第2話 8月4日-2 三人
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第2話です。
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「遅かったね」
そう言って二人――五木と剣を迎えたのは、一人の少女――嵐呼風名だった。彼女もまた制服姿である。
風名は白いニットベストにスカートという夏服姿だった。細身ながら目を引くほどスタイルがよく、五木は視線の置き場に困ることがある。できるだけ目を見て会話をするように心がける。
「来てもらって助かったよ」
風名は振り返ることも答えることもしない。今は作業中だ。集中しているのだろう。
風名は男性に手をかざしていた。魔法を使っている様子だ。
やがて一段落着いたらしい。セミロングの髪を揺らし、風名は振り向いた。
強気な印象を与える目尻がほんの少し上がった形の目。その中に収まる磨かれた翠玉のような色の瞳が五木の目を見つめる。
「こっちはもう大丈夫、眠らせて傷を洗浄したから」
風名は魔法使い。傷口を洗浄・消毒する程度の治療魔法も使える。得意とするのは風魔法。
「でも傷に比べて出血が多い。人間の血が狙いだったのかも」
彼女はヒーラーの適正はないと自ら語っていたが、傷を診るようなことはできるらしい。それは本人の観察眼によるものか。
「血?」
「そう、血液。各宗教において神聖視されてる。地域によっては穢れとして忌まれるけど、おおむねメリットを与えるものとして認識されてる。エリザベート・バートリーとかしらない?」
「……血の伯爵夫人なんか知らないな」
「知ってるじゃん。つまり集めて何かしようって企んでるってことかも」
美しさを保つため、若い娘の生き血を浴びたとかなんとか。そんな話を聞いた覚えが五木にはあった。その行為にどこまでの効果があったのかは知らないが、それほど血というものは特別なのだろう。
「……そういや風名、こっちには何も来なかったか?」
聞くまでもないことだったが、五木は念のために尋ねる。
五木や剣とは違って、直接戦闘は不得手。とはいえ遠距離で対処できる風名ならば心配の必要はないだろう。これは挨拶みたいなものである。
「……なんにもなかった」
彼女は少し意外そうな様子で応じた。やはり杞憂だったらしい。見ればわかるでしょ、とでも言いたげだった。
「五木、そっちは大丈夫だった? 囮になって逃げたみたいだけど」
「残念なことに僕がとっちめようとしたら剣が斬り捨てたよ」
「……怪我、してない? 診るけど」
ぶっきらぼうな口調なのに、心配してくれていることは十分伝わってきた。
「剣のおかげでなんともないよ」
五木の身を案じていたみたいだった。気が強く、自分にも他人にも(特に五木には)厳しい彼女なのだが、今日は虫の居所がいいらしい。
「そっか。……で、なんだったの、その獣みたいなの」
「まったく見当がつかない。……剣も」
確認のため剣を見るが、周囲を調べるのに集中しているらしく、聞こえていない様子だった。
「どんな姿?」
「羽の生えた犬。……いや狼か」
五木が答えると風名は腕を組み考え込む。無意識に思考に集中する端麗な顔を五木はつい見てしまう。その翠玉の瞳に視線が吸い込まれる。
「うーん、ダメだ! わからない!」
何かわかるのだろうかと期待半分に彼女の顔を注視していた五木は、突如大声を上げられ寿命が縮まる思いをした。
「斬った途端に光の粒みたいになって飛んでいったんだよ」
「光の粒……」
いつの間にか周囲の捜索を終えていたらしく、剣は証言した。風名の表情を見るに実際に見ていないと咀嚼しにくいらしい。手掛かりは現状これだけという少なさだ。これ以上この場で考えたところで、何か思いつくとは思えなかった。
「今日はここまでにしよう。これ以上考えても何か進展はなさそうだし、明日部室で考えるか」
場を改めても獣について思い浮かばない可能性の方が大だとは思うものの、この場で立って考えるよりはましだろうと思ったがゆえの五木の提案だ。
明日になれば何者かに襲われたこの男性が通報でもして、警察やらの調査が行われるかもしれない。
「確かに、学校なら資料もあるかも……」
「うん。まあ僕は明日になっても思いつかなそうだけどね」
前向きな風名とやる気の感じられない返答をする剣だった。
どちらも解散の提案に肯定的だ。
別れの挨拶もそこそこに今夜はこれにてお開きとなった。
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次回、夜の街を賭ける異常。「第3話 8月4日- 獣」




