Nと主
振りかざされた拳を
手に取り、こちらに手を引いて
バランスを崩させる。
直ぐに懐にもぐって後ろにたち、
腕をふる。すると自分の背をそるように
メイド長 ラナの体が落ちてくる。
「いったいなんのつもりですか?」
「・・・合格です。」
合格、と言われると定職を
探しているエイジからすれば面接に
受かったように聞こえる。
だが、まだ肝心の家主とはあっていないし、
詳しい勤務内容を聞いていない。
もしそれが明らかにブラックであれば
こちらとしても受かっても願い下げだ。
「面接に受かったってことですか?」
「はい。勤務内容は
レイラお嬢様の護衛、身の回りの世話、
屋敷の掃除や庭の手入れ、料理、
害獣の駆除等を
していただきます。」
屋敷で雇うとなれば、
することもそれくらいしかないだろう。
ブラック性の無さから安心して
勤務できそうだ。前はデスクワークだったので
やりがいもこちらの方が感じるだろう。
害獣の駆除とは屋敷の裏から広がる森にいる
魔物のことだろうか。
なまでは見たこともないし、なまでなくても
ないけれど、ここは異世界、それだけで
察しはつくものだ。
「よろしいですか?」
「はい!よろしくお願いします!」
俄然やる気が出てきた。
これから楽しくなりそうだ。
「あの~ラナさん?」
「なに?」
口調というか、敬語がなくなったのは
きっとエイジが自分の部下になったからだろう。
これもまた、異世界で就職するストーリーでは
ありがちな展開と言える。
それはさておき、
今エイジが来ている服は形容が
面倒なためにざっと説明すると、THE執事服
な訳だが、この執事服、
重大な欠点がひとつあった。
「この執事服、俺のサイズにあってなくて
ピッチピチ何ですが...」
「あぁ、丁度いい大きさの服が無かったの。
また明日までには作っておくから
今日だけはそれで我慢なさい。」
「えぇ~」
「あと、この二人と会わせておくわ」
「セトラです。」
「テトラです。」
「この新人の子はエイジ。
二人はここで姉妹でメイドをしているの。
二人とも、仲良くしてあげてね。」
「はい、よろしくおねがいします、エイジくん」
「よろしくおねがいします、エイジくん。」
「あ、はい、よろしくおねがいします、」
「それより、レイラさまがこの部屋でお待ちよ。
あなたがこれから仕える御方、
くれぐれも、粗相の無いようにね」
「がってん承知の助ぇ!」
この扉の奥にレイラがいる。
これから暫くの間仕える零時の主がいる。
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと押す。
息をのみ、一歩前進、また一歩、一歩。
部屋のなかに入り、顔をあげる。
「だれ?」
緊張している零時の目にうつったのは、
長く、白い髪に大きい、黄色い目が
特徴的で、全体的に露出が多めな白い
服を着たそれは美しい少女がいた。
「・・・」
あまりの美しさにエイジは絶句する。
自己紹介をせねばならない。
腰を曲げなければならない。
なのに、なのに体が動かず、
その少女に目が釘付けになる。
「執事服...あ、
新しい使用人さん?」
とても透き通った声、
綺麗で、心から染み付いて離れない。
腰を軽く曲げ、手を後ろで組み、
エイジの表情をうかがうように
のぞきこむ。
このままではいけないと、
我を取り戻したエイジは、
腰を90度近く曲げ、大きな、それは
大きな声で自己紹介をした。
「お、おれ、いや、私は!
新しい専属執事になった八神エイジです!
全身全霊でつ、支えさせていただきます!」
「うふふっ、うん。
よろしくお願いしますっ」
レイラが愉しげに笑う。
その笑顔もまた、美しい。
「これは、惚れたな。
回避不可能だろ」
小声で、とても小さな声で
そう呟いてみる。本当に
聞こえていないのだろう。
まだ口に笑みを残しながら首をかしげる。
そのしぐさひとつも、また可愛い。
今日、俺は、エイジは最高の主に出会った。
「ね、エイジさん。
書庫に一緒にいきましょ。
一緒に探してほしい本があるの」
手に大量の本がのせられる。
「ねぇエイジさん。
喉が乾いたからお茶を入れて?」
道に迷いかけながらも他のメイドに
場所を尋ねてなんとか厨房へたどり着き、
お茶を持っていく。
「ねぇエイジさん。
庭で魔法の練習をしたいの。
ついてきてくれる?あ、この本は
持ってきて。他は私の部屋に置いてね。」
急いで本を置きに行き、
庭に飛び出る。
「ねぇエイジさん。
森でお散歩しましょ。
護衛よろしくお願いします。」
周囲を警戒しながら
ゆったりと歩いていく。
一日目からハードなものだ。
だが、今日の予定どれもが自分の
ためにもなった。
書庫ではこの世界の文字を学べ、
お茶では厨房の場所がわかり、魔法の練習
では直に魔法を見ることができた。
散歩では木の実の採取ができた。
今はレイラがお勉強中のため
フリータイムだ。
「魔法...」
ぶっちゃけ超やってみたい。
俺の得意魔法は炎だぜ(キリッ)とか
やってみたい。
ちなみにレイラの得意魔法は光魔法らしく、
光の剣が的にむかって飛んでいったり
していた。
「ステータスオープン」
八神エイジ
レア度 N レベル1 種族 ニンゲン 年齢20
攻撃 513 防御 262 俊敏 199 魔力500/500
スキル 合気道10 空手7 水泳9 見切り10
料理3 訓練10 動体視力8 軟体7
逆立ち歩き7 体術10 裁縫2 掃除4
キーボードタイピング6 器用9
加護 最高神の加護
前回と全く同じ画面が表示される。
魔力がある。ということは
魔法をつかえる?
レイラが唱えていた光魔法は...
庭に出て、的にむかって手をつき出す。
息を整えておそるおそる口に出す。
「シャイン」
手の先から光の剣が発生し、
的にむかって一直線に飛んでいく。
心なしか、レイラのシャインより、
少し強い気がする。
「ファイヤ」
手から炎が発生する。
これは何となくこんな詠唱だろうなと
思ってやったことだ。
「ステータスオープン」
八神エイジ
レア度 N レベル1 種族 ニンゲン 年齢20
攻撃 513 防御 262 俊敏 199 魔力498/500
スキル 合気道10 空手7 水泳9 見切り10
料理3 訓練10 動体視力8 軟体7
逆立ち歩き7 体術10 裁縫2 掃除4
キーボードタイピング6 器用9
炎魔法1 光魔法1
加護 最高神の加護
魔力が2だけ減ってる。
そしてスキルに炎魔法と光魔法が増えている。
一度使えば覚える。この認識で
あってるだろうか。
「エイジ、魔法が使えたのね」
メイド長 ラナだ。
「あぁ、レイラお嬢様がやってるとこみて
真似してみたんだ。上手かった?」
「初めて?
それなら操作が上手すぎる気もするけれど。
あなたレア度はなんなの?」
「レア度ってステータスの?」
「そう。私はSR」
「Nです。いいんですか?これ」
ラナの顔が若干ひきつったようにみえた。
どうみてもいい訳がない表情をしている。
「あなたそれ本当?」
「ええ」
「でもあなた、強いじゃない」
「ガキのころ色々やってましたから」
はぁ、とため息をつき、
ラナが口を開く
「Nはね、レア度最低。
もっとも弱いレア度よ。」
メインヒロイン、レイラ登場。