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冬Ⅳ

「…ちょっと」

「ん?」

「何で付いて来るの?通報していい?」

「それはムリ~だって私~君にしか見えないから~」


引き離す努力は一応した。

しかしこの少女、明らかに普通の人間ではない。


運動神経が悪いとはいえ、かなり角を曲がったり遠回りした。

それなのにこの少女は追いかけるどころか横に並んで走っているのである。

しかも途中で一瞬姿が消えたり空中浮遊するときた。

おまけに先程の台詞。


「…あなた幽霊?」

「う~んちょっと違うんだけど…まあなんだっていいじゃない。私はあなたの為に今ここにいるんだから」

「はあ…」


さっぱり目的が分からない。

それに今の所、冬香にとっては迷惑でしかない。

しかし、あくまでこの子は冬香である。

誰よりもモノを冷静に考えることができる名前通りの子である。


「…しょうがないなあ。取り敢えずはあなたを信用してあげる。疑う理由もないし、明らかに見た事ないタイプの人間?だし、私の為っていうのがよく分かんないけど」

「わお!じゃあ早速冬香ちゃんの部屋を覗いちゃおっと」

「え、ちょっと待って今鍵を…!?」


冬香はフリーズした。ドアを通り抜けていったのだ。


「…やっぱ幽霊かな」




あの日以来、謎の少女は冬香と生活を共にするようになった。

朝起きれば彼女がいるし、登校時には近くをふよふよ飛んでいる。


「…あなたの目的が未だにわからないよ…」

「ふっふっふ…自分で言うのもなんだけど、今の私は謎の少女…何かかっこよく見えない!?」

「ただの中二病に見える」

「いや~」


冬香は全くもう…と言いかけて、ふと、まだ名前を知らないことに気づく。


「そういえば、あなたの名前は何?」

「え~私?私はねえ…」


そんなつまらないことを…とでも言う様に目を細めると、少女は冬香の前で一回転する。


「私はねえ。過去の名前を捨てたから、今のでよければ教えるよ。私の名前は秋桜コスモス。春なのか秋なのか分からないのが素敵でしょ?」

「やだ」


秋桜はきょとんとした。どういう意味の即答だろう。


「…ああ、そんな変な名前?って感じ?悪いけど変えるつもりは」

「そうじゃなくて、私はあなたを本名で呼びたい。あれだけ私に図々しくしといて自分の名前も言えないの?」


更にきょとん。そしていきなり大口を開けて、


「…あっははははっ!冬香ちゃんって面白いなあ!今までそんなこと言う奴一人もいなかったよ!」

「…そう?まあ私って変わり者みたいだから…周りは嫌なのばっかり」


冬香の俯いた顔を涙を浮かべた目を擦りながら窺う。


「ふーん…?何だかその言葉の割にはそんなに悲しそうじゃない顔な気がするケド」


冬香は窺ってきた顔をチラリと見た後、桜色の瞳と目を合わせてみた。

鳩が飛び立つ音と、朝の挨拶をする女子高生の声が遠くから聞こえてくる。そろそろHRの時間である。ぼんやりしていると予鈴が鳴ってしまいそうだ。


「…まあね…そろそろ行こうか…」




「へーここが冬香ちゃんのクラスかー」

「ちょっと頭に乗らないで。…ていうか本当に見えないんだね、秋桜ちゃんって」


冬香の周り以外はいつも通り日常を回している。

一時限目の数学Ⅰも、二時限目の古典も、運動部の早弁も、騒がしい昼放課も…。

そして当然、授業後の退屈な女子会もどきもやって来る。


「B組のあの子だけどさあ…最近彼氏できたんだって…」

「ああ聞いた!D組の背の高い男の子でしょう?」

「もう、やんなっちゃう…!ねえ冬香ちゃん?」

「…うん、そうだね」

「(まったく~女子会やる女の子はモテないっていう噂がある中でよくそんなこと言えるよね~!)」

「!?」


冬香が驚いたのは突然の乱入だったからもあるが、冬香にしか聞こえていないようだったからこそ余計に動揺したのだ。

その証拠に、ざわつきそうなところを皆、平然としている。


「(ごめんごめん、テレパシーできること教えてなかった)」

「(それなら早く言ってよね…。私、結構あなたと話す時、周りからの視線にハラハラしてたんだから)」


「さて…皆、この後どうする?」

「あ…私は図書室に…」

「冬香ちゃんったら勤勉さんなんだから~」


余計なお世話よ。

…と冗談交じりに言いたいところだったが、今日はいつもと違うことがあった。


「あっあたしも行く行く」

「え!?美夏も!?まさか熱でもある?」

「んな訳あるか!」

「じゃあ私も行こうかな」


手を上げた二人目は意外にも秋楽だった。

秋楽の取り巻き達もぽかんとしていたが、秋楽は完全にスルーして二人の手を取った。


「さあ行こう。ねっ?」

「う…うん」




「まさかアーキも付いてくるなんて思わなかったよ~!」

「…美夏ちゃん、秋楽ちゃんのことそんな呼び方してたの?」

「そうなんだよね~美夏くらいしかいないよ~もお~」


季節名三人のおしゃべりは予想外に楽しかった。

一方、廊下ですれ違う同学年の生徒達はその組合せに困惑しながら歩いていく。

確かに全員同じグループの子とはいえ、タイプはバラバラで、三原色を平衡に縫った様である。

可愛らしくも、地味目で小柄な冬香。

中性的で元気を人間の形にした様な美夏。

皆が声を揃えて完璧だと言う秋楽。


「でも何で秋楽ちゃんも来たの?」

「えー偶にはいいかなって思っただけだよ」

「ふーん」


美夏は納得したのかそれ以上何も言わなかったが、冬香は秋楽の様子を見てううんと唸った。

ニコニコとしている秋楽の表情はどこか違和感がある。

きっと何か思惑があるのだろうが、営業顔でそれを塗りつぶしているようだ。

冬香は人を窺って生きてきたので、余程の鉄壁の仮面でなければ見破れる。

秋楽もなかなか上手く隠していたのだが…冬香は不本意ながらプロであった。


「…あ、ここだここだ」

「何回見ても大きいよなあーここの図書室は」


美夏がサッと重い色のドアを開けて入り、次に秋楽。

冬香も当然それに続いて入ろうとしたのだが…。


「(おーいちょっと、冬香ちゃん)」


四六時中一緒にいるにしては久々に感じる声に呼び止められてしまった。


「(どうしたの?)」

「(いや、何かねえ…あの二人さあ…)」

「(?美夏ちゃんと秋楽ちゃん?)」

「(…)」


しばらく「むー…」と唸っていた秋桜だが、すぐに話題を変えて、


「(まあいいや、ところで冬香ちゃんは普段からここ、結構使ってるの?)」

「(え?うん、まあ本は少ししか借りてないけど…何で?)」

「(今日はさ、あの二人に便乗してちょっとばかし調べ物をしてみない?)」


「…は?」

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