トイレの外にいたのは誰?
深夜2時、私は目が覚めた。
そう、トイレに行きたくなったのだ。
私の家は典型的な田舎の家でトイレは外にある。
友達からは時代劇に出てきそうな家と言われているくらいだ。
冬は寒くて夏は蚊に刺されるようなトイレが私は心の底から嫌だった。
「あぁ、この時間帯に行かなきゃ行けないのか…」
自然とため息がもれる。
正直、行きたくない。
でも、行かないともう一度、眠りにつけない。
そもそもトイレに行くのを我慢するのは体に悪い。
観念した私は布団から出て、トイレに向かった。
トッ…。トッ…。トッ…。
静けさに包まれた空間に私の足音が鳴り響く。
この足音だけでなんか怖くなってきた。
ガチャ……!
トイレのドアを開ける。
夜のトイレというのはとても禍々《まがまが》しい空気が漂っていた。
「それ」は私がトイレから出ようとした時におこった。
トコトコトコ…。
外から誰かが走り回る声が聞こえる。
「えっ!?誰??」
私はついそうつぶやいてしまった。
こんな夜中に誰がトイレの外にいるというのか…?
最初、野良犬かとも思った。
しかし、どうも違うようだ。
足音がずっしりと重たいのだ。
トコトコトコ…。
まただ。
やっぱり走り回っている。
どうやら、この足音は気のせいではないらしい。
この時、私の疑惑が確信へと変わった。
トイレの外に「何か」がいる…。
そう考えると私は無性に恐くなった。
数分後、ピタリと足音が鳴り止んだ。
足音の主はどこかへ行ったんだろうか?
今が外に出るチャンスかもしれない。
覚悟を決めた私はトイレのドアを開けた。
ギィィ…。
木造のドアが悲鳴のような音を出す。
ドアを開けた後、私はすぐに周囲を確認する。
誰もいない。
「はぁ…。なんだ…。気のせいか…」
私はホッとした。
その時だ。
ゴソゴソ…。ゴソゴソ…。
物陰に誰かがいる。
「だれ?」
私は勇気をだして言ってみた。
「私よ。母さんよ」
「えっ!?あっ!なぁ~んだ。母さんか」
恐い思いをして損をした。
外にいたのはどうやら母さんだったらしい。
でも少し様子がおかしいような…。
「そこで何やってるの?母さん?」
心配になった私は一応、聞いてみた。
「さがしてるの…」
母さん?はそう答えた。
「ふ~ん、私もう寝るからね!」
そう言い残すと、私は家の中へと入った。
次の朝、私は母さんに夜中に何を探してたのか聞いてみた。
でも、母さんはこう言うのだ。
「私はあの晩、ぐつすり寝ていた。外で探し物なんてしていない…。と」
そんなまさか。
私は「冗談はやめてよ母さん。トイレの近くで探し物をしてたじゃない」と言った。
でも、母さんは「私じゃない」の一点張りだ。
じゃあ私が見た母さんは?
今となっては分からない。
数日後、この不思議な体験を友達の美代子に話した。
「それ、影人じゃない?」
私の話を聞くなり、美代子は唐突にそう言った。
「影人??何それ?」
私は意味がわからずそう聞き返した。
「意識をもった影のことよ。つまり、あなたのお母さんの姿を借りた他人の霊魂みたいなもの。影人の顔、見てないわよね?」
「えぇ…。見てないわ。暗かったし」
「そう…。それなら良かった。なんでも影人の顔を見たら、闇の世界に連れていかれるみたいよ」
「闇の世界って…。そう言えば何かを探してるって言ってたわ」
「それ…。たぶん、闇の世界へ連れていく人を探してたのよ…」
「え…」