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とある街の群像   作者: 吾妻 星一
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序章

 人口はどちらといえば多く、大都会のように先進的で賑やかなわけではないが、かといって寂れてしまっているわけでもないとある街。街の中心にはそれなりに活気があり、離れていけば、穏やかな田園風景も、夏以外は静かな海岸も味わえる、そんなとある街。ここには様々な人がいて、様々な日常がある。今日もいつものように1日が始まり、街の記憶に新しいページが加えられる。今日の物語は誰が綴るのだろうか。

 「おや、初めて見るお客様ですね。ようこそようこそ、じっくりと見ていってください。ちょっとそこらじゃみかけないような珍しいものや、そこらに転がってる石ころみたいに、価値があるかもわからないような変なものもありますよ。でもきっと、貴方はこの場所を気に入ります。だからこそ、貴方はここまでたどり着けたのですから」

 

その店は、人気のある大通りとは反対のうすらぐらい路地裏にあった。店構えは古風な感じであり、寂れたこの通りに似つかわしくない。声をかけてきた人物は竹箒で表を掃いており、私に気がつくとすぐさまその手を止め、笑顔を浮かべた。

この人物は中性的な外見をしており、ハットをかぶっていて片眼鏡を嵌めていた。こんな格好普通は似合いそうにないのに、この人物には妙にしっくりときていた。年齢は、若いように見えるが、話す雰囲気には落ち着きがみられ、なんというか年齢不詳といった風に見えた。というか、はっきりいってかなり怪しい人物に見える。どこか気持ちを許せないような感じなのだ。


「いや、用があったってわけじゃないんです。偶然店の前を通ったってだけなんで・・・」


もともと、この街に引っ越してきたばかりで道にあまり詳しくなく、ちょっと気分転換に散歩に出てみれば見事に迷い込んでしまったとうわけだ。そこに、なんというかまあ目に留まる店と、いかにもな雰囲気の店主、さらに彼の述べる聞きなれない口上ときた。これはもう警戒しないわけにはいかない。


「そうつっけんどんな態度をとられてしまうと、少し悲しくなってしまいますよ。まあ、覗いていってくださいよ。昔から言うじゃないですか、見るだけならタダだって」


「そういう言い方は余計に怪しいんですけどねえ・・・」


一点の曇りもない笑顔でそう言ってのける彼は、商売人として何か間違っているのではないだろうか?いや、これが正しい接客なのか、どうなのだろう。あからさまに作為のある言葉と、裏のなさそうな笑顔というミスマッチにこれほどの混乱効果があるとは思わなかった。

取りあえずはまあ・・・悪い人ではなさそうだ、と断定してみる。やはり笑顔の力は偉大だ。少なからず悪人には見えないのだから。というか、どんな店なのか少なからず興味を惹かれているのが本音だ。少しくらい店を覗いてもいいだろう。どうせ時間はいっぱいあるのだから。


「そうですね、それなら少しお言葉に甘えましょうか」


「どうぞどうぞ!なかなかにお客様が集まらないので、今日は暇をしていたのです。さあ、席におかけになってください。最初の珈琲はサービスとしますので」


「珈琲?ここって喫茶店なんですか?」


驚いた。何かを売っているような口ぶりだったというのに、いきなり珈琲の話が出てくるとは。そもそも、こんな人気のない場所で喫茶店なんか開いて儲かるものだろうか。


「喫茶店なんかじゃないですよ。何て言えばいいのかな・・・。ここは、まあ雑貨屋・・・うーんこれも違うか・・・何でも屋?・・・なんかこれも違うような」


やっぱり危険かもしれない。本当にこの人についていって大丈夫なのだろうか。目の前で真剣に自分の店について悩み出す彼に、さすがに危機感を覚える。


「いや、決して怪しい店じゃあないんですよ!ただちょっと説明が難しいんです」


「さっきから帰りたくて仕方ないんですが」


「そんなこと言わないで!きっとお客様のご期待に応えられると思いますから!!」


「私が期待していることがわかるって?」


少し意地悪なことを言ってみた。どうも彼の言動は嗜虐心を煽るようだ。会って少しの会話を交わしただけなのに、何故か彼の性格が予想できてしまう。きっとまた慌ててしまうに違いない。


「退屈なんでしょう?まったく新しい何かに出会いたい、と思っているのでは?気分はなかなかに最悪で、面白いことを探しているのでは?」


前言は撤回しようと思った。彼は一切表情を崩さずこう言い切ったのだ。まるで、全て見通されているかのように。


「だから、身構えなくっても大丈夫なんですよ。ここならお客様が欲しいものがきっと手に入ります。さあ、おあがりください」


私は無言のまま、彼に続いて、店内に足を踏み入れた。後ろを振り返って引き戸を締め切ったとき、私の心はわずかばかりの期待と、大きな不安、それに興奮で波立っていた。




店内は雑多な感じであった。手前にカウンター席が有り、そこに腰をかける。背後には所狭しと本が積み上げられており、分厚いものから薄っぺらい物まで、ありとあらゆる種類の本があった。奥の方にはこれまた色々な物が並べられていたが、虫眼鏡や懐中時計だったり、はたまた地球儀があったり、何処かの花畑で誰かが踊っている絵だったりといまいち統一感はない。

たしかに、これは何といっていいかわからないな。例えるなら、アジアの土産屋といったところだろうか?とにかくどこか異国風であり、胡散臭い。本当にここは何なのだろうか。


「もうすぐお湯が湧きますから、しばらく待っていてくださいねえ。」


その声で我に返る。ずっとキョロキョロと店内を見回していたのが恥ずかしくなってしまった。


「本当に・・・何ていうか・・・何ていうのかなあこの店は」


「ねっ!わからないでしょう!!」


そんな嬉しそうに言われても困るのだが。だいたい自分の店じゃないのかと突っ込みたくなる。


「本は・・・まあ、わかるんですよ。色々な種類があるし、古本屋みたいですね。ただ、奥の方はてんで統一感もないし、一体何を扱っているんですか?」


「まあ、買取もやってますからねえウチは。珍しいものや、私が価値があると判断したものは全て引き取ってるんです。そんなこと繰り返してたら、こんなことになっちゃってまして」


「そうですか。元々は何の店のつもりだったんですか?」


「元々ですか。まあ、その時からそういえば曖昧だったかなあ」


「はあ・・・」


本当に何を考えているのか読み取れない。会話を続けていても、妙に確信に触れられてないような、上手く反らされているような、そんな気分だ。手のひらの上で転がされているようでもある。


「まあ、そんな難しい顔はしなくていいんですよ。ここは何かって断定できる場所じゃないんです」


「よくそんなんで今まで店が続けられましたね・・・」


「ふふふ、これは厳しい。さて私特性ブレンドの珈琲の完成です。温かいうちにどうぞ」


サイフォンから注がれた珈琲は素晴らしい香りを放っていた。心を寛がせる香りが鼻腔に溜まっていく。言うだけあってか、なるほど腕は確かなようだった。


「いかがでしょうか?」


「美味しいです。本当に美味しい・・・」


「でしょう!?いやあ本当にこの珈琲には自信があるんですよねえ!!」


まるでテストが褒められた子供のようだ。結局彼の人となりはさっぱり掴めそうにない。取り敢えず、ひとつだけ確かなことは、このよく分からない空間と珈琲が気に入りだしているということである。


「こんなに美味しいコーヒーが淹れられるなら喫茶店でいいじゃないですか」


「いやいや、それじゃダメなんですよ。私がやりたいことじゃないですからねえ・・・」


「さっきからあなたの言っていることがよくわからないなあ。何ていうのか・・・はぐらかされてばっかりな気がする」


「そんなことはないですよ。」


「だって質問にも満足な答えくれないじゃないですか」


「そんなつもりはないんですけどねえ・・・。いやいやお客様を焦らしてしまっていたとは申し訳ありません」


「そう思うなら、色々教えて欲しいですねえ。私の退屈を紛らわしてくれるんでしょう?」


「ええ、それはもちろんですとも!ではそろそろ始めましょうか」


「何を?」


「お話ですよ。実は私、大のおしゃべり好きでしてねえ」


「・・・からかっているんですか?」


「滅相もない!私は大真面目です!!それに、きっと気に入ってくれると思いますよ。その珈琲も、お客様を素敵な世界へ誘う手助けをしてくれますとも」


「まあ、飲み終わるまでなら聞いてあげますよ」


「それは有難いなあ。まずは何の話をしましょうか・・・そうだなあ・・・」


そうやって彼は語りだした。霊が見える少年の話を。珈琲の香りと古い本の香り、また、彼の話し方と声が混ざり合い、不思議な感覚に陥る。まるで、そこにいるかのように。まるでその話が実話であり、その場面を私が覗き込んでいるかのように。私は私が離れていくのを確かに感じ取った。


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