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最強公爵は推し活令嬢を溺愛したい!〜しかし全てが空回る〜  作者: 白波さめち


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ヤンデレって美味しいの?


「すいません……私も夜会には参加してはおりませんし、後になってから今回の事件を知ったので何も……」


 トラヴィスはそう言って視線を下げた。


 コートニーの名前を極力出さないよう、当日の自分の行動を語るトラヴィス。


 彼はコートニーに興味を失っているわけではない。

 おそらく今いる身重の妻への気遣いだろう。身重の妻がいるのに、昔の恋人を誘拐するなど愚かな人物には見えなかった。


 伯爵子息であるテレンスにも、既に話を聞いたが怪しいそぶりはない。

 むしろ“昔婚約打診を送ったことがある”という理由で容疑者リストに加えられている事に戸惑っていた。


 となれば次はチェスター宰相か……。


 彼に話を聞きに行くのがもう既に億劫だ。


 まるで感情がない人形が宰相の業務を担っているという言葉がピッタリ当てはまるような人物。それがチェスターである。


 初めて訪れたチェスター宰相の屋敷は追及された機能美そのものであった。


 屋敷の中というものは、当主やその妻の好みで個性が出るものだ。私は繊細で優雅な装飾品を好んでいるし、サイラスなんかは様々な芸術や異国の文化を屋敷に取り入れている。

 

 それに対してチェスター宰相の屋敷は、必要最低限の家具と装飾以外何もない。

 

 新居の屋敷に家具だけを入れたような生活感のなさ、といえば分かるだろうか。


 うん、やはり彼は人形なのかもしれない。

 

 コートニー侯爵令嬢行方不明事件の調査という目的を伏せた状態でだが、事前に連絡は入れてある。


 そうだとしても突然に近い訪問だ。庭園では庭の改装でもするのか多くの庭師が入り、私達と入れ替わるように商人達が屋敷から出て行った。


「で? この度はどのようなご用件でしょうかアークレイ公爵閣下、セレスティナ侯爵令嬢」


 出迎えて早々、眉一つ動かさずチェスター宰相は私に尋ねた。メガネの奥に見える灰色の瞳にはやはり全く感情が見えない。


 突然尋ねた公爵に対して、ここまで感情を無くせるのはいっそ感心する。


 まあ、王族や貴族の起こす問題の後始末をしているのだ。これくらい感情を殺さねば務まらないのかもしれない。


「コートニー侯爵令嬢の行方不明事件を調査しておりまして」


「それは存じています。アークレイ公爵に調査を依頼するよう指示を出したのは私ですから」


 ですよね。

 セレスティナに言われなければ、そもそも依頼主を調査する事などなかったはずだから当然だ。


「一応……関係者全員の話を伺おうかと思っておりまして」


「公爵閣下ともあろう方が、そのような効率の悪い事をしているのですか?」


 表情を動かさない彼の一言一言が胸に刺さる。

 

 何を考えてるかわからないからこそ、余計に私への評価がどうなっているのか分からない。


 まぁ、ライオネルを含めた公爵家の騎士や従者を引き連れ、疑わしい侯爵家の政敵より優先してこちらへと来たのだ。

 いい感情は持っていないだろう。


「効率は悪いかもしれませんが、あらぬ疑いをかける訳にもいかないですからね。とりあえず、当日何をされていたのか伺っても?」


 淡々と語る宰相の話にメモを取りながら、時折質問を挟み話を聞く。


 一方のセレスティナは、チェスター宰相ではなく応接室の窓から見える屋敷の庭園を眺めていた。


 形が整えられた草木だけという味気のない庭園。見ても面白くはないだろう。

 それとも庭師が庭を弄る工程を面白く感じているのだろうか。


「お庭を整えていらっしゃるのですか?」


 ようやくセレスティナは口を開いた。

 でもしてほしい質問はそれじゃない。

 君が怪しいと言ったのだから、庭以外の質問をしてほしい所である。

 

「そうですが?」


「お花を植えるのですか?」


「……それが何か?」


 セレスティナは庭からチェスターに視線を移した。

 彼女はチェスターの表情の変化を一瞬たりとも逃さないというように、彼を真っ直ぐ見据える。


「先ほど玄関ホールですれ違った商人を、わたくしも存じております」


 ピクリ、とチェスターの目が一瞬痙攣したように見えた。二人を交互に見るが何の話か分からない。


「どういう事だ?」


 俺の質問は張り詰めた空気の中に吸い込まれる。

 セレスティナは確信を得たように、先ほどまでの固い表情を和らげふわりと微笑んだ。


「先ほどの商人は、女性の服飾や装飾品を専門に扱っている商人ですよね」


 その一言で理解した。

 チェスターに婚約者や妻はいない。


 それなのに女性向けの商品を扱う商人を呼ぶという違和感。それに彼女は気づいたのだ。


 セレスティナの言葉にチェスターの無表情が一瞬で崩れ去った。

 

 ……あいつの目ってあんなに開くんだ?

 

「コートニー様はどちらにいらっしゃるんですか?」


 セレスティナは少し首を傾げて言葉を投げかけた。

 チェスターは全てを諦めたような空虚な表情となり「この屋敷の三階だ」と呟く。


 私達はチェスターの先導で三階へと向かった。


 先ほどの庭園に面しているのだろう。

 屋敷の南側に立ち並ぶ扉の前で彼は止まる。


 その扉は明らかに異質だった。

 外側から鍵がかけられるよう、後付けされた錠が付けられている。


 何これ……引く。


 チェスターは懐から鍵を取り出し錠を外す。

 扉を開けるとチェスターの屋敷の中とは思えないような優美すぎる部屋が現れた。

 

 天蓋のついた大きなベットに豪華な絨毯。

 カーテンにまで細かいレースと刺繍がある。

 ドレッサー上の小箱には宝石や装飾品が溢れ返っていた。


 そんな部屋の長椅子に、美しいドレスに身を包んだコートニーは座っていた。

 突然現れた私達とチェスターを交互に見て、大きく目を見開いている。


 ……どん引きとはこういう気持ちを言うのだろうか。


 何これ本当に気持ち悪い。


 


 

 

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