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最強公爵は推し活令嬢を溺愛したい!〜しかし全てが空回る〜  作者: 白波さめち


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ヤンデレも時と場合により許されるようです


 コートニーに特に怪我や異常はなかった。

 いや、もうこの状況が異常の極地ではあるけれども、とりあえず身体的な異常はなかった。


 一先ずの問題はチェスター宰相だ。

 彼への認識は完全に反転した。


 チェスターは感情のない人形などではない。

 狂気のロマンスを抱えた異常者だ。


「コートニーの現状は知っているはずだアークレイ公爵」


 もちろん知っている。

 彼女は実家の侯爵家の政治的道具として貴族から海賊へと引き渡される予定だった。


「彼女を守るにはこれしか方法がなかった」


 うん。そこがまずおかしい。

 そもそも何故チェスターは侯爵令嬢を誘拐し監禁しておいて、これほど偉そうに語れるのだ。


 コートニーは椅子に座りながら複雑な顔を浮かべ、ただテーブルを見つめている。


「コートニーを娶りたいならば、正当な手段を取ればいいではないか」


 ロマンスのために私の婚約者を偽装しているセレスティナ。彼女を公務に同行させている私が言えた義理ではないが、今回の調査を行う公爵という立場でそう投げかける。


 するとチェスターは自虐的な笑みを浮かべた。


「私の立場を理解しているのか? 私は宰相という立場上、王族の中では常に中立の立場でなくてはいけない。コートニーを娶る為に一度婚約打診を行ったが、侯爵家からも国王からも却下された。私がコートニーを妻にすれば、ブラッドフォード王子の不祥事に肩入れしたことになるからな」


 ああ……そうだった。


 彼がコートニーを娶れば、今回の元凶である第三王子の不祥事を宰相が庇った事になる。最高位の宰相が第三王子についた形が整えば、我がカランセベシュ家の娘を得た王子でも第三王子には勝てないだろう。


 王族に近い宰相という柵のせいで、彼は彼女を助けることができなかった。


「非合法だが最も効率的に彼女を保護するためには、この方法が最善だった」


 そんなに堂々と言わないでほしい。

 少しは反省しろ。


 この場をどうするべきか私は悩んだ。

 

 事件の調査をしている公爵という立場上、チェスターを犯人として突き出す事は簡単だ。

 しかしチェスターを突き出すと言う事はコートニーを実家に戻すということになる。


 王権という絶対的な権力を利用した悪質な事件の被害者に、さらなる地獄への引導を渡すなど吐き気がした。


「コートニー様はどうしたいのですか?」


 セレスティナはコートニーの震える手にそっと手を重ね、優しく尋ねた。

 彼女は唇を結び、今にも泣き出しそうな顔になる。


「……私は……チェスター様が私のせいで捕えられる事を望みません。彼は……私を守ろうとしてくださったのです」

 

 整えられた彼女の部屋を見れば、彼がコートニーを大切にしていたことだけは分かる。


 やり方は間違えているが、全てを奪われた彼女の心の傷を、チェスターは物で埋めようとしたのかもしれない。


 あの殺風景な庭園に花を植えようとしたのも、彼女がここから少しでも美しい景色を眺められるようにという事なのだろう。


 うん。それでも異常だがな。

 人間の心を学び直せ。


 そしてセレスティナを見る。

 ――彼女は泣きそうな顔をしていた。


「セレスティナ?」


「ままならない……ものですね」


 嗚呼、そうか。

 コートニーがチェスターの行いを受け止めている以上、これは悲恋になってしまうのだ。


 人形のように感情など見せなかったチェスターが、何故コートニーを非合法な手段まで使って守ろうとしたのかは分からない。

 ロマンスが関係しているのだろうが、どうでもいい。


 正直な所、知りたくもない。

 

 ただここには、チェスター宰相が罪を冒してまで彼女を守ろうとしたという事実だけがあった。


「あーっ! もうわかった!! 私がなんとかする!!!」


 私は髪が乱れるのも構わず乱暴に頭を掻いた。

 何とかできる力があるのに、セレスティナにこのような顔をさせるなんて事はできない。


「コートニー! チェスターか海賊なら、チェスターでいいんだな?! 後悔しないな?!」


「え……?! は……はいっ」


「後でこんな男は嫌だと言ってきても聞かぬからな!」


 私はそう宣言し、深く息を吐いた。

 そして突然荒ぶった私の姿に驚くチェスターに向き直る。


「チェスター宰相。コートニーの件は私が侯爵家に手を回す。次の王位継承者が決まるまで、コートニーにはこのまま表舞台から姿を消していてもらうが、次の王さえ決まればコートニーを妻にすれば良い」


「できるのか?」


「第四王子に恩を売ってある。多少の無理はきくだろう。これから私は大量に嘘を吐くからな。コートニーを妻にしたいなら、宰相の地位を使って全面的に協力しろ」


 チェスターの瞳の奥に灯った希望の光を見れば、彼が裏切らない事だけは確信できる。


 セレスティナに心から感謝しろ。

 彼女がいなければこのような危ない橋、誰が渡るか。


「あと、せめて屋敷内くらいは自由に過ごさせてやれ。屋敷の使用人くらいは味方につけろ」


 チェスターはぎゅっと唇を噛み締めて俯く。


 そして小さな声で私に礼を述べた。

 



ヤンデレ宰相チェスター編でした。

次はチェスター視点の閑話です。

なぜこんな事しちゃったのか。

アークレイは知りたくない彼の恋物語をお楽しみください。



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