1.3
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「毎年行われていることだし、そこまで気を張ることは無い。だが、子供たちの成長を気にする者はいる。それは我らの落ち度は領内に影響が及ぶことがあるからだ。背伸びする必要はないが、落ち度をさらけ出すことは避けねばならぬぞ。まあ、ただ気を抜くなという事だ」
ガハハハハと気楽に言ってくれる当主のお爺様はかなり豪快な逸話が多い人である。
聞いた話では、なんでも見通せる目があるとか、遠くで起こった危機を動かずとも察知するとか、睨んだだけで相手を気絶させることができるなど、武勇伝は尽きない。
神経というか肝が太いというか。
その為領内の信頼は厚い人物である。
ステファンにもこの会で大勢を前に一人で挨拶するようにと指示が下る。
他の兄たちもそれぞれ挨拶をするが、ステファンは今回が初めて参加する。
両親をはじめ乳母やメイドもステファンに心配を寄せるのだが。
そんな心配を余所に本人はなんという事もないという顔で話を聞き、食事をする。
実際に兄たちは少し、面倒だなという事が顔に出てしまっていた。
そしてその話から屋敷の中は慌ただしさが増す。
実際お客様の人数が多いので、それだけ持て成す側は準備が必要になる。
使用人たちは一番気を張るのは、屋敷の手入れだ。
誰が見ても美しく綺麗にしておかなければならない。
屋敷をひっくり返えす勢いで清掃が行われる。
主に恥をかかせてはならぬと気合が漲っているのだ。
だが、その為の人員が多くなるわけではない。
自然の成り行きとして子供たちの為に割く人数を減らす。だから3人は一か所に集められた。
この間授業もお休み。
という訳で、3人でやることは、招待客リストを覚えるという作業がメインになった。
長男は何度もやっていることだからもう大体把握しているが、近況の情勢交え客を覚える必要がある。
また年長者として二人に教える教師役となることも言われていた。
「それじゃ二人とも、まず覚えないといけない人の名前を紙に書いておいたから。上から順に覚えておけば凡そ大丈夫だろう。できれば20から30は覚えてほしいな」
渡された紙はただ名前だけが載っている非常に覚えにくい。
せめて自分の家との関係性が欲しいとステファンは思う。
「あ~これホントと面倒なんだよな」アントニオはリストを一瞥して手元に置いた「でも流石に叔父さん叔母さんたち一家は覚えたし、よく家に来る人は覚えたから前よりは楽になったよ」
「そうだな。基本挨拶に来てくれるだろうから、失敗は少ないだろうが、気を抜くんじゃないぞ。特に叔父さんはまだ次期当主になろうとしているし、そのせいかその子供たちもこっちと張り合おうとしてくるからな」
「あー分かる。ガトーたちね、何かと張り合って来ようとするもんね。もっと仲良くしてくれないかな」
「まあ、言いがかりは無視するにせよ、不味いところは見せたくはないな。最近は向こうも安定してきているからな、噂では随分景気もいいらしい」
「それはそれは、家は商売っ気がないから羨ましい限りだ、ハハ」
「だよな。お父様も少しは考えたらいいのに」
「ところで」と区切り、レオナルドが周りを気にして、メイドがいないことを確認してから、話し出す。
「ステフはもしかして前世の記憶を持っていたりしないか?」
ステフは漸く出席者名簿から目を上げて二人を見る。
「ステフの優秀さは聞こえてきたからね。もしかしたらって」
レオナルドはにこやかに話しているが、薄暗いイヤらしい笑いに見えた。
「あ~、俺たち二人もあるから、別に特別ってわけでもないんだ。実は」
アントニオはただ平然と事実確認がしたいだけのように見える。
「そうそう。実際に向こうの世界の技術や遊びはこっちで使われているモノもあるから、正直知識で無双するの無理だし、ちょっと萎えたよ」
「ただ特別じゃないとは言ったけど、私は兄さん以外はまだ出会ってないけどな」
「でどうなんだ?」
ステフは迷わず頷いた。
「やっぱりか~」と合点がいっているが、特に思う事もない様子だったがそれでもこちらの全貌が見えないことに不安があるらしい。「でどんな記憶?」とどこか真剣な顔がのぞいた。
ステフは首を傾げた。
どんな記憶と聞かれてどうやって説明したらいいかまた言葉が押し寄せてくるのだ。一言で言える気がしない。
それを言いにくいのだと判断したレオナルドは自己紹介を含めて話し出す。
「俺はね、向こうでも、まあ、普通に一般的エリートって言われる学歴だったよ。普通に一流大学に現役合格して卒業して、普通に大手金融機関に就職したんだけどな、その後すぐに水難事故でね。いやー、残念だったな。まあ神様も残念がってくれたんだと思うよ、記憶引き継ぎながら転生できたんだから。今は辺境伯の長男になったんだ。またエリートコースをやり直させてくれているんだから。まあ、許してやるよってね。ふふ」
自分が特別だと疑いない様子には、少なくとも今まで優遇を受けて当たり前という経験がそれを助長させていた。
「ははは、レオ兄はいいよな。安泰コースが見えているから。俺は結構天寿全うしたような気がしたんだけど、またやり直しさせられている感じだし。正直、なんでって思っているよ。しかも次男だから将来は自分で何とかしなきゃいけないみたいだからなぁ~。まあ商売や地味な事務とかやってどうにか安定した暮らしができればそれでいいかな」
とアントニオは少しぼかして教えてくれた。
「商売を広げてここをもっと発展させたいよな。実際辺境伯領って言ってもほとんど開発されていない、ただの僻地だし。あるのは森だけだぜ。どうせならリゾート地や遊園地、カジノや娯楽施設を作りたいな。将来俺が大規模に作り変えちゃおうかな」
「あ、じゃ、俺にホテル経営とかやらせてよ」
「それまでに実績上げてくれないとな。そんな大役任せられないな」
ハハハハと笑いあっている。
そこにステファンはあからさまに「はぁ~」とため息を吐いた。
それをレオナルドは、ステファンは女だから縁繋ぎで嫁に出される未来を思って憂鬱にでもなったのかと思い、また笑う。
「まあ、何もなければステファンがどうなるかは両親が決めるんだろうから、心配すんなよ」
「そうだね。お爺様も含めてステフは好意的にみられていると思うよ。だからきっと良い縁を見つけてくれるんじゃないかな」
確かに両親祖父母はよく気にかけてくれているし、家の者もこんな無口な女に嫌な顔一つ向けられたためしがなかった。
まあ、どっちにしろ嫁ぎ先に不安なんてない。
そして別にさっきのため息はそんな意味でもない。
もっと根本的なところに思う事があるのだ。
どうもお気楽な感覚で話をしているのが、ステファンは気に食わないのだ。
「自分が全てを決められると考えるのは浅はかよ」
抑え気味に軽く指摘するつもりだが、相手の意見を真っ向から否定していることには気づかない。
レオナルドは少しムッとして言い返す。
「でも叔父さんはのところは景気を良くするために道路整備をして町が活気づいたって聞いたぞ」
「数代くらい前に開拓しようとした家臣の家を取り潰したみたいよ。ケースが同じとは限らないけれど、思い通りの世界にはならないかもしれないわよ。第一、一回死んだのなら分かるでしょ。お金も引き継げなければ、経歴や名声はすべてなくなる。生きている間にどれだけ遊んでも、己が腐るだけで、何か面白いの?そんなの阿保らしいと思わない?それに死んでからくる人がこれだけいるよ。天国だったらやりたくないことは無いのだろうけど、この世界は地獄なのかもしれないのよ。なんで己の利益を求められるとか楽ができると思うの?」
一瞬、シーンと静まり返る。
それでも興味が出たのかアントニオはステファンに少し身を乗り出すように話しかけた。
「じゃあ、ステフはなんでそんなに頑張っているの?」
アントニオは柔らかな感じで尋ねた。
「私はいつでもただ真剣なだけ。それが一番楽しめるのよ。人生を。得しようとか楽しようとか考えても上手くいくとは限らないし」
「「・・・」」
二人とも黙り、何か考えている様子だった。
ステファンは静かになったのでそれはそれでいいと結論付けた。
最後まで読んでくださり本当にありがとうございます。
読者の皆様に幸運が訪れますようお祈り申し上げます。
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