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第28話 帰宅した我が家でのひととき

 暗闇の中、長距離を疾走したため、疲労で思うように足が動かない。だが、ここで休む訳にはいかない。いつ奴らが現れてオレを拘束しようとするか…


 オレはそんな恐怖に苛まれ、焦りながらも足を前に進める。しばらく、町から続く道を駆けること数時間。小さな木造の家屋がオレの視界に入ってきた。


「ようやく着いた」


 オレはしたたる汗を手で拭い、小屋の窓から漏れる蝋燭の明かりを見て微笑む。


 家に帰って灯りもない場所で一人。今までだったらそうだった。仕事、仕事、仕事。家には睡眠を取りに帰る毎日。


 オレは家の前に来るなり、直ぐに扉の鍵を取り出して中に入る。


「ただいま、帰ったぞ!!」


 久しぶりに長距離を全力疾走してさすがに疲れた。息が切れる。オレは疲労で玄関に崩れそうになる自分を叱咤し、寝床のソファーに駆け寄り腰を降ろした。


「やっぱり、我が家は良いな。落ち着くな」


「サイゾウ、帰っていたの? お帰りなさい」


「サイゾウ様、お帰りなさい」


 オレがソファーでくつろいでいると隣の寝室から勝手に住み着いた2人がそれぞれ出迎えの挨拶をしてきた。


「おう、ただいま!!」


 なんだろうか。仕事で疲れて自宅に帰る。そんなオレを誰かが出迎えてくれる。こんな日常が嬉しい。


 年齢イコール彼女いない歴のオレに取っては、家に帰って誰もいないのが当たり前だった。帰っても部屋は真っ暗で疲れた体を引きずって、食事も取らないで寝る。今まではそんな独身人生を歩んできた。だから、彼女たちの存在は素直にありがたい。


「サイゾウ、また裸なの? 露出癖に目覚めたのかしら…」


「いや、そんな明らかに呆れたようにため息を吐かないでくれよ? だれも露出癖なんてないから! 事件に巻き込まれてこうなったんだよ!!」


 ちょっと口うるさいのが難点なアラクネ。下半身が蜘蛛の魔物である。性格はきついが根は優しいんだ。


「ど、どんな事件があれば男の方がすべての衣服を脱がされるのでしょうか?」


 むしろ、その原因をオレが知りたいよ。話しかけてきたのは、聖女と名高かったシルメリア。見た目だけは美少女で最高なんだけどね。でも、気を付けなくてはいけない。こんな見た目だが奴はれっきとした男だ。さらにゾンビで肉体と性格が共に腐っている。


「マントの中が裸で他人に自らの裸体を見せることが至高の喜びと言うような変態がいたんだよ。それで、そいつが他の人の服を脱がせて…」


「サイゾウのことね。わかるわ。で、誰を強制的に脱がせたの? でも本当にあなたには困ったものだわ」


 オレが話をしているにも関わらずアラクネは横から茶々を入れてきた。いや、そんな風にため息を吐くなよ。吐きたいのはこっちだからね。


「サイゾウ様。ダ・イ・タ・ン!」


「オレが何で男の服を脱がさなければならないんだよ!!」


 頼むからおまえらオレの話をちゃんと最後まで聞いてくれよ!


「落ち着いてサイゾウ。それであなたのことだからどうせまた人間の警察に追われて逃げてきたんでしょう?」


 アラクネは苦笑しながらそう言ってきた。


「な、何でわかるんだよ」


 私はわかっているわと言わんばかりのアラクネの表情に戸惑いながらも、オレは素直に返答をした。


「…何度目になると思っているの? ハァ、いい加減に私でも覚えるわよ」


 彼女は呆れたものだわと露骨にそう態度で示してきた。


「え? オレってそんなに警察に追われていたっけ?」


 アラクネは、なにをコイツは言っているのかしらと言いたげにオレを半眼で睨んできた。


「全裸で帰宅するのはもう片手では効かないわよ」


「そうなのですか? サイゾウ様」


 元聖女の癖に呼吸を荒げて質問してこないでくれないか。


「シルメリア、彼に確認を取らなくてもわかるでしょう? サイゾウはそういう男よ。そうでしょう?」


 くそ、思い返すとオレは事あるごとに服を脱がされてきた気がする。この前も半魚人に無理やり脱がされて全裸にさせられたもんな。残念だが反論できん。


「そ、そうだったかな? オレはわかんないなぁ」


 なんだか色々と心当たりがありすぎて反論できない。ここはとぼけるしかないよな。


「まぁ、いいわ。サイゾウをイジるのは、ここまでにしておきましょう。サイゾウ、ご飯を温め直してくるからソファーでくつろいで待っていなさい」


 そう言ってアラクネはエプロンを着けながらリビングの隣にあるキッチンに入っていく。アラクネにエプロン。いつ見ても堪らないシュチュエーションだ


 いかん、落ち着け。オレ、落ち着くんだ。この前、キッチンにいる彼女のエプロン姿に欲情して襲ったら、反撃されて半殺しにされたばかりじゃないか。


「ところでさ。吸血鬼が神を信仰するものなのか? ありえないと思うのだけどさ」


 先ほど出会った吸血鬼デミトン・アルフェルムを思い出しながらオレは疑問に思ったことを彼女たちに聞くことにした。


「吸血鬼? あいつらは神と敵対しているでしょ?」


 リビングの隣にあるキッチンのカウンター越しからアラクネが話を返してきた。


「そうですね。そもそも、吸血鬼は神の理に反して永遠の命を追求した一族ですものね。彼らが神を信仰するなんて聞いたことがありません」


 元聖女のシルメリアが信仰上の事情をよく知っているのは当たり前だとしても、なぜモンスターであるアラクネがそんな人間の信仰している宗教のことまでわかっているんだ? やはり、長生きをする魔物特有のあれだろうか。亀の甲より年の功的な…


「今、年増って思ったでしょう?」


「微笑みながら包丁をテーブルに刺すのは、やめてくれ! 怖いわ!」


 これが噂に聞いていた女の勘って奴なのか!? すごい怖いぞ。


「ああ、ごめんなさい。それよりも鍋をそこに置きたいから、ちょっとスペースを作ってくれるかしら?」


 音もなく忍び寄って気に触ることを感じたら牙を向くって、やっぱりアラクネは怖い魔物の蜘蛛だよ。オレが内心でそんなことを思っている間にアラクネはたくさんある手で料理を手早く皿に盛って食べる準備を進めていく。


「さぁ、食事の準備はできたからそろそろ食べましょう」


 オレはアラクネが作ったグルーガの肉を使ったクリーム煮込みスープ、夏の野菜サラダとインジェラと言われる地球で言うところのインド料理のナンみたいな食べ物をまじまじと見る。


「どうしたのかしら? 私の作った料理に文句でもあるの?」


「いや、こんなに美味しそうな料理をオレのために作って貰えたのかと思うと感慨深くてね」


 だって、そうだろう? 一人暮らしの時は腹が減ったからと言って自分で作らないと食べられない。職業柄で当然のことかもしれないが、オレが作る料理は生きるために必要な最低限のエネルギーを摂取できることが基準となっている。簡単に言うとアラクネの料理のように美味しくないのだ。


「まぁまぁ、アラクネ様。そう睨まないでやってください。それでサイゾウ様、その吸血鬼はどの神を信仰なさっていると言っておりましたか?」


「神の名前は言ってなかったな。ただ、真の己を晒してさらなる高みへとか言って筋肉を見せつけてきたな。その行動が神のためだみたいなニュアンスで言っていたけど、詳しくはよくわからないな」


 シルメリアが急に立ちあがり、テーブルにあった料理が飛び跳ねる。料理はこぼれていないからいいけど、なにをそんなに驚くことがあるんだ。そう思いながら急に前のめりの姿勢で立ちあがったシルメリアを半眼で見る。


「ハァ、ハァ、な、なんて羨ましい。もとい、ひどい宗教でしょう。そんな宗教は殲滅しなくてはなりませんね!! 是非とも、次は私を連れて行ってください」


「いや、羨ましいって言っているよね? どうせ、おまえのことだから、全裸の男が見たいだけだろ?」


 呆れてモノも言えなくなりそうだ。シルメリアは元聖女なのに相変わらず性格が腐っているよな。


「何を言っているのでしょうか? 私はこれでも元聖女です。そんな悪しき邪教を食い止めるのが私の使命です。ええ、なんて、羨まし…。コホン、けしからん宗教でしょう。即刻、布教しなくては!!」


 おい、エセ聖女! 本音がだだ漏れだぞ。なんで、おまえが邪教を布教させようとするんだよ。


「まぁ、このバカは放置するか。それよりも、アラクネ。すまないが今回の依頼はあまりにも敵が強すぎる。なんたって日の光を浴びなければ永遠に生きられると言われている吸血鬼だ」


 正直に言ってそんな化け物をオレ1人で退治できる訳がない。どうしても、誰かの協力が必要だ。


「私があなたに頼まれたら、断れないことを知っているでしょう?」


 そう言って微笑むアラクネ。もしかしたら、彼女のためにもギルドに報告して身を引くべき案件ではないだろうか。そう一瞬だけ不安になったがオレは敢えて屈託なく笑ってやることにした。だって、彼女を心配させたくないだろう?


「ありがとう。アラクネ」


 オレはそう言って彼女を抱きしめる。アラクネは急に抱きしめられて照れたのか最初はそっぽを向いていたが、しばらくして顔を真っ赤にしながら抱きしめ返してくれた。


「ちょ、ちょっと、やめてください。2人だけの世界に入らないでくださいよ。私も、私も行きまからね。サイゾウ様!! あと私にもハグをください。キャ、いっちゃった」


「絶対にいやだ。男とハグするなんてごめんだ! 何がいっちゃっただよ。男がそんなこと言ったって可愛くないわ!」


 オレが示した拒否の態度にシルメリアはむくれた表情をしていたが、そんなことはどうでも良い。今のオレは早く吸血鬼退治の計画について話し合いたいんだよ。


「さてと、話がまとまった所で早速、本題に入るけどさ。今回の作戦はこんなのだけど。どうだろうか?」


 オレは自らが考えた対吸血鬼用の計画の概要を彼女たちに話す。オレが言うのもなんだが、奴の特徴を捉えた実に理にかなった計画だと思う。


「いいわね」


「面白そうです。ぜひともやらせてください!」


 彼女たちはどこか面白そうにオレの計画に耳を傾けていた。


「よかった。どうやら、大枠の話は問題なかったようだな。では細かい話を詰めていこうか」


 オレはそう言って計画の詳細を話していった。オレの提案した作戦は頷く彼女たちを見る限り、どうやら完全に受け入れられたようだ。よし、明日はあの変態に一泡ふかせられそうだ。


 オレたちは明日の吸血鬼退治に向けて計画を練っていくのであった。

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