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冬Ⅴ

「(…調べ物?何の?)」

「(まあそこは冬香ちゃんに任せるからさ、折角こんなに広そうな知恵の泉で何も調べないなんて勿体無いよ)」

「(…成る程)」


どんなきまぐれでこんな発言に繋がったかなど知ったことではないが、一理あるといえばある。

文豪の作品や植物図鑑を読み漁るのも悪くない。


「おーいトーカ!早くー」

「あっうん、ごめんね…あれ?

(私、いつから植物なんて好きになったんだっけ…?)」




「だー!分っかんねえええ!」

「もお~しょうがないなあ美夏は。じゃあもう一度説明するからよ~く聞いててね?」

「うううお願いしますアーキ様あ…」


秋楽に何度も定理を説明してもらっている美夏の向かいで、冬香は山積みにされた分厚い本を一つ一つ読んでいた。

元々小さい頃から読書は好きだった。

伝記を片手にぼんやりとしたり、シャーロックホームズの世界に何となく浸ってみたり。

悲劇の代表者ハムレットの恋人に感情移入してみたりしたこともあった。

今も枕草子だの、古今和歌集だの、グリム童話全集だのの頁をぱらぱらと捲り、飽きたらスピンを挟んで次の本を開いた。


「(…そういえば、秋桜って子はどうしてるかな)」


ふと辺りを見回すと、少女は空中にふよふよと浮きながら灰色の薄い紙のようなものを眺めていた。

幽霊みたいな体のくせに物は触れるんだな…と思いながら近付いてみると、秋桜の持っているのは随分古びた新聞だった。


「(それは何?)」


やけに熱心に読んでいたので中々気づいてくれなかったが、三回ほど名前を呼ぶとようやく顔を上げてくれた。


「(…冬香ちゃんか!)」

「(あなたに話しかけるのって私くらいだと思うけど)」

「(ははは、まあそっか。あ、でねこれは何となく見てた資料なんだけど…)」

「(資料?事件か何か?)」


秋桜の新聞を覗くと、どうやら少し前の事故の記事のようだった。

悲惨な形の金属へと成り果てた飛行機の写真と、亡くなった人、助かった人の名前が並んでいる。


「(ふーん…?秋桜ちゃんがこんなシリアスな代物に興味があるなんて知らなかった)」

「(むー…シリアス系にっていうよりこの事件に、なんだけどねえ…)」

「(え?そうなの?)」


冬香はもう一度記事を見てみた。

写真は何度見ても変わる訳ないので名前の一覧に目を通す。

すると、何故か気になって仕方が無い名前を見つけた。


「(ん~?どしたの?)」

「…この男の子と女の子…」


二人共、暖かそうな名前だった。名字が同じなので兄妹だろうか。

兄が春助しゅんすけで、妹が乃春のはる

春助は生存欄に、乃春は死亡欄に書かれていた。


「春助君はこの頃12歳かあ。この事件は4年前だから、今は冬香ちゃんと同じ年だね」

「乃春ちゃんは10歳か、可哀想…」


冬香はこの時、秋桜がムッと顔を顰めたのに気づかなかった。


「別に知らない子に同情してあげる必要はないんじゃない?大体、この乃春っていう女の子がこの時に何を考えてたなんて冬香ちゃんには分からないんだから」

「え?」


冬香は吃驚して秋桜を見上げた。

残酷なほど現実的な意見にも驚いたが、何よりも秋桜の声が冷たかったからだ。

こんな愛らしい見た目の少女でもこれ程冷酷な声を発するのか。


「…秋桜ちゃん?」

「!ご、ごめん…」

「…?何かあったの?私、あなたの気に触ること言った?」

「ううん別に…ホントごめん。冬香ちゃんの優しさに水差しちゃったね」


そう言ってまた秋桜はふよふよと浮遊しながら本棚をすり抜けていってしまった。


「…あのートーカ…?」

「あっ美夏ちゃん。勉強は終わったの?」

「う、うん、まあね。それよりもさ…」

「ん?何かあった?」

「…トーカ今、空中と喋ってなかった?」


…………。


「…ハッ!」


途中からテレパシーじゃなくなっていたのに気づいたものの、完全に後の祭りである。


「気のせいでしょ、冬香はそんな残念な子じゃないって」

「アーキ…そ、そうだよね!じゃあ帰ろう!」

「そうだね…」


秋楽のフォローに内心で手を合わせながら、冬香は本の貸し出しをしているカウンターに並んだ。


一応、先程の新聞も持って。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「はあ~~~危なかったあ…」


秋桜は冬香がこちらを見ていないのを確認してから本棚の後ろに廻り、溜息をついた。


「ついつい自分の感情を要らないところで出そうとしちゃった…まだまだだな私も。これじゃその内クビになっちゃう、そしたら極楽か地獄へ追放じゃん」


ふんす、と鼻息を荒くして拳を握る。


「この任務だけは何としても成し遂げねば!あの人達の遺志を…やべ、まだ死んでなかった」


てへ、と舌を出してから「いやいや」と自分の頭をぶん殴る。

もし他の誰かに見えていたら、さぞかし可愛い独り漫才と判断されただろう。


「とにかく!私はまだこの世にいたいし、皆を見守らなきゃだし、この政策にまだ関わりたいし…頑張るぞ~」


えい、えい、おー!と手を掲げた。

…独りで。




「(秋桜ちゃん、どこにいるの?帰るよ)」

「おっと、お姫様のお出ましだ。(はいはい今行くよー)」


秋桜は再び本棚をすり抜けて、冬香の方へ向かった。

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