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第11話 逃げる人間(ダーリン)と追いかける豚姫(オーク)

 本当に酷い目にあった。オレは無理矢理に奪われ、投げ捨てられた服を拾うことも忘れて自宅に駆け込んだ。いつもは安息の地である自宅に着いたのにも関わらず、オレは恐怖の余りに寝台の上で膝を抱えて震えていた。


「もうお婿に行けない!」


 あれは悪夢だ。絶対に思い出すな。それにしても、前世から童貞だった清らかなオレになんという神罰。


「ハッハハ、そもそもオレは最強のハンターの1人だろ!? オークなんて全然怖くないぜ!」


 自らを鼓舞するために寝台の上に仁王立ちをする。そして、高笑いした後に大声でそう叫んだ。他の人から見たらきっと基地外みたいな行動だと言われるだろうな。でも、その時のオレはそうでもしないとやっていられなかったんだ。だって、豚に性的な意味で襲われたんだぞ。


「え!? 今、扉を叩く音が聞こえたぞ!?」


 突然になった扉を叩く音にびびるオレ。嘘だろ? まさか、奴がオレの家に来たんじゃないだろうな。いや、きっと違う。そうであってください。オレはそんな願いを込めながら玄関まで行き、自宅の扉を開ける。


「ダーリン、迎えにきたダヨ!」


 オレは無言で扉を閉めた。オレは何も見ていない。どうやら誰も来なかったようだ。部屋に戻って寝よう。


「開けるダ! オデが迎えに来たダゾ!?」


 扉を叩く音が部屋に響く。この現状はおかしい。だって、普通3匹の子豚だと、家で待機しているのはオークだろ。おとこが家で震えているのは間違っていないか?


「ダーリン、恥ずかしがって、すぐにオデたちの愛を阻むこの扉を片付けてそっちにいくからナ」


「何か幻聴が聞こえるな!? 気の所為だ」


 家の扉を叩く狼はいないのだ。いや、あいつはオークだった。なんで、オレは豚に襲われているんだ。3匹の子豚と逆のシュチュエーションかよ!! ああ、つまり、食べられてしまうのはハンターのオレ!?


「イヤだ。イヤだ」


 オレは寝室にある寝台上で、薄手の毛布に潜り込む。思い出すな。思い出すんじゃない。あのオークに服を脱がされて穴という穴を舐めまわされた。あの恥辱を思い出すな。


「声は聞こえてるダヨ? そこにいるダネ?」


 いません。ここにはサイゾウっていうイケメンはいません。お引き取り願います。どうかこの想いが届きますように…


「あれ!? ドン、バン、バキって、なんかやばい音が聞こえてない!?」


 オレの想いはあのオークに届かなかったのだろうか。そんなくだらないことを考えながら、オレが恐る恐る扉の方を見る。するとそこには扉に空いた隙間から光る目があった。その目はこちらをうかがっているようだ。って、扉に穴が空いている!


「ダーリン、すぐにそっちに行くダ」


やめて、その呼び方。オレは豚の恋人なんていないからな。逃げるところはどこかにないのか? オレは辺りを見渡したが入り口は奴がいるため、塞がれている。この家からの脱出ルートがどこにもない。もう寝室の窓からの脱出しかないじゃん。


「すぐに会えるからネ」


 声に反応して、玄関の扉に視線を移すと隙間から見える獣の目。その目がこちらを捉えた。オレは余りの怖さについ目を逸らした。そのすぐ後に扉が砕ける音が聞こえてきた。


「もうダメだ!?」


ここから急いで逃げないとあの地獄が待っている。オレは素早い動作で毛布を投げ捨て窓を開ける。よし、ここから脱出をしよう。今のオレの貞操を守るにはこの方法しかない。このままだとマジでオークにヤられる。一刻も早く窓から脱出しないとな。


「この窓から我が安息の地に脱出しようではないか!」


オレは身を乗り出し、窓から脱出した。助かった。あとはここから走って逃げるだけだと安堵していたら、


「捕まえた」


と同じように窓から飛び出してきたオークがオレの腕を掴み満面の笑みを浮かべながらそんなことを言ってきた。遅かったのか!? もう既にここは地獄。結婚は墓場と言うけどさ。オレの行き先は墓場よりもタチの悪い地獄だ。ああ、このまま、オークにすべてを奪われるのか。やってらんねぇ。


「なんで、こんなに早く移動できるんだよ。玄関の扉からここまではかなりの距離があるだろうが!」


「愛の力!それは思いがけないことを引き起こすモンダ」


 この豚姫様は何を言っているんだろう。どちらかと言えばオレにとっては愛の力じゃなくて、世間がオレに向ける哀の力だよ。なんという悲劇だ。いや、他人事なら喜劇か? 


「もう、離さないダヨ! ダーリン!!」


 そう言ってオレに抱きつこうとするオーク。やばい、これに捕まったらもう地獄行きが確定する。


「終わった。捕まってしまった」


 所詮、オレも人間だ。ケダモノの本気のスピードにはついていけない。


「ダーリン。さぁ、さっきの続きの口づけをするダヨ!!」


 や、やめてください。オレは可愛いモンスターっ子と以外はキスしたくないの!

「助けてくれ!」


オレは恐怖のあまりに目を瞑る。


「どこにいったダ? ダーリン?」


 このまま、ケダモノにセカンドキスを捧げてしまうのか。本当に最悪だ。って、すごい衝撃で吹き飛んでいるのか? 浮遊感があるぞ。おかしいな。


「……あれ?」


 一向に唇に不快な感触がこないぞ。それに荒い鼻息の音も聞こえてこない。オレはおもいきって目をあけることにした。


「樹木にぶらさがっているってどういうことだ? なんでオレはこんな所にいるんだ?」


 それに蜘蛛の糸が体中に巻きついている。正直に言ってこんなサイズの蜘蛛の糸を操る存在を彼女以外にオレは知らない。


「アラクネだよな?」


 彼女はオレを後ろから抱きしめるような形でいつの間にかそこにいた。


「そうよ。私よ」


「助かったよ」


 オレはアラクネを見るために後ろを振り向きながらそう言う。


 彼女の顔がすぐ側にある。美人なアラクネにこんな風に抱きしめられるとはなんという幸せ。それに耳元に聞こえる彼女の吐息。なんと艶かしいことか。オレには興奮を抑えれそうにない。


「ハー、ハー、アラクネ!!」


 アラクネ、襲っていいかい!? いや、こんな風に縛るってことはきっと何かアラクネの方からしてくれるんだよね? 期待してもいいだよね?


 そんな風にオレがアホな妄想に耽っていると、


「助かったよ? あなたね。それは下の奴から逃げ切れてから言って欲しいわ」


 と言って、アラクネが木の下を指す。オレが彼女の指を追って視線を移すと、


「ダーリン、もう浮気か!? その女は誰ダ!!」


 と言ってオークが柱から登ってきているのが見えた。まじかよ。あの豚は木登りもできるのか!?


「さぁ、逃げるわよ」


「逃げるって言ってもこんな高い木の上からどうやってだよ?」


 やばいよ。万事休すだ。このままだとあのオークに捕まってしまう。どうしよう。


「あら? あなたは私が誰か忘れたのかしら?」


 そう言ってニッコリと微笑むアラクネ。オレは思わず見惚れていたが、


「ダーリン、もうすぐそこに行くダヨ?」


 という声に反応して下を見る。


「早い。もう近くまで登ってきているよ!? アラクネさん、お願いします」


「仕方ないわね」


 と言った後にアラクネに抱きしめられた。しかも、後ろから抱えられているため、彼女の胸部が背中に当たる。そんな至福の時を味わい移動をすることになった。



 樹海の木から木へと飛び移るアラクネ。オレを抱えているとは思えないほどの速度で木々の間を移動している。そして、オークの存在が感知できなくなるほどに遠くに来たと思ったオレは、


「逃げ切れたようだな?」


 そう言って背中に当たる物体を堪能するために腰を捻る。


「ちょ、ちょっと、暴れないでよ。まだわからないわよ。もう少しこのまま逃げましょう」


 彼女は赤面しがらそう言う。オレはこの至福の時間が長引くので一も二もなく彼女の意見に賛成した。男ならば誰だってわかるはずだ。


 オレの家からかなり遠い郊外の森に到着したと思ったら、ここまで来たらいいでしょうと言われ、アラクネにおろされた。ッチ、残念だぜと内心で思いながら彼女に感謝の言葉を述べる。


「助かったよ。さすがオレの嫁!!」


「嫁と言わないで! ま、まだ、友人なんだから…」


 赤面しながらそういうアラクネ。君は実に可愛い。オレはもうたまらんとです。


「なによ。その表情!」


 オレの鼻の下が伸びた顔を見て文句を垂れるアラクネ。そんな照れ隠しをしている君の顔もまた素敵だ。


「ふん、それよりも私にもっと感謝しなさいよ?」


 もちろん、感謝しているよ。君がオレのそばで微笑んでくれている。ただ、このひとときをくれたこの世界に…

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