第一王子のロマンスなんて関与したくはないのですが?!
コートニー侯爵令嬢、誘拐監禁事件は無事幕を閉じた。
コンラッド王子を巻き込み多くの障壁を乗り越えて、侯爵家とチェスターの間で密約が交わされる。
本当に、本当に私はよく頑張った。
狩猟大会で第四王子に恩を売っておいて良かったと心から安堵する。
セレスティナの望む最上のロマンスにはまだ至らないが、ここからはチェスターの努力次第だろう。
まずは人間の心と正常な判断力を手に入れるところから頑張ってほしい。
「で?どうするのだアークレイ公爵」
チェスターはそう言って公爵家の応接室で鋭い目を私に向けた。
彼が私を訪ねた理由はもちろん“次の王位”をどうするかという話だ。
コートニーを正式な妻にするために、早く王位継承者を確定させたいチェスターとの密談である。
「どうするも何も、まともな王子がいない」
「それは分かっている」
チェスターはそう言ってため息を吐いた。
彼は宰相として相当王族に頭を抱えているらしい。
第二王子は妹との婚約破棄と共に王位を投げ捨て、男爵令嬢と結ばれた。
第三王子は論外なほどの人格破綻者。
「第四王子を押し上げるか……?」
「悪い人物ではないが王の器ではないな。第三王子との争いが酷かったせいか、どうも周囲の意見に流される傾向があるし、すでに本人に王位を得たい意思がない。ロレッタ侯爵令嬢はそもそも王妃教育など受けていないだろう。今から受けさせた所で、力をつけて来ている第三王子の勢力に間に合うだろうか……」
正直な所、消去法的に第三王子が優勢になってしまっている現状が恐ろしい。
貴族達からの支持ではない。第三王子の王位への執着が凄まじいのだ。臣下に降ろうとした第四王子まで徹底的に叩き潰そうと目論むほどの執念。
暴力と脅迫で第三王子は王位を得ようとしている。
王家に近い者として、幼い頃より王子達を見てきたチェスターは絶望するように再びため息をついた。
「第一王子をなんとかその気にさせ、押し上げるしかないな。能力としては彼が一番飛び抜けている」
ウィリアム第一王子。
彼は元々かなり優秀な王子だった。
私も幼少期は彼と同年代の高位の貴族子息として何度も顔を合わせている。
「こういう人間が王になるのだな」と素直に思えるような大局観と卓越した知性を持ち、人々をまとめ上げる求心力があった。
しかし小さな国の王女を王子妃に選んだ彼は、婚礼の日を境に王位争いから突然降りたのだ。
今は王子として国王の雑務を手伝いながらひっそりと隠居するように表舞台から姿を消している。
多くの貴族達は未だ第一王子の次の治世を諦められていない。その証拠が先日の第二夫人を選ぶための夜会だった。
「アークレイ公爵。私が次の国王主催の夜会の補佐を、君と第一王子に依頼する。そこで第一王子に接近して彼の真意を確かめられるか?」
次に開かれる国王主催の夜会は、今王位継承問題で荒れている国家の安定と王権の威光を示すために開かれる。
国中の貴族と共に外国の要人も多く参加する大規模なものだ。
ウィリアム第一王子の真意を確かめるならば、王子妃であるフローレンス様にも近づかなくてはならない。
それには私の“婚約者”であるセレスティナの協力が必要不可欠だった。
「セレスティナが協力してくれるかどうか……」
「セレスティナ嬢は君の婚約者だろう?協力しない可能性があるのか?!?!」
私は表情を見られないように両手で顔を覆った。
手紙が返ってくることすら怪しい関係だなんてとても言えない。
セレスティナはあくまで“他人の美しい恋”を見るために私の婚約者という役割を利用しているに過ぎないのだ。
「チェスター宰相……第一王子はロマンスを抱えていないだろうか」
「……意味がわからないが私が知る所ではない」
冷たい。ここで感情を捨てないで欲しい。
私は第一王子にロマンスの影があること、そしてセレスティナが第一王子のロマンスに関して何かしらの情報を掴んでいる僅かな可能性に賭けて、彼女に手紙を書いた。




