誘拐事件にロマンスが関わるなんてことありますか?
男爵令嬢に振られた公爵家の次男。
これ以上にない辱めを受けたオーガストは、婚約者を選び直す羽目になった。
これからも貴族として生きるならば、彼には多くの試練が待っている。
私はまだまだ甘えた考えを持つオーガストのために敢えて試練を与えたのだ。
オーガストの身分は申し分ない。
なんせ私の弟だ。
悪評を跳ね除けるほどの成果を、今後オーガストが示せばいいだけの話。そうすれば男爵令嬢に振られたことなど、いつか貴族達の笑い話となっている。
改めて考えても、問題ないな。
強く生きろ。オーガスト。
それよりも、私はもっと面倒な事態に巻き込まれようとしていた。
──王宮で令嬢の行方不明事件が起こったのだ。
先日の夜会と同じ日に行われた、第一王子主催の第二夫人を選ぶための夜会。
その夜会に参加していた侯爵令嬢が、行方不明となったのである。
王宮で開かれた夜会に私は参加していなかったこと、そして王族に嫁げる令嬢がカランセベシュ家にはもういないことから、事件の調査を行うよう宰相から依頼された。
めんどくさい。
非常に、めんどくさい。
王宮での夜会に我が家は一切関与していないのに、何故私が調査という仕事を増やされねばならないのだと言いたくなる。
まあ、公爵だから仕方がないことは分かっている。
分かっているが、王都での調査に赴けばセレスティナから万が一誘いがあった時に駆けつけることができないではないか。
正直、辺境の地で引きこもっているサイラスが、この上なく羨ましく見える。
国境を守るために領地から出なくていい上、愛する人を妻にした。
彼はソフィアと毎日一緒に過ごせるのだ。
心から妬ましい。
私もセレスティナと領地に……
いや、城に引き篭もる生活を送りたい。
まあ……現実逃避はこれくらいにしよう。
私はセレスティナに手紙を書いた。
しばらく領地を離れ王都に赴くこと。だから手紙は王都の屋敷に送ってほしい、と切実な気持ちを文字に込める。
セレスティナは私が領地を離れることに興味はないだろう。
それでもいい。
他人のロマンスでもなんでも構わないから、一通くらい彼女からの手紙が届くことを祈って手紙を出す。
すると、思いがけないことにセレスティナの返信は過去最速で私の元に届いた。
『王都へ赴くのは、コートニー侯爵令嬢の一件でしょうか。でしたら、わたくしも婚約者として同行することは可能ですか?』
その文字を見た瞬間、頭の回路が不具合を起こす。
何故知っている。
そして、何故同行したがる。
わからない。本当に彼女がわからない。
その情報網も、彼女の行動理由も。
しかし、もう気にするだけ無駄だ。
彼女は私の描く予想の遥か上空を、流星の如く飛んでいる。
私はその輝きを求めてひたすら流星に手を伸ばすのが最善な気がしてきた。
♦︎ ♦︎ ♦︎
そして私とセレスティナは王都へと足を運んだ。
彼女は今回、婚約者であり私の助手である。
夜会の担当者にセレスティナを紹介し、事件の起こった大広間へと案内させる。
王宮の広く美しい大広間。優美な彫刻が施された大きな柱が何本もあり、死角は確かに多い。
夜会の担当者は当日の話を語った。
「それが、全くわからないのです。コートニー侯爵令嬢を会場の端の方で見たという話もあるのですが、今回は夜会としても大きなトラブルがありましたから……皆、夜会どころではなくて」
第一王子の第二夫人を選ぶために開かれた夜会。
その夜会は大混乱だったそうだ。
なんと自分の第二夫人を選ぶ夜会に、第一王子が参加しなかったという、とんでもない事が起こったのだから。
本当に頭が痛くなる。
夜会開始と同時に第二夫人選びの中止を発表するなど頭がおかしいのではないだろうか。
大混乱の夜会会場。貴族達は不平不満を抱えながら自分の屋敷へと戻る。
その時になってコートニーが消えていることが発覚した。
コートニーの実家である侯爵家について、私は担当者から詳しい資料を受け取り、情報を頭の中で整理する。
貿易によって財をなしている侯爵家。
当然敵も多い。
小さなものから大きなものまで、恨みや妬みを買っているのが見てとれた。
これを一件一件調査するのか……と私はため息を漏らす。
「こちらにはお名前が上がっていないようですね」
私の手元の資料を覗き見るように顔を寄せたセレスティナはポツリとそう呟いた。
「どういう意味だ?セレスティナ」
「コートニー様を誘拐した疑わしい人物の名前が全員載っていませんわ」
全員……だと?
担当者も意味がわからないというように目を見開いている。
セレスティナの指摘は、当然のことながら政敵の容疑者を指していない。
彼女はこの事件にロマンスが絡んだ容疑者がいると考えている。
しかしここで彼女の推理を担当者に聞かせるのは良くない。
もしセレスティナが挙げるロマンス方面での容疑者が犯人でなかった場合、セレスティナは王宮内での評価を著しく下げる可能性があった。
「すまない。どこか部屋を借りれるか?彼女と二人で話したい」
担当者は「でしたらわたくしも……」と言いかけたが、視線で黙殺した。
息を詰め、コクコクの首を縦に振る担当者。
君は何も悪くない。
分かってる。本当にすまない。
彼から王宮内の小部屋を借りた私は、公爵家から連れてきた者だけを中に入れセレスティナと向かい合わせに座る。
彼女の中ではロマンス方面に複数人容疑者がいるようで、珍しく考え込むように難しい顔をしていた。
王宮での誘拐事件突入です。
いきなり仲間外れにされた担当者。
可哀想だと思っていただければ幸いです!




