1.5
パーティーは今日から3日間続く。
大人は勿論社交である。
様々な場に席を設け情報交換から、取引契約に至るまで忙しくしている。
私は昨日は挨拶があったが、今日はこれといった予定はない。
基本は子供たちが集まる部屋に行って思い思いに過ごすことになる。
そこまで多くは無いが子供同士でも顔なじみを作っておきたいという親の狙いがあるのだろう。
ある程度粗相をしないと思える成長した者が一緒に来て部屋に集まっている。
つまり、私と同じ年齢の子は来ていないという事だ。
おそらく扱いにくいと遠巻きに敬遠されている空気を感じたので、一人で時間を使おうと考えていた。
だからあの書庫の本を持ってきてもらって読むのだが、重いので絨毯の上に置いて、這いつくばって何とか一人で読んでいる。
部屋の隅っこでやっているので、周りに迷惑をかけることは無いだろう。
今回偶々読んでいる本に面白い記述を見つけた。
今まで自慢話のような形の本がほとんどであったのだが、奥様の記述というのは目を引くものはなかった。だが、この本にはその行動やそれへの賛美の言葉が並んでいた。
愛妻家なのだろうが、妻への賛辞が所狭しと書かれている。
古い家にはこういう人も出てきておかしくはないのだろうが、今までの淡々としたこれをやった、こう思ったからこれをした、そうしたら成功したという書き方がほとんどであったのだ。
サラブレッドの中にアルパカが混ざっていると思うほどの違いに思えた。
この世界の人は私と同じであまり多くを語らないようだと安心していたのに、ここにきて流れるような賛美、しかも例えや形容だと思われる言葉たちが乱舞していてちょっと想像が追い付かない。
「いとおかし」「やばい」のように全てをそれで表現されるのも分からなくなるが、意味不明な形容の方が伝わらない時の申し訳なさを感じてしまう。
そして話の流れまで行方不明にされてしまう。
ごめん。読解力が無くて。
私は奥様の仕事というものを知りたいのだ。
せめて奥さん賛美ではなく、仕事の説明書いてよ。
「這いつくばって、はしたないですよ」
振り返ればエミリヤがいた。
「なんで嫌そうな顔するのよ」
別に嫌ではないが、本を読んでいる時に話をかけられることが無かったからどうしても邪魔された見たいな感覚になる。
いや、やっぱり嫌ってことだなこれ。
「へー、難しい本を読んでいるのね。流石本家だ。こんな古い本、家にはないもの。何書いてあるの?」
重いのだが、何とか表紙を見せて見た。
「は?これ本当に何書いてあるのよ。読めん・・・」
「・・・・・」
「え、これ、本当に読めるの?何書いてあるのよ」
「・・・・嫁自慢?」
「・・・なんでそんなの読むの?」
怪訝な顔を向けられたが、それに対して私も怪訝な顔で首を傾げた。
読んでいる最中は面白かったのだが、狙ったことが書かれていないのだ。そんな態度にもなる。
「・・・あなたもこっちに来て一緒に遊びましょう、ね」
誘われたが、「いや、遊びをするって」と私にはその発想が無かった。
子供たちの目的が、情報の収集や、幼い時から見たことあるという安心感を植え付ける事を目的にしていると思っているので、純粋に一緒に何かをすることを楽しむという事が良く分からない。
以前の世界でも遊ぶという意味が良く分からなかった。
物心ついた頃から何かをやっていたが、遊びという感覚を持ったことが無い。いつでも真剣だった。
体育の時間や昼休みに鬼ごっこという遊びを何度かやった。真剣にやり過ぎたのか、ちょっと引かれた思い出があるが、あれは遊びだったのか。遊びといえるのか。遊びの概念が分からない。
そんな悲しい事を思い出しているといつの間にか席につかされていた。
遊びという名のお茶会だった。
おぅ。
多分本来のお茶会よりは軽い部類のモノなのだろうが、私は得意ではない自覚がある。
昨日のように予め決めていた事を言うのであれば問題ないが、雑談が苦手だ。
自由度があればあるほど、言葉が詰まる。
好奇な視線を感じるが、姿勢だけは崩さないという事と、前世のあの雑談のスペシャルスキル「さしすせそ」でなんとか回避することに集中することにした。
私が来たことで一通り名前を教えられたが、すぐに覚えるのは諦めた。
「この時期私はいつも街のお祭りが楽しみだったのです」
「毎年この会が開かれている間、街で開かれているのですよね」
「ええ、ただ今年はこちらに来れてよかったと思っていますよ。やっぱり煌びやかですし」
「でも、堅苦しく感じてらっしゃらない?私はこういうモノだと慣れてきましたが、皆さまはもっと自由に行動できた方が、いいのではないかと少し心配しているのです」
「エミリヤ様が心配することではありませんよ。それに私たちだってこういう雰囲気にはなれていくことが必要ですから。いつまでも子供のままではいられませんよ」
「フフ確かにそうですわね。男どもはどうにもここら辺が分からない人が多くて困ります」
「アハハ、確かに。男性はどうして子供っぽさが抜けないのでしょうね」
「まあ、そういうところが、いいという事もありますが」
「私はレオナルド様のように落ち着いた雰囲気の人の方が好ましいです」
「まあ、あなたもそう思います?いいですよね大人な雰囲気が」
「エミリヤ様はどう思いますか?」
「私は、うーん、お爺様やお父様のように女性に優しい人が好みでしょうか」
「ええ、そうですよね、優しくて落ち着いていて、そういう方が良いですよね」
全く入れなかった。
そして入らなくても進んでいくのだ。案外張り切ろうとしない方が良いことは結構ある。
慣れないことは事を仕損じる可能性だってある。
手を出さなくてもうまく回っているのだ。今は出るべき場ではないはず!
この時ステファンはお地蔵様になることを決めたのだ。
エミリヤの他に大体15歳くらいに見える女性が5人ほどいる。
話の内容は世界中どこに行っても、この年齢の女は異性の話で盛り上がるのだなと感心した。
「ステファン様は普段何をしているのですか」
背景に溶け込もうと思った矢先の出来事に、やっぱり油断すると不思議と巡り合うあるあるに軽く舌打ちをする。
「読書と稽古です」
「え、もうなさるのですか」
「はい」
「すごい」「流石ですわ」と口々にほめてくれたが、正直あまり話を振ってほしくなくて、カップを取ってお茶をふくむ。
「お稽古とはマナーとかですよね、昨日見た立ち姿も座る姿勢も素晴らしいと思いました」
「そうですわね。昨日のスピーチもとても素晴らしいと思いました」
「ええ。わたくしもです。後ろから見ていましたが、全く緊張を感じさせず、とても堂々としていて品格を感じましたわ」
エミリヤに褒められるとは思っていなかった。
始まる前にあれほど、足を引っ張るなという事を言っていたので、出来て当然だとでも言うのかとも思っていた。
でもこれはお茶会である。母には雰囲気を美しく優雅にと言われていたことを思い出し、そういう言葉で着飾ってくれているのだと思い直す。
だからここはその場の雰囲気を壊さないように「ありがとうございます」と返しかけた時に、廊下の方から悲鳴があった。
周りが瞬時に席を立ち、メイドが先に状況確認に飛び出した。
私も瞬時に体が動く。
でもそれは皆には一歩いや5歩ほど遅れてしまう。体が小さいから・・・グスン。
廊下にはもうすでに多くの人だかりができていた。
お爺様が「そこに直れ!」と怒鳴り、抜身の剣を持って出てくるところだった。
それをお父様が必死に止め、廊下には飛び出し倒れている男女が怯えていた。
メイドが私たちの目の前に出て見せないように、「大丈夫ですので皆さまお部屋へ」と声をかけてきた。
どう見ても大丈夫なところは一つもないが、おそらく、どっちに転んでも子供には見せない方が良い状況だと判断したのだろう。
エミリヤが「皆さま戻りましょう」と声をかけると皆一斉に部屋へと戻っていく。
皆不安を残した顔ではあるが、それでも部屋へと引き返した。
私は少し残ろうとしたのがいけなかったのか、サッとサリバンに抱きかかえられて部屋へと連れていかれる。
ちょっと刺激的な場面を見たこともあり、皆言葉が上手く出せない。
お茶会のテーブルではメイドたちがお茶を入れ直してくれたが、各々思う事があるのか、先程の雰囲気に戻ることは無かった。
その空気を取り直したのはエミリヤだった。
「皆さま驚かせてしまって、ごめんなさいね」
「いえ、エミリヤ様のせいでは」
「あれほど、お爺様がお怒りになられるのですから、しっかりとした理由があるのだわ」
「そうですね。ご当主様があれほど取り乱すことは大変珍しいです」
普段なら絶対に口を出さないメイドのサリバンが言葉を発した。
それだけあの状況を見られたことを払拭したいのだ。
エミリヤはそれを分かって敢えて会話に混ぜるように言葉を出す。
「ええ、昔わたくしがお爺様の髭を引っ張ってしまったことがありましたが、それでもやめないか~って言いながら笑って許してくれました。勿論とても小さい時ですが、お爺様はご自分のことで起こることはほとんどありませんのよ」
「エミリヤ様にもそんな時期がおありでしたのね」
「本当に小さい時ですよ、恥ずかしいわ」
フフフと笑いあい、場の雰囲気を和ませていった。
私はその場の空気を壊すことにならないように、お地蔵様のごとく笑顔と姿勢だけは維持して見せた。
お地蔵様には子供を見守るという本質が宿っているのだ。
今の私には最適なものである。
などとクッソどうでもいいことを考えて自分がしゃべらないことを肯定化していた。
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
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