かな」
自分が描いたであろうパネルの一角を指差す。でもどのあたりを描いたかなんてもうわからない。
「でもやっぱりすごいよね。絵が描けるってすごいなあ」
その時のことを、覚えていてくれていたんだな。
「丈くん、絵描いてよ」
「何の? 似顔絵とか?」
「それはやめて。見てると自分が凹む」
「じゃあ、猫なんてどう?」
「それいい!」
鞠さんが猫好きなのは話しているうちに分かった。よく見たら持ち物のあちこちに猫がいる。
「どんな猫がいいの?」
「三毛猫」
「よし、とりあえず鉛筆描きでいい?」
「うん!」
目の前にあった鉛筆を手に取り、裏紙に猫を描き始めた。
わくわくした目で俺の絵を見つめている。
プレゼントするのに裏紙はちょっとな、と思ったときにはもうだいぶん描いてしまっていた。
三毛猫の模様のあたりは適当だけど、何とか描き上げた。
「はい、できたよ」
「わあ、すごい! 本物の三毛猫みたい~」
「急ぎで描いたから、そんなに綺麗じゃないかも」
「ううん、すごく綺麗だし、可愛い」
「そりゃどうも」
「この猫、もらってもいい?」
「コーヒー代で」
「ケチ」
「嘘だよ。こんなのでよければ」
「ありがとう!」
その絵をしばらく見つめた後、大事そうに荷物に入れた。
「好きな人からものをもらうって、嬉しくなるもんだね」
「喜んでいただけて光栄でございます」
「コーヒー買ってくるね」
「ああ」
遅い。
いつものように外の自販機に買いに行ったにしては遅い。
ちょっと心配になった。
コーヒーをどこか遠くに買いに行ったのかな。愛車である赤色4号を見に行ってみたが、止まっていない。たぶんどこかに買いに行ったんだな。
それから10分ほどして、鞠さんは帰ってきた。