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歴史の陰 無口が世界で愛されるには理由がある  作者: かづ


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1/11

1.0

カタカタとキーボードを叩く音とパソコンのファンの唸り声だけが響く部屋。

深夜にもかかわらず、その音はもう2日は途切れることなく続いている。あれ3日?4日かもしれない。


姿勢は前がかりでモニターに釘付けで仕事を続けている。

完全に体が凝り固まり、周囲の人は私をオブジェだと思っているに違いない。


これができれば、世界は変わる。


そう信じて疑わないからこそのめり込み、己の全てを賭して作り上げようと必死になる。

やらされ仕事もここまでくれば最高の芸術に変わる。


そこまで尽くして急な眩暈に襲われる。目がかすみ、急に視界が不自然な色に点滅を感じる。頭痛のひどさについに音が止まった。

頭を押さえ堪え切れずデスクに突っ伏した。

取り敢えず、目を瞑り頭痛が通り過ぎるのを待つ。


こみ上げるものに耐え切れず、咳と共に吐き出し、翳した手を見るとそこは真っ黒に染まっていた。

それをきっかけに口や鼻から絶え間なくあふれ出す液体。

酸欠も重なり、椅子から転げ落ちるように倒れ、痙攣の後、気が遠のく。


それが飛騨真理、今年で30を迎えるはずだったある一人の女性の最後だった。





私は世間一般に言う『コミュ障』で人とほとんど会話をしない。

合わないのだ。

だから喋るのを諦めた。


仕事はしゃべることを必要としないモノを選んだ。

プログラミング関係の仕事だった。


無駄口を叩かなければ、都合よく真面目という性格に思われる。

基本目立つことは避けるが、大体親指を立ててポーズを取れば人は好意的に受け取ってくれる。

その為かクールなんてことも言われた。


身だしなみは誰にも何も言われないための防具だと思っている。

いくつも同じようなスーツを作り、靴も似たようなものを揃え、その標準装備だけであとは何も装飾する必要はない。

髪だって軽く整える程度。

幸い白髪や痛みが出ない体質なのか少し手入れをするだけで十分なサラサラのストレートになってくれた。

ただただ清潔だけを心掛けていただけだ。

それだけで誰からも何も言われることは無い。

偶に「しっかりしているね」と声を掛けられるが、親指を立てれば済む話だった。


頼まれごとも言い返すことを避けるがあまり、どんなに無理難題と思っても愚直に実現させようと試行錯誤した。

結果に人は驚き戸惑っていたが、色々な技術を身に着けることができたのだ。

悪くはなかった。


こんな私を世間では社畜とか会社の奴隷とか呼ぶのだろうが、大きなお世話だ。

仕事を好きで何が問題だ。仕事を全うしていて何が悪い。


仕事を嫌いなくせに、嫌々やってミスして、他人のせいにして、文句ばっかり言っている。

そんな奴よりきっと十分充実した人生を送れた。


おそらく人が真面目に働いていたら、自分の不真面目が露見して見えるから、人を下げようとしているのだ。

本当にくだらない。


だらだら時間ばかりを無駄に生きている奴より素晴らしい人生だと誇れるのだ。

とっても気分が良かった。


何にも思い残すことは無い。


途中の作業はどうだって?確かに全てを終わらせてきれいさっぱりになっているのは美しいだろうが、そんないつかは絶対に無いと知っている。

いつ終わりが来ても同じだ。途中のモノができてしまうのが人生だ。

だから未練があると思う方が傲慢で女々しいだけなのだ。


私はこんな性格だからとてもcoolで男らしいと思われていたらしい。






そして気が付くと、安らぎの場に戻ってきたと感じた。

というか昔からずっとここにいたと思える場所。


目の前には階段があり、その上の高いところには椅子に座り見下ろしている人がいる。

その人の顔は光を後ろに携えていたため確認はできないが、敬愛している感覚はあった。


その人の左右にも4人、翼を持った人が無表情に私を注視してみている。


私には目の前の椅子に座った人の話の最後だけしか記憶にない。


それは申し訳なさそうな声だったように思えた。

「・・・という訳で、次に行ってもらう」


私は有無もなく、ただ従うだけ。瞬時に動いた。


他にも色々話を聞いたはずだが、思い出せない。

従うのみだと肚を決めた感覚はあった。




そして再度目を覚ました。

目が初めて見えたときの思い出は少し衝撃的だった。


(なにこれ!臭い!)

今となれば分かる加齢臭と言われる香りが鼻を刺激し、いやだという思いと共に目が見えたのだ。


それまではいつもの仄かな甘く温かで柔らかな香りがあったはずだ。

それがゴツゴツした居心地の悪い感覚と臭いの為に己の危機察知能力が警鐘を鳴らし、泣き喚くように体を反応させた。

「おぎゃあああああ、ぉぎゃあああああ」

私の意識も乗り、力いっぱいに発してやった。


目の前には困惑し抱いてくれている年老いた男女。

男は困惑のあまり大声で怒気を籠め叫ぶ。

「おい!」「はやくこい!」「私ではだめだ!」「泣き止まないだろ!」

その大声がまた危機感をさらに高め、大きく泣き喚くという負のループ状態に突入。


そして女性の方に変わったり、何かするが、どうもいつもの柔らかな感覚や臭いではない。

危機察知反応は治まることがなく、酷く泣き続けた。

そしてそれは疲れて眠るまで続いたように思う。


それがこの体に入ったと記憶している最初の記憶だった。




そして時が流れ、意識がはっきりしだすと気づく。

(あれ、これ転生というやつでは?)


『物心付く』というが、それまでは全く自分が自分で在るという感覚がなく、考えることもなかった。

そして考えることができるようになって初めて気づくことができたのだ。

私は生まれ変わったのだと。

これが私の体なのだと。


生まれてから今までの記憶というか映像はある気がするが、考えや意識というものがなく、思い出すことができない感じがする。


記憶とは、その時意識的に見ていないと記憶はできないモノだと知った。




物心ついてからの私は色々検証するため動き回った。

探検や冒険に近い感覚。それはいつでもワクワクやドキドキを感じさせてくれる。


窓の景色から見えるのは、山、森、薄っすら見える湖。

今いるのは三階建ての立派な建物。

庭はかなり丁寧に管理されているのが分かる西洋風の整え方、花が綺麗に咲きほこり、その遠くに門と柵が見える。

絨毯は暖色系の物が多く、フカフカなところが多い。

素晴らしい景色が見える立地や建物の作りから、前世の品質の高いホテルのように思えた。


また執事やメイド、使用人を雇っている。

動き回る私に対して笑顔や微笑みを向けてくれる。

統一感のある制服を着た人と家族の服が違うので、おそらくお金持ちの家に生まれたのだろうと判断した。


性別は女性だ。

鏡には、まだ疲れを知らない肌で、艶が良く、瞳に輝きがある私が映っている。

以前の私より少し目がぱっちりとした印象だが、中々の美幼女だ。


何から何まで人がやってくれるこの生活に慣れるのにそれほど時間はかからなかった。

おつきの乳母?メイド?のこのサリバンという女性は凄まじく気が利く。

私が考えることが分かっているのか、どこへ行こうが必ず先回りしているくらいだ。

おはようからお休みまで全自動でことが済む。

ちなみにおトイレもお風呂もあるし、食事も含め、昔の記憶がある私でも問題なく快適に過ごすことができた。



そしてなにはともあれ私は3歳になったのだ。

「誕生日おめでとう。ステファン」

初めに声をかけてくれたのは父だ。オールバックで厳しい表情が板について、眉間には皺が刻まれている。鋭い目つきをしていて、赤茶の瞳にはなんだか意志の強さを感じた。

物静かで、冷静で、あまり笑わない印象だが、イケメンだ。


「ステフもすっかり女性らしくなりましたね」

と声をかけながら、優しく抱いて、頭を撫でてくれているのは母だ。

おそらく髪が伸びたからそういっているのだと思う。

光の加減で銀にも見える金髪をまとめ編み込んでいる。色も白くまるで北欧の妖精と呼びたくなる美しさ。

瞳は青空を湖で映したような輝きで、泣き黒子が色気を感じさせる優しそうな柔らかさのある女性だ。

何かエロイ。


「他の子と違いはあっても、生まれてきてくれただけでありがたい。これからも元気で育ってくれるだけでいい」

そう言い頷いているのは、あの時私を抱いていたお爺様だ。

お爺様は黒髪が混じる白髪で父と同じオールバック。父の顔はお爺様の遺伝が強いのだろうと分かる。

髭も整えられていて父に劣らず中々強そうな見た目である。

これもイケおじだ。


「ええ」と同意し隣でお婆様も微笑んでいる。

白髪ではあるがとても穏やかな雰囲気で笑顔が張り付いたような人だ。

物腰柔らかな感じはまるで陽だまりを感じさせる。

品のある老婆である。


語彙力が乏しく軽薄になるのは許してほしい。この頭ではこれくらいしか説明できん。



私がしゃべらないことが問題になっているという事を最近になって漸く気づいた。

物心つかなくても以前の特性はそのまま引き継いでしまっていたらしい。

確かに声を上げるのは泣いた時くらいだったように思う。

誤解である噂は払拭したい。


丁度いい機会だからと話してみようと思った。

「ぁりがとうごじゃいます」


噛んだ。

しかも久しぶり過ぎて最初の言葉が上手く出ていなかった。

顔が熱くなり、赤くなっていくのが自分でも分かる。


だが、私がしゃべったことで家族はきょとんした。

真っ先に動いたのが次男のアントニオだ。

「あ!しゃべった!」


素直な反応だが、私を指さして指摘するのはやめろ!不快だ!


「こら、トニーはしたない。大声を出すな」

と冷静に注意するのは兄のレオナルドだ。

澄ました顔で、我関せずと食事を続ける。

二人とも茶髪で、歳は長男が12歳、次男が7歳だ。


ただ両親祖父母も驚いたようでその後大分盛り上がってしまった。

何度もしゃべらせようとする。

自分を呼べと競い合うのだ。


家族関係は良好なようだ。


それは良いんだが、動き回るよりも疲れを感じた一日だった。


言葉を出せないのだと思い、心配させていたようだし、仕方ないのかもしれない。

皆少し目が光っているようだった。


すまぬ。


読んでくださり、本当にありがとうございます。

貴重な時間を使ってくださったことに感謝します。

読者の皆様が健やかでありますよう、お祈り申し上げます。


宜しければ感想や評価を入れていただけると、大変うれしいです。

お願い申し上げます。

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― 新着の感想 ―
主人公が無口なりに話そうとしてるのかわいいですね。
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