第17話 8月7日- 召喚士
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第17話です。
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そろそろ悪魔たちの限界も近い。召喚士は部屋で一人そう思案した。
裸電球一個の照明では部屋を全て照らすには足りない。
簡素な部屋だった。パイプベッドと木材をただ組んだだけのような机と椅子。召喚士はベッドにその体を横たえていた。近頃は立っていることも座っているのも辛い。
色の騎士団の三名が逸美原市に来たその日、マルコシアスの分身五十数体を一夜にして壊滅させたことも記憶に新しい。一日に作る分身は三十体が限度、それでも悪魔たちの食物たる人間の血肉を集めてもらわなくてはならない。マルコシアスに仕事を頼みすぎだろうか。そんなことも考えてしまう。
いままで問題はなかった。だが、悪魔の力が高められれば高められる程、生命エネルギーの消費も激しくなっていった。
悪魔たちは人間のように生きて、話もできる。だが、姿形も人とは違う。それに、エネルギーの供給元は人間だ。いままでずっと人を殺さないように血肉を拝借してきたが、限界がそう遠くないことは既に察している。
召喚士は知っている。
支配下の悪魔たちの中に、すでに人を殺している者がいることを。
でなければとっくに死んでいる。だからこそ異を唱えることはできない。
ただその動きだけでは不足だ。このままでは自分ごと悪魔たちも死んでしまう。
「……アスモデウス」
「ーーはい、マスター」
裸電球が少し揺れる。
「早いね。何人、殺せる?」
「数万。それは楽しんで殺すのか?」
年若い声で発せられる召喚士の問い。それに答えるのは虚空。アスモデウスの姿はない。まだ召喚しておらず、ただパスを繋げているだけゆえだ。
アスモデウス、龍に跨った悪魔。快楽至上主義者の変態、と召喚士は評する。
戦闘すら、殺戮すら、痛みすら、快楽を感じるための手段に過ぎないと嘯く。
そんな悪魔だがその力は凄まじい。中でも龍のブレスは大量破壊兵器といっても差し支えのない火力を誇る。
「そんなわけない。だから今まで誰も殺してない」
「わかるとも」
「……なら訊くな」
「しっつれーい」
冷たくあしらっても、罵倒でさえもアスモデウスにとっては快楽だ。何をしても喜ぶ。これを苦しめる方法はいまだにわからない。
アスモデウスの言うように数万の人々を殺めるのは容易いだろう。あとは自分次第か。
最近は、ふと意識が途切れることがある。生命エネルギーを吸われ続けている実感は、もはや疑いようもなかった。
強い悪魔を従えられることは、召喚士としては優秀ということらしい。だが、その苦しみを知らぬ者に称えられても虚しいだけだ。
そもそも召喚士の目的というものを知らない。現代では悪魔を生き永らえさせるために人を脅かしているだけに過ぎないとさえ思える。召喚士の生命エネルギーを糧にすることは、契約した悪魔を放り出して捨て置けなくするための都合の良いシステムだとさえ。
自死を考えたこともあった。それは過去の思い出が許してくれなかった。
自死以外で解放される方法があるのならそれに縋りたい。咎める者がいるのなら、それは死ねと言っているようなものだ。逸美原の中心部を焼き払えば多くの命を奪うことができるだろう。
他に方法はないのだろうか、まだそんなことを考えてしまう。
ーーそれでも悪魔は生きている。悪魔だから、それが生きてはいけない理由にはならない。
人殺しが許されないこと、それが生きる妨げになる理由はない。
どんな存在も、生きるだけで何かを犠牲にしている。
「アスモデウス」
「はっ」
「準備して、マルコシアスが集めた血肉の半分をあなたに回す」
「それでは他の者が……」
「少しの間我慢してもらうしかない。じゃなきゃ、私共々ーー死ぬだけ」
「……」
アスモデウスは沈黙した。言い返せるわけがなかった。多数の悪魔の為に主が戦おうとしていることはわかる。
「アスモデウス、あなたが頼りだ」
「主人にそう言われてはやらぬわけに行かぬでしょうな」
「……かの王はどうやってあなたたちを維持していたのか、知らない?」
「……プルソンやイポス、ラウムあたりにでも聞いてみればいかがでしょう。過去や未来を識る者は多いですから」
「わからなかったから、あなたにまで聞いてるんだけれども、この役立たず」
「ほおあ、今のは良い! とても良い! もう一度言ってくだされ、さあ、さあ、さあ!」
変態のスイッチを誤って押してしまったようだ。何を言われても快楽に結びつく。無視するのが一番だ。アスモデウスとの接続を切断する。
人を殺す事に躊躇いはある。
それでも、もう答えを先送りにはできなかった。
騎士団相手に話が通じるとは思えない。接触するなら不可解部だろう。まずは、五行五木から。考えるのも疲れてきた。
召喚士はそっと目を閉じた。瞼の表面に電球の光が時折ちらついたがそれもすぐに気にならなくなった。
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次回、五木、妹と買い物に行く。
「第18話 8月8日-1 火種」




