屋敷暮らし
「Nと他との違いは?」
「Nは他のレア度と違って成長が早く、
強くなりやすい。でも、
その分成長の限界もはやい。
覚えられるスキルも、よほどの努力を
しなければ限られる。正直いって
弱者である証よ。」
「弱者、ですか。」
弱者といわれたのは
いつ頃以来だろうか。
もともといじめられたり、面倒な目に
会うのが嫌で合気道や空手に手を出した。
弱者とは正反対の道を自分は
進んでいるつもりだった。
いまそう言われても、納得はし難い。
まるで、自分の努力も、それによって得た
ものも、なにもかも否定されているようで...
「ま、私からすれば関係ないわね。
使えればいいですもの。
あなたの実力はよくわかった。
Nでもましな強さ。たぶん、SRの私でも、
魔法を酷使しないと勝てない。いや、
きっと他のスキルによっては
酷使してもかてない。」
「え?俺ってそんなに強い?
Nって弱いんじゃないの?」
ラナは暫く黙ると、
次の言葉を紡ぎ出す。
少し悔しそうに、でもはっきりと。
「あなたに投げられたとき、
私はなにも抵抗できなかった。
それだけで説明は十分。」
「そうですか。あ、あの二人は?
えっとー、セトラとテトラのレア度は?」
「あの子達はRよ。二人とも。でも、
阿吽の呼吸と言うのでしょうね。
二人で足りないところを補いあっている。
一度見てみるのがはやいけど、
機会は少ないでしょうね。」
正直今強いとか、弱いとかは
どうでもいい。Nってことが理由で
仕事を失わないでよかったと安堵する。
「それはそうとそろそろ夕食を作りなさい。
セトラとテトラとの共同作業になるから
頑張ってね。」
「お、わかりましたよっと」
腰かけていた椅子から勢いよく立ち上がり
二人で屋敷へと戻る。
この世界に謎は多い。
言葉はなぜ通じる?魔法の原理は?
種族的にはどんな感じ?
それ全部引っくるめて今後学ぶのが
楽しみだ。レア度の上限に関してもだ。
調べる必要がある。
これはご飯か、仕事が終わったあとにでも
ゆっくり考えるとしよう。
「ということでやってきましたは
セトラとテトラのいる厨房。」
「誰に向けての説明ですか?」
「その壁には何もありませんよ。」
「逆にどっかの壁にはなんかあんの?」
「「隠し部屋」」
「あんのかよ!?
話し終わらそうとしたのに!?」
思わぬ展開に
勢い余って大きな声で言ってしまった。
それにしても二人は本当に
息ぴったりだ。ラナが阿吽の呼吸と
いっていたが素直に頷ける。
「エイジくんは料理できるの?」
「エイジくんは何をしますか?」
「一通りできるけど
何をするかは先輩方に任せるよ」
「では食材を切っていてください。」
「では食材を切っていてください。」
「とうとう同じこといっちゃったな?
何も思いつかなかったのかよ」
「うるさいですね」
「細かい男はもてませんよ」
「いいんだもてなくて!
いや、もてたいけど!」
「敬語はどこにいきましたか?」
「年下でも先輩ですよ?」
「もうなんか二人見てると
どうでもよくなってきたんだよ...」
実際どうでもいいわけではないが、
二人はきっと人の気持ちをほぐす
才能か何かがあるのだと思う。
というより確信を持てる。
一日目ということもあってラナ相手では
かなりの緊張を要したわりに、
この二人にはなぜか敬語はいらない
と空気で語られている気がする。
「手さばき、いいですね。」
「すごく上手です。」
「ありがと。
そういわれると家で多少なり
料理してた甲斐があったってもんだよ」
「ほめてないです」
「できて当然です。」
「お、照れ隠しか?」
「「うるさい」」
「ごえんごえん、ヒョーフヒョーフ」
ごめんごめん、ジョークジョーク
と言ったつもりだがどう聞こえただろうか。
さすがに両方から頬を
つねられてはかなりいたかった。
「なぁ、そういや
公爵さんを見てないんだけど
どゅうゆうくとぅ?」
「どういうこと?くらい
しっかりいってください。」
「ラオスト様は明明後日まで
不在だそうです。」
そういえば、
ここのことは公爵家である
ということしか知らない。
先程名前だけは確認したが、
この家についても、さらに勉強する
必要性がありそうだ。
「エイジくん。
ポタッツはこっちです。」
「ポタッツ?
あぁ、じゃがいものことね?」
テトラから発せられたポタッツという
謎言葉、手に持っていたから分かったが、
この世界では食べ物の言い方も違うみたいで
それも覚えていかないとならない。
この先の苦労が多そうだ。
「おーい、エイジさん!」
「あ、レイラ。勉強は?」
エイジがレイラと別れた理由が
勉強だったはず。あれから
時間がたったとはいえ
まだ終わるには早い気がする。
「少しおやすみ。
エイジさんは食べ物切ってるんだね。
どれどれ?」
「なかなかのできじゃね?」
「うん。私より上手なのがすごく、
いや、ほんのちょぴっとだけ悔しいな。」
「本音丸見えだよ?」
「もう、そうだ。
今日の分が終わったら
エイジさんの部屋に行くから
待っててね?」
これだけ聞くと
お誘いにしか聞こえない。
本人はきっと無自覚なんだろうけど。
とにかくエイジはドキドキしていた。
「な、なんで?
いや、あ、ありがたいけどまだ
早いって言うかー?何て言うかー?」
「?何をいっているの?
文字を教えてあげる。
書庫で本をみてたけど、全く
わからないって言う感じで首を
かしげてたでしょ?だから」
「あ、あー。」
ここは男としてがっかりしても
怒られまい。なんせ邪気やらが一切
なさげな女の子だ。性に関する
知識を持ってるかさえ危うい。
「恥ずかしいですね。」
「残念でしたね。」
「やかましい!」
セトラとテトラにからかわれ
ただただ突っ込みの声をあげる。
それでも首をかしげるレイラをみると、
この子は本当に性に関する知識を
持っているのだろうか。と思ってしまう。
ご飯ができて、食卓に運ぶ。
使用人勢はもちろんレイラが
食べ終わってからの食事になる。
ラナ、セトラ、テトラな他に約8名ほど
メイドがいるそうなのだが
まだ一人しかみかけてはいない。
「レイラさま、
今夜の晩御飯は私、
セトラと、妹のテトラ、そして
レイラさまの専属使用人、エイジが
担当いたしました。どうぞ
お召し上がりください。」
「うん。ありがとう」
ちゃぽん。あぁ、いい湯だ。
これだから風呂っていうのは最高だ。
あのあとレイラは一人で黙々と食べ、
食べ終わると美味しかったと
微笑んでくれた。あぁ、その笑顔だけで
行いの全てが報われる。と思ったのは
エイジだけの秘密だ。
もしもあの笑顔が自分だけに
向けられたものなら...と
エイジのなかで薔薇色の世界が広がる。
あともう少しというところで
自主規制がかけられて、
最後の一歩は進まなかった
問題発生。
着替えを持ってくるのを忘れた。
これは大失敗だ。
このままだと前の服を着ても不潔だと言われ、
素っ裸で走ると変質者だと言われる。
万事休すか...
頭を抱えて項垂れていると
突然戸が開いて人が入ってきた。
「ホォォォ!!?」
「・・・」
左耳に耳飾り。テトラだ。
テトラは困ったと言うより
少し呆れたような顔をして
首を振る。
「ひとまずその粗相なモノを
隠してはいかがですか?」
「あ、おおう!
あぁ、もう婿にいけない。」
「元々無いものをないないいっても
仕方ありませんよ。着替え忘れたと
大声が聞こえたので
着替え持ってきました。」
「テトラって意外と辛辣なとこあるよね?
基本的に結構優しいっぽいけど。」
「そんなことより、
早く着替えて部屋に戻ってはいかがですか?
レイラ様が先程から部屋の前で立ち尽くして
お待ちしておりますよ。」
「えぇ!?なんかわりぃな。
センキュー!あ、そうだテトラ」
今日は色々と教えてもらった。
初めて一緒に頑張った。
その感謝の意と、これからも
よろしくという意味を込め、たった一言、
これだけを伝える。
「おやすみ」
「・・・おやすみなさい。」
「あ、エイジさん」
「おう、待たせてごめん。」
「ううん。全然、ちっとも、
これっぽっちも、こむ粒も
気にしてないから
エイジさんも気にしないで」
「うわマジでごめん。」
「いいから!
さ、勉強しましょう。
徹底的に教えるから覚悟してよね。」
「それより寝巻き姿が可愛すぎて
もう俺のハートがオーバーヒートしてる。」
「はーと?おーばーひーと?
そんな変なこといってないで
始めましょ。」
「おう。頼むわ先生。」
「うん。しっかり頼まれたよ。」
こうして俺の、八神エイジの
異世界ライフが始まった。
~~~~~~~~おまけ~~~~~~~~~
ラナとエイジが屋敷に戻る途中
「そういえばなんですけど、
俺意外にもここに面接に来た人って
いたんですか?」
「ここは公爵家だから
それはたくさんいたわ。
だいたいこの裏拳で落としてあげたけど。」
「うわ、当たらんくてよかったわ。」
「私の裏拳の威力は世界一よ」
「そのどっかで
聞いたことあるような台詞やめて!?」
きっとエイジの裏拳の方がつよいだろう。
こむ粒=米粒
幼きに帰ろうと
モンハン3rdをうん年ぶり買ったのはいいが
肝心の時間がない。