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第15話 さらなる驚愕の事実

 蝋燭の灯りが教会の懺悔室にいるオレたちを照らしている。懺悔室にある小さな木の椅子に無理やり2人で座る。当然の事として、オレたちは密着することになる。いや、実に役得。


「見てわかる通り、私はゾンビに成り果てました」


 そう言って彼女は自らの頭を首の上にのせる。それにしても、知恵のあるゾンビなんて珍しいな。聖女と言われた彼女の清らかな心が死んでも知性を失わせなかったのだろうか。


「私は反乱軍によって、滅ぼされたこの町でアンデットが発生したので浄化をするように教会に命じられてやってきました」


 シルメリアは感情を押し殺したように淡々と自らがゾンビになった話を説明しはじめた。


「でも、本当は違ったのです。確かにこの町は大量のゾンビが発生して大変な目にあっていましたが、教会の真の目的は…」


 私の殺害にあったのですと言って、顔を伏せるシルメリア。酷い、こんな年端もいかないような少女にする仕打ちじゃない。


「私はこの町に着いて直ぐに護衛の兵士に……」


「それ以上は話さなくて良いんだ。シルメリア、辛かったな」


 本当に酷いな。思い出すとオレがギルドから渡された資料にはシルメリアは反乱軍に捕まって聖女の資格を喪失したので処分して欲しいと書いてあった。少なくとも人であるシルメリアがいるはずの町なのに生存者は誰もいないと記載されていた。


 つまり、教会は町にいる奴らが聖女も含めて全てゾンビになっていることを知っていたんだ。下手をするとこの町の住民が全員ゾンビになったのは教会の所為かもしれない。だとしたら、教会は外道の集まりか? いや、そうじゃなくてもこんな可憐な少女にやったことを考えると許せないほどに外道だ。


「ここにはオレと君しかいないんだ。悲しかったら泣いても良いだよ。無理して聖女のように振る舞う必要はないんだ」


「サイゾウ様、私は今までの人生を教会のために尽くしてきました。本当にすべてを教会のために捧げてきました…」


 彼女の目元には次々と大粒の水滴が出来ては流れていく。


「私の人生は何だったのでしょう? 差し詰め、教会の意向をただ伝えるだけのマリオネット。代わりが出てきたら処分される運命の…」


 オレは彼女の目から流れる雫を手で拭き取ってやる。だって、余りにも彼女が可哀想じゃないか。


「サイゾウ様、私は何のために生まれてきたのでしょうか? 信頼していた教会の人々に裏切られ、命を散らして私の人生はいったい何だったのでしょう?」


 耐えられん。オレは気が付いたら彼女を思いっきり抱きしめていた。


「サイゾウ様、私は殿方に抱きしめられるのは初めてで。ああ、なんだかとっても幸せです。もっと、強く抱きしめてください」


 彼女もオレを抱きしめ返してきた。そして、オレの耳元で艶かしい声で呟く。いや、オレにとって扇情的に聞こえているだけなのかもしれない。女性とこんな風に密着する機会なんて今までなかったからな。


「ああ、私がもし普通の人だったら、今のように恋人と抱き合えたのでしょうね。私も1度で良いから普通の人のように恋をして、愛する人と楽しいひと時を過ごしたかった」


 意味ありげな流し目でオレを見つめる聖女様。た、たまらん。が、我慢できないぞ!!


「大丈夫だよ!! サイゾウさんがその望みを叶えてあげるよ!! ゾンビでもオレの奥さんになって幸せな家庭を築こう!!」


 これはチャンスだ。こんな絶世の美少女を嫁に貰える千載一遇の素敵な機会が訪れるなんて! よし、彼女に飛びかかろう! レッツ、子供作り!!


 って、落ち着け。いつもみたいに飛びかかると彼女のような奥手な少女ゾンビは逃げでしまうかもしれない。


「嬉しい。私にそんなことを言ってくれる人なんて今まで誰もいなかったわ」


 そりゃ、聖女様にそんなことを言えば不敬だもんね。それにしても、彼女が微笑むだけで、こちらの相好(そうごう)も崩れるよ。きっと、今のオレの顔はデレデレだろうな。


「男の人から愛しているって囁かれたかった。もしも、私のことを少しでも不憫に思うのならお願い、私のために耳元で呟いて…」


「わかったよ。シルメリア、愛して…」


 オレはシルメリアの耳元で愛していると呟こうとした。その時、彼女から伸びた手がオレを引き寄せる。シルメリアの柔らかい果肉の様な唇がオレに触れる。


「私のファーストキスです。私の初めてをサイゾウ様に捧げます」


 彼女はそう言うと顔を真っ赤にしてオレに背を向ける。自分から大胆なことをして、恥ずかしがっているのか。なんて、可愛いんだ! 堪らない。もう我慢できません! 今夜、サイゾウは男になります!!


 オレは愛しさのあまりに彼女を後ろから抱きしめる。そして、欲望のままに彼女の体を貪ろうとした。


「うん? あれ? 胸の膨らみを感じないぞ? それにこれはいったい」


「サイゾウ様、おやめください!」


 彼女はそう言うと席を立ち睨んでくる。頬を膨れさせて怒っている顔。こんな顔も可愛いなと先ほどまでなら単純にそう思っていただろう。


 だが、落ち着けよ。あの場所に何か変な感触がなかったか?  オレの顔から滝のように流れる汗。


「ひとつ、聞いて良いかい?」


「なんでしょうか? サイゾウ様」


 可愛らしく首を傾けるシルメリア。うん、この姿を見ると、どう見て美少女だ。でも、念のために確認を取ろう。


「君は聖女で間違いないんだよね?」


「はい、聖女と呼ばれておりました」


 彼女は可愛らしい声ではいと返事をした。


「だよね!」


「ああ、サイゾウ様は性別をお気になさっているのですか? 愛があればそんなことは些細な問題ではありませんか」


 いや、いや、違うからね。そこはサイゾウさんにとってはすごく重要だよ。どんなに綺麗でも男は男なんだ。彼女も出来たことないのにボーイフレンドができるなんて悪夢。オレは求めてないからそんな悲惨なこと。お願いだからやめてください。本当に女性であってください。


「え、もしかして君は男だったりするの? そんな訳ないよね。だって、聖女様だしさ」


「酷いサイゾウ様、そんなこと言うなんて」


 そう言って、俯く姿を見ると罪悪感が込み上げてくるじゃないか。だって、女性におまえは女なのかって質問は失礼以外のなにものでもないからな。


「あ、いや、ごめん。君はどう見ても女性…」


 オレは罪悪感に苛まれて質問を撤回しようと試みる。しかし、それよりも早く彼女は、


「男に決まっているじゃないですか」


 と凄まじい威力の爆弾をオレに放ってきた。やっぱり、そうなんだ!


 なんか少し可笑しいと思ったんだ。ゾンビとはいっても女性の割に力強くオレを引っ張るし、妙な艶があるし…


「でも、サイゾウ様は私を愛しているって言ってくださいました。ファーストキスもサイゾウ様に奪われて。キャ!」


 キャじゃないからね。確かに愛しているっていたけど女だと思って言ったんだよ? さらにキスはオレが奪われたんじゃないか!!


「でも、これで私の夢が叶います」


「へー、そうなの。どんな夢なの?」


 オレに関係ない夢でありますように。そして、そのまま満足して成仏してくれますように…


「サイゾウ様、私の夢はお嫁さんになることだって言ったではありませんか? もうお忘れですか?」


 そんなこと聞いてないから! って、お前は男だろ! 嫁になんてなれないだろ!!


「帰ろう。お家に帰ろう」


 やってられん。もう帰る。実家に帰らせてもらいます!!


「私たちの新居。つまり愛の巣に帰るのですね?」


「なんだよ!! 愛の巣って? もう良いよ。帰る。依頼なんて知るか!! オレは帰るぞ!!」


「ああ、待ってください。この町の危険なゾンビ共を浄化していきますので…」


「え? なに、君もゾンビなのに浄化できるの?」


「はい、できます。そもそも、この町に残っているゾンビは人をあまり襲いそうにないイケメンやガタイの良いモノだけを残して、あとは全部消しましたから」


 おい、イケメンだろうがなんだろうがゾンビは人を襲うだろ! こいつ、自分の気に入った男ゾンビだけを残したな。通りで、オレ好みの女ゾンビが1匹もいなかったわけだ!!


「でも、勿体ないかな。私の逆ハーレ…。いえ、あなたが私をおヨメさんにしてくれるのでもうゾンビは浄化しないといけませんね」


 今、逆ハーレムと言おうとしたよね。絶対したよ。こいつは本当に元聖女なのか?


「安心してください。サイゾウ様、私は貴方だけを愛します」


 いや、安心しないからゾンビはゾンビとヨロシクやっておいてください。


「ああ、これからサイゾウ様との素敵な性活が待っていると思うと…」


「この子、妄想トリップしているよ。絶対、こいつはヤバイ奴だ。どう考えても、オレの貞操が危ないよな。逃げないとヤられる!!」


 オレはそう思うやいなや懺悔室から出るために駆け出した。


「サイゾウ様、待ってください。まだ、浄化が終わっていません」


 待てと言われて誰が待つかよ!! 逃げるんだ。逃げるんだ。男の尊厳を保つために…


「待ってくれたら、甘くとろけるキスをしてあげますよ?」


 シルメリアは確かに綺麗でオレ好みだ。だが、男だ!


「オレはまだそっちに目覚めてないから!!」


「まだってことはこれから? わたしのために目覚めてくれるですか? 嬉しい!!」


「いや、いまのは言葉のあやだ。もう、議論するのも面倒くさい。逃げるが勝ちだろ!!」


 そう言って、教会から飛び出すオレ。そんなオレを見て闇の住民どもであるゾンビたちが次から次へと寄って来やがった。


「ハハハ、ゾンビの大行進。ゾンビの大行進がオレを追いかけて来やがるぜ! なんなんだよ。この仕事! こんな仕事、やってられるかよ!!」


 オレの声がフォニックスの町に虚しく響くのだった。

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