1.4
また読んでくださり感謝の言葉が見つかりません。
本当にありがとうございます。
雪が降ってもおかしくないほどの寒さを感じ始めたころ、毎年恒例のお披露目会が開かれた。
馬車で大勢の人たちがやってくる。
門まで馬車がずらりと並び、広いはずの通りが犇めき合っている。
領地の貴族は勿論、遠縁の貴族、騎士爵、商家の人も来る。
いざという時に味方になる人たちだが、普段は利益を配る相手でもある。
つまりは持ちつ持たれつの関係なのだ。
立場上、家は上とはいえるが、それを笠に着てはいけない。
その秩序を代々守っているからこそ、こうして沢山の人が集まってくれる。
こう考えると約550代続く家とは凄まじい。
貧富の差や官僚の横領などによって腐敗することもなく、途切れさせることが無かったのだから。
ご先祖たちの人間性がこの今を作っている。
歴史の裏側では、厳格な規律や戒めがあったのではないだろうか。
そう思い、ステファンはこの世界の人間が何を大切にしているのかが伝わってきた。
人の心は弱い。
欲望は人に備わった強敵といえる。
生前の記憶から見ても、生半可なしきたりや掟では隅々まで制御できない。
それを乗り越え、揺らぐことない信念を持った人たちが作り上げた集団だと思うと敬意と威圧を感じ、背筋が伸びる。
こういう人たちと子供の頃から触れ合うこともこの会を続けている理由のように思えた。
そして開会を前に軽くお爺様が私たちに挨拶の順を伝えてくれる。
「レオナルド、アントニオ、ガトー、ジン、エミリヤ、最後にステファンの順に挨拶をなさい。そんなに緊張することは無い。誰もお前たちを取って食おうと思ってなどいないのだから、安心せい」
ガハハハハといつもの豪快な笑いで和ませてくれる。
それに対して父の妹の長女であるエミリヤは上目遣いでお爺様の袖を引く。
「あの、お爺様、私の順番はもっと早くしていただけませんの?やっぱり男性優先だからですか?」
エミリヤは年齢でいえば、レオナルドの一つ下になる。背も大きい。
ジンという父の弟の子供の後の挨拶に不満があるようだ。
「エミリヤは可愛く成長したんだから後から挨拶をした方が皆の印象に残るんじゃないかと思ったんだが、嫌か?」
柔らかな笑顔に変え、目線を合わせながら諭すお爺様は初めて見た。
「え、お爺様にそういっていただけるのなら、・・・わたくし構いませんわ」
と体をくねらせながらいう。
女性の私から見たらあからさまなぶりっ子に見えるが、お爺様はハハハハと笑っていた。
「でもそうなると最後にステファンは少し心配ではありませんか」
とレオナルドが訳知り顔で言うとガトーというジンの兄が大きく頷いた。
「今年から参加するのだ。そういうこともあって最後にしようと決めた。誰も無碍にはせんし、しっかりみとるから己の番に集中すればいい」
笑顔で言ってくれているが、お爺様の言葉には威厳と反論は許さないという気持ちが載っていた。
本来当主に進言するという事は何の覚悟も持たずやって良い事ではない。
それを気づいていないのだろうか。
ステファンは背中が少し滲むのを感じた。
そして主催者であるお爺様が先に部屋から出ていった。
私たちは合図を貰った後出ていく流れである。
会は夕方からだというのに、私は朝早くから体の隅々まで洗われて、何やら塗りたくられて、着替えて、軽いお化粧までしたのだ。
小さな体にはもうそろそろ限界である。疲れが出て眠気が襲ってきた。
だから出番までソファに体を預けようとした。
そこにエミリヤが「あなた、ステファンとか言ったかしら、まだわたくしたちに挨拶していませんが、いつしてくれるのですか、レオナルド」と私に聞いたのか、レオナルドに投げたのか分からない言葉で問いただした。
レオナルドは一瞬顔を歪めたが、取り直した。
「バタバタしていたのだ。今しようと思っていた。遅れてすまない。妹のステファンだ。今年3歳になった」
と紹介してくれたので、カーテンシーのポーズを取った。
「3歳でもうこの会に出るのね。さすがは本家。さぞ出来がいいのでしょうね」
「いや~君ほどではないよ、でもお爺様が言い出したのだから、仕方ないさ」
「フーン、わたくしの弟は4歳なのに両親からまだ早いと言われたのに、粗相をしないか心配だわ」
心配そうな素振りで頬に手を当てる。
「そういえば、俺たちは5歳からだったな」
「アントニオは4歳だったな」
「え、あ、うん、そうだね。でもあの時はジンも初めてだったから気が楽だったよ。とっても緊張したけどね」
「うん、あの時は私がとちった後に、アントニオもとちってくれたから怒られずに済んだ」
「言葉が多少詰まるくらいなら誰も怒りませんよ、言っている内容が大切ですからね」
エミリヤの目は何か値踏みしている感じがしたが、私は眠いのだ。
ソファに体を預けようと手を掛けたら、手を掴まれた。
エミリヤは信じられないモノを見たかのように大げさに驚く。
「あなた!せっかくのドレスがしわになるでしょ!もう少しの辛抱です!我慢なさい!」
その後も「私たち全員があなたのせいで印象悪くなるかもしれない」とか、「あなただけが特別に優遇されることは無い」とかそんなことをガミガミ言われ、結局座らずに立っていることになった。
しばらくして、大きな拍手が聞こえ、その後出発の合図が来る。
私たちはメイドに先導されてついて行く。
暗い廊下から眩しいばかりのホールに出ると万雷の拍手で迎えられた。
圧倒的な音の圧に全員戸惑う。
兄たちでさえ驚きを隠せないでいた。
ステージに上がる為、歩を進めるが、足の長さが違う。少し遅れて辿り着いた。
そんな中レオナルドから挨拶が始まった。
緊張からか、動きがカチコチになりながら話が始まる。
体育館の壇上のような高いところに上がってのスピーチのような形式で、後ろから見ていても、皆が真剣に話を聞いているのが伝わる。
割れんばかりの拍手の後、衣擦れ一つない静寂に包まれる。
この一体感をピリピリと感じながら、物怖じせずに話せるだけでも相当なものだ。
緊張のあまり己の唾をのむ音が響いていないか心配になる。
ただ一人一人が終わらるにつれて、自分の順番が近づいてくるという焦りに似た感覚が背後に迫ってくる。
ひとり前のエミリヤが動き出す。
とてもゆっくり落ち着いた動きから余裕を感じた。
一言目で空気が変わった。
「皆さま、ごきげんよう」
そこから始まり、顔は見えないが、にこやかな笑顔で話し始めたことが伝わってきた。
この一年どんなことがあったか、どんな学びをしたか、皆様に今年も無事お会いできたとことを心から嬉しく思いますというような内容だが、今までの少年たちとはがらりと変わり、場の空気が穏やかになっていくのを感じた。
凄い。
万雷の拍手と共にこちらに下がってきた。
落ち着きがある動きに尊敬の念を禁じ得ない。
まあ、死ぬつもりでやればいいか。
大舞台に立つとき、飛騨真理はいつもこの心意気で向かう。
人にできることは己もできる。
死ぬ気でやってできない事はない。
まあ、死ぬ気でやって死んだんだが。
ただの挨拶だ。死ぬことは無いだろう。
そんな割り切りで、考えて練習したことを口に出すだけである。
「皆さま、初めまして、ステファンと申します」
先程のエミリヤのテンポに合わせるイメージで話始めた。
「私は今年無事に3歳になれました。これは両親をはじめここにいる皆様のお陰です。ありがとうございます。私もご先祖様や両親のようにこの地にいるすべてのモノにこの身を捧げ、尽くしていくことを誓います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
とありきたりであるが、落ち着いてできたことに安心した。
カーテンシーをして頭を上げた途端大きな拍手が起こった。
悪くなかったという事だろう。
元の位置に戻り、他の子と一緒に壇上から掃けた。
お客様たちから姿を消すとすぐに、エミリヤは私を抱いてほめてくれた。
「あなたすごいじゃない!姿勢も言葉も素晴らしかったわ!3歳にしては上出来よ!」
私はエミリヤを少し見上げて親指を立てる。
「ああ、これステフのありがとうのポーズだから」
一瞬何?という顔になったエミリヤにすかさずアントニオが説明した。
「そうなの?変わっているのね」
「まあ、でも悪い子ではないね」
褒めてくれるのは嬉しいのだが、緊張の糸が切れ、体は普段の倍の重さになる。
私はもう朝からこんなに多忙だったことは無いと思える一日に限界を迎えた。
サリバンを見つけ袖を引けば、頷き抱きかかえてくれた。
「どうやらお嬢様は疲れが出たようです。ここで失礼いたします」
と言ってくれたので、私はそれに合わせて手を振って「おやすみなさい」と言って部屋に戻った。
エミリヤは普通に「お休み」と手を振り返したが、アントニオとレオナルドは目を見開き驚きをあらわにしていた。
解せぬ
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
それだけでうれしいです。
宜しければ、高評価、ブックマークしていただけると大変励みになります。
どうぞよろしくお願い申し上げます。




