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第10話 プリンセスの悲劇

「騙された。ハンターギルドに嵌められた!」


 緊急のクエストを受けたオレは、夜を徹して駆けることでなんとか王都近郊の現場に着いた。その時はすでに日が昇っており、オレは王都に迫り来るオークどもを片っ端から杖でなぎ倒しながら、数時間ほどプリンセスである美少女オークを探した。しかし、オレがどれだけ探しても美少女オークを見つけることはできなかった。


「ふざけやがって、ギルドの奴らめ。 美少女オークなんてどこにもいないじゃないか!!」


 はじめはワクワクしながらオーク供を薙ぎ払っていたが流石に数時間も探して見つからないと騙されたのではないかと思えてくる。いや、騙されたのだ。オレはポスターに書かれた美少女の絵を握りしめて再び叫ぶ。


「ハンターギルドめ! よくもオレをコケにしてくれたな!!」


 一通り、叫んで疲れたな。そろそろ落ち着け。ビー・クールだ。きっと、美少女オークはこの群れのどこかにいるのだ。諦めないぞ。諦めたらそこで試合は終了だ。


「どこを探しても、このポスターのような美少女が見つけられない。次から次へと襲ってくるのは普通に毛深い豚野郎ばかり。いったい、どうなっているんだ!」


 倒しても、倒しても、まったく終わりが見えない。オレの苛立ちはどんどん募る。それでも、オレは美少女オークが諦めきれずにオークを片っ端から片付けていく。すると、オレが辺りを見渡して気が付いた時には群れの中心に来ていたのだった。


「どこだ! どこにいる? プリンセスの美少女オーク!? 君を貰いにきたよ。さぁ、未来のお婿さんの所においで!」


 サイゾウさんが来たよ。シャイな君も出てきて良いんだよ。オレは自らの鼻にフックを引っ掛けて豚のような顔になりながら美少女オークを探す。この姿なら美少女オークもオレを好きになるに違いない。


 そんな下らない自信を持ってオレがプリンセスの美少女オークを探していると、


「ブヒ、オメェは何を言っているだ!? プリンセスオークって、オデは目の前にいるでねぇか」


 と言って、他のオークよりもひときわ大きい豚ズラが群れの中から数名の部下と共に出てきた。


「お前がプリンセスの美少女オークだと!?」


 二つの丘よりも遥かに大きなお腹。そして、その腹よりも、大きく突き出した安産型のヒップ。もうとてつもなくナイスバディ。それ以外の言葉が脳裏に浮かばないほどにオレは驚愕した。いや、そうじゃない。現実を受けいれることができなかったんだ。だって、ギルド職員から得たポスターの人物と違い過ぎるからさ。


「ブヒ、ブヒ、なんだ。何をそんなに驚いているんダ?」


 メスだったことにも驚愕なのに、この豚ヅラでプリンセスだと!? こんなのプリンセスの美少女オークじゃなくて、豚姫だろ。オレはギルドからの依頼で得たポスターと豚ズラの顔を何度も見比べた。その後にポスターを大地に叩きつけた。


「騙された!」


「騙された? まぁ、なんのことかわからねぇが…」


 豚姫を守るように右側に立っていたオークがそう言葉を切って口元を歪め、


「よくも美人で有名なオラたちのプリンセスを侮辱してくれたな! 万死に値するダ!」


 と雄叫びのように威圧的な声と共にこちらに突撃してきた。オレは咄嗟に杖で相手の頭を突き、すぐにサイドステップで間合いを取った。


「オメェ、やるな。オデもよりも強いな。だが、これはどうダ? オーギン、いくダゾ!!」


「わかったダヨ。オーキン!」


 そう言って右手をあげた後に、豚姫の左側に立っていたオークがこちら近づいてきた。オーキン、オーギンと呼ばれた2体の獣がそれぞれの拳を左右から振りかぶってきた。左右からの同時の攻撃。オレは相手の間合いをはかりながら、杖を腰に這わせ、大地に弧を描くように振るう。どうやら、無事にオレに奴らの攻撃が到達する前に杖の一撃が2体のオークに当たり、大地に沈めることができたようだ。


「オメェ、強いな。オデがこの群れのリーダーであるプリンセスオーク二世である」


「嘘だろ!? 本当にプリンセスなの! 美少女じゃないじゃないか!!」


「美少女? 確かにオデは美少女ではない。世界一のオーク美人ダ!!」


 そう言って胸を張る豚姫。いや、確かにオークの基準だと美人かもしれないけどさ。


「オーク基準なんてわからんわ!! この雌豚!!」


「オデを豚と言うノカ?」


 ハッキリ言って豚以外には見えません。どうもありがとうございました。


「プリンセスを侮辱するとワ。死にたいらしいな?」


 どうやら、豚というのは彼らにとっても侮辱らしい。でも、どう見ても豚だろう?


「ザコは黙って、そのまま沈んでいろ!」


 先ほど、倒れたオーギンが起き上がり、タックルを仕掛けてきた。半身をそらした後に、サイドステップをすることでオーキンの攻撃を回避。そして、オーキンの後ろに廻りこみ頭をかち割る。


「ああ? オーギンがヤラレタだ!! オーギンの仇!!」


 複数のオークが突撃をしてきたので、右手で杖を大きく振り回す。すると鋼鉄で出来た杖が突撃を仕掛けてきたオーク全員に当たる。いや、馬鹿すぎるだろ?


「まとめてチャーシューにしてやるよ」


 オレは意気込んでそう言いながら杖を振るう。


「本当に強いな?」


 オレと部下のオーク達のやり取りを見ていたプリンセスオークもとい豚姫の総大将。奴はオレの実力を測るように睨みつけてきた。


「この屍の数を目にして実力差に気がついたのか? 命乞いをしても遅いぞ?」


 当たりにいたオークを一通りに片付けた後にオレはそう言う。奴もオレの戦闘を見て分かったと思うんだ。オークなどオレの敵ではない。


「分かっているダ。オデがおまえに叶わないことくらいわ」


 奴の顔を見る豚姫は覚悟を決めた目でそう言ってきた。


「そして、おまえがここになにしにきたかもな」


「…そうか」


 かわいそうだ。だが、これも仕事。せめて、彼女を一撃で屠ってやろう。


「オデを嫁に欲しいんだな?」


 なにを言っているんだ? 豚姫、改め雌豚は!? 


「その鼻フックはオーク族のオスが愛するメスに求愛する証」


 そうなのか!? しまった。豚のような顔なら美少女オークが惚れるだろうと思って鼻フックを付けっぱなしだった。


「オデはおまえの愛を受け取るだべ。さぁ、オデと子供を作ろウ!」


 急に腰を淫靡にくねらせて、オレに迫ってきた雌豚に唖然としてしまった。その一瞬が命取りだった。すごい力で抱きつかれてしまった。


「は、離してくれ。やばい、このままだと喰われる!!」


「まずは優しくキスからするダ」


「や、やめてくれ!!」


 オレは必死で顔を振って、豚の口からできるだけ離れようと試みる。だが、凄まじい腕力で抱きつかれているオレの頭が移動できる範囲など高が知れている。もうダメだとそう思っていた時、


「あら、あら? 意外ね。こんなオークの群れを撃破できるくらいにあなたは強かったのね。」


 と言って、オレを見て微笑む。


「って、アラクネ! いつの間にいたの? 助けて!! アラクネさん」


 大変に良いところに来ました。マイハニー! サイゾウさんはこの豚に犯されそうなんです。ヘルプミー!!


「もう、オデはおまえのものさ。はじめてだから優しくしてダ」


 くそ、なにを勝手なことを言ってやがるんだ。


「いや、やめてくれ。舌でオレの顔を舐めないでくれ!」


 オレの服に手を伸ばすな。やめてください。お願いだから、服を脱がさないで!?


「手で目を隠しているつもりかもしれないけど。隙間から見ているのはバレてるから! アラクネ、赤面してないで助けてよ」


オレの視線に気がついたアラクネ。


「不潔」


 彼女はまるで汚れたものでも見るような目でオレを一瞥し、笑う。違うんだ。アラクネさん。オレが大好きなのはこんな毛むくじゃらな化け物じゃなくて…


「だから、そこはダメ。男に取って大切な場所なの!」


 オークに組み伏せられたオレは悲鳴をあげることしか出来なかった。その後、しばらくの間、岩場にオレの絶叫が響き渡ったのであった。

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