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第16話 腐った教会と腐った聖女

 窓から差し込める陽気な日差しが眠気を誘う昼下がり。書類が広がっているテーブルを挟んで、クソ真面目な話をするオレと教会から派遣された司教2人。


 こっちは眠いのにご苦労な事だ。さっさと要件を済まして、お帰り願うとしよう。

 

「早速、本題に入りたい。まず、これが報告書に書いた証拠だ。これを見たらわかる通り、聖女は処分したからな」


 オレはそう言って箱の蓋を開ける。木箱を上から眺める教会の司教たち。


「聖女シルメリア!? ああ、おいたわしや」


 いや、お前らが抹殺の依頼を出したんだろう? なにがおいたわしやだよ。あまりにも可笑しくて鼻で笑っちゃたじゃん。


「なんだ? 貴様、笑うとは失礼な!」


「すみませんね。こんな依頼を出した張本人側の人間が良く抜け抜けとそんなことがいえるなぁと思ってね」


 オレは箱から生首を取り出し、司教らに見えるように掲げる。


「くっ、わかった。わかったから。それをしまえ!!」


 生首を見た瞬間に視線を逸らして怒鳴る坊主頭の司教が1人。


「確かに処分は完了したようですね」


 生首をしまおうとすると冷静に観察する長い金髪をした司教の視線を感じた。話を通すにはこの冷静な司教の方が良いかもしれないな。


「あんたらが望んだことでしょう。こちらを人でなしのような目で見ないで欲しいね」


 オレはため息を吐いた後、おどけたようにそう言ってやった。


「すまないね。我々は君たちのような荒くれ者と違ってそういうのとは無縁なのだよ」


 この金髪の司教は相当に良い性格しているな。オレに当て付けでいやみを返してきたぞ。自分は聖女の生首を見ても、眉一つ動かさなかった冷血漢の癖に。


「それでは聖女の亡骸は我々が引き取ろう。彼女は聖女として職務を全うした。最後は故郷にある教会の墓地で眠りたいだろうからね」


 依頼の確認は終わりだと言わんばかりに長い金髪をした司教がシルメリアの入る箱を持って行こうとする。おっと、君たちの要件は終わっても、オレの本題はここからだ。


「いや、今回の報酬は労力の割に合わなくてね。なんたって、町の住民すべてがゾンビになっていたんだからね」


 金髪の司教の動きが止まる。そして、目を細めて顎に手を当てる。


「君は報酬の増額をご希望かな?」


 さすがは日夜に多くの人々の悩みを聞いて導く教会の司教様だ。実に察しが良い。


「いえ、いえ、オレはそこまで業突く張りじゃないさ。ただ、この聖女の死骸を報酬の代わりにくれないかなぁと思っただけさ」


 オレは今回の依頼による報酬はいらないから聖女の生首をくれと端的に言ってやった。


「だ、ダメに決まっているだろう? 聖女だぞ! 痴れ者に渡すことなどできんわ!」


 ハゲ頭は黙っておけよ。おまえが喋るとオレまでストレスで禿げ上がるだろ。


「そこをなんとかして欲しいね。そうじゃないと教会がしていたことを色々な所で話しちゃうかもよ? だから、聖女の生首をオレにくれないか? なぁ、頼むよ」


 オレそう言っては頭を下げる。もちろん、相手に見えない下を向くオレの顔はニヤニヤと笑っている。


「教会がしていたこと? なんのことでしょう?」


「ドルジ司教? 何か知っておりますか?」


「いいえ、ヴェイル司教。フォニックスの町は反乱軍によって滅ぼされたとしか聞き及んでおりませんが」


「サイゾウさん、あなたは何について言っておられるのでしょうか?」


 白々しいな。あの町で起きた悲劇はどう考えても反乱軍の所為だけじゃないだろう。だが、オレも証拠がないからな。ただ、責め手がないわけじゃない。


「なるほどね。とぼけるわけだ。オレはどっちでも良いけどね。ただ、人間の尊厳を貶めるやり方は好きじゃないな?」


 オレはそう言って、箱に入っているシルメリアを見た後に司教らを睨む。


「ゾンビってそう簡単に出来るもんじゃないよね? 誰が作ったんだろうね」


 町の人間がすべてゾンビになる何てことは自然現象であってたまるかよ。誰かが人為的にやったんだ。


「なるほどね。モンスター狂いのサイゾウとはただの倒錯バカの異名ではなかったようですね」


 微笑むヴェイル司教。オレは全て知っているぞと言わんばかりに微笑み返してやる。はったりに気が付かれないように心で願いながらな。


 シルメリアのフォニックスの町への派遣。そして、今回のオレへの依頼。これらのことから教会はフォニックスの町でなにかをやっていたことは間違いない。


 そんな教会側の奴らに取っては今回の事件は探られたくない事だらけなんだろうな。


「いいでしょう。今回はあなたにそれを進呈しましょう」


 そう言って、余裕ある笑みを浮かべるヴェイル司教。


「な、何を言っているのだ?」


 ヴェイルの返事を聞いて驚くドルジ司教。そんな驚いている男にヴェイル司教は説得するようにこう言った。


「まぁまぁ、ドルジ司教。現在の教会は経済状況が芳しくありませんので報酬よりもこのような褒美があっても良いではありませんか?」


「だが、聖女の遺骸だぞ? それだけで価値がある!」


 おい、おい、死んでまで価値があるとか言われるのか。聖女はその遺体まで利用されるのかよ。


「…彼に価値など」


 オレの耳にヴェイルの呟きが聞こえてきた。こいつ、シルメリアの性別まで知っているのか。そして、ドルジ司教が知らないことを考えると…


 いや、結論を出すには証拠が少なすぎる。ここは彼女の生首を譲り受けるだけで我慢しておくべきだ。


 フッ、それにしても司教のような良い所の坊ちゃん出身者がなるような仕事の奴には想像がつかなかっただろうな。オレたち、ハンターはどんなモンスターも逃さないために聴力を徹底的に鍛え抜くのだ。だから、どんな音も捉えることができる。オレたち、ハンターの聴力を舐めるなよ。


「それで貰えるのか? それとも報酬のさらなる上乗せか? 金の延べ棒くらいに増額してくれるんだったら考えてやるぞ」


「金!? 貴様は、なにを言っているのだ!!」


「まぁ、ドルジ司教。落ち着いてください。聖女シルメリアは行方不明となり消息は不明なのです。だから、この依頼もなかったし、報酬なんてものもないのです」


「し、しかし、ヴェイル司教!!」


 ヴェイル司教がドルジ司教の耳元でなにかを呟いたな。目の前でどうどうと内緒話ないしょばなしね。耳を澄ませておくか。


「き、君がそういうのだったら仕方がないな」


「私たちは次の仕事に行きますよ。善良な信徒の悩みを聞くのも私たちの仕事ですが長居をし過ぎましたね。さぁ、行きましょう。ドルジ司教」


「あ、ああ。そうだな」


 では、失礼するよと言ってヴェイル司教とドルジ司教はオレの家から出て行った。


 教会の犬どもはようやく帰ったか。しかし、あいつらの会話内容を思い出すと身の毛がよだつな。


 ───ここで争うのは得策じゃないですよ。私たちが怪しまれます。それよりもほとぼりが冷めた頃に彼を始末しましょう。いえ、神の下に導きましょう。聖女シルメリアと同じように。いつも通りにね。それにここには例の蜘蛛もいるようですからね。


 やっぱり、あいつらがシルメリアを殺したのか。しかし、よく考えるとオレもやばいよな。どうしよう。オレが先程の出来事について考え事をしていたら、


「うまくいきましたね?」


 と教会の司教どもが帰ったので、シルメリアがオレに声をかけてきた。


「おまえの所為でオレは厄介な連中から目をつけられたようだがな」


 オレはため息を吐いてシルメリアに文句をつける。


「キャ、目を付けられたんですか? そ、それはヴェイル司教とサイゾウ様のめくるめくる禁断の愛ですわね?」


「違うわ!!」


 人の話を聞いていないな。この元聖女様はよ。ゾンビだから頭の中まで腐ってやがる。


「まぁ、そう興奮しないでください。ひとまず、サイゾウ様とヴェイル司教のラブラブ話は置いておきましょう」


 いや、それは置いておいたら、いけない案件だよ! オレは男に興味はないぞ!!


「それよりも、まずは感謝の言葉をいわせてください。サイゾウ様の愛のお力で私は教会の魔の手から逃れることができました。ありがとうございます」


「愛なんてないから! 借用書の力だ!!」


 そう、借用書の力だ。断じて、この男のために働いたのではない。


「ギルドめ、なんでこんな奴に借用書を売ったんだよ」


「私は聖女でしたからね。宝石などのアクセサリーをたくさんの人々に寄付されていますから。それをたまたま知り合ったギルドの人が持つ誰かの借用書と交換する機会が偶然あっただけのことです」


 なんだよ。そんな偶然があるわけないだろ! ゲイルの奴、あとで覚えていろよ!! しかし、イヤになってしまうよ。シルメリアがただで貰った指輪とオレ死ぬ気で働いて手に入れた家が同じ値段だったなんてさ。本当にやっていられないわ。


「世の中は金なのか? 金? 金がすべてなの?」


 オレは世の中の理不尽さに対して悲しくなってきたよ。


「いいえ、サイゾウ様、それは違います。世の中は愛です。愛が全てです!」


「金の力でオレに言うことを聞かせているおまえがそれを言うのかよ。本当にまったく、やっていられない!!」


 そう言った後、オレはため息を吐くことしかできなかった。

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