第3話 新たな魔物(びじょ)を求めて
卵ってすぐに孵るわけじゃないんだな。卵を温めるために商店街で買った小型の保温器をバックに入れた生活をはじめてすでに1週間が過ぎた。
「これが子連れ狼の気分か」
最初はそう言ってオレはバックに入っている卵を見て笑っていたのもいい思い出だ。正直、もう、割って食べたいよ。それはそれで美味しそうだよね。いや、我慢、我慢だ。孵化した後の美しい嫁がオレを待っているんだ。
「にへにへ、ヘヘヘ」
「ママ、あの人の笑い方、気持ち悪いよ」
「マー君、見ちゃダメよ! あの邪な笑顔、きっと碌な奴じゃないから!!」
そう言うと親子は足早に去っていた。おっと、いけない。どうやら、妄想をしていて、顔に無意識のうちに笑顔が出ていたようだ。しかし、一々、人をさしてそんなことを言わなくてもいいのにな。
「ハァ、でも、正直もう我慢できないね。次のかわい子ちゃんを探しに行くとしようかな」
オレは言いようのない寂しさを抑えながら、ハンターギルドに向かった。ハンターギルドとは名前の通りで、モンスターの駆除や捕獲の仕事を斡旋する組織だ。
オレはギルドに入ると受付の横にある仕事リストを見ながら、
「かわい子ちゃんはいないかな?」
と呟く。いや、いないわ。碌な仕事がない。徒党を組むオークをすべて捕獲ってどんな拷問だよ。雌豚を捕まえるのは面白いかもしれないけどさ。
もっと、ソロハンターのオレでも楽にできる仕事はないのか? おお、素晴らしいのがあるじゃないか!!
「ヒソ、ヒソ、また、ボッチの狂人サイゾウが難関クエストに挑むらしい。しかも、あのアラクネ退治だそうだ」
「モンスター狂いの二つ名は伊達じゃないな。狂ってやがる」
「ああ、王国の騎士団を返り討ちにして大量の死人を出した案件だぜ?」
オレは仕事内容が書いてある紙を持って街を駆けていく。堪えれない笑を漏らしながら。フフフ、この似顔絵を見る限り美人だな。彼女を捕縛して絶対にオレのモノにしてやるぜ。