恋はトライアングルになった時点で大抵めんどくさい
王宮の広大な庭園にて、狩猟大会の開会式が幕を開けた。
色彩豊かな騎士服や、動きやすいように仕立て直された乗馬服が、朝の涼やかな光を受けて眩しく輝いている。
私の隣には美しいドレスに身を包んだセレスティナ。
そして私の胸のポケットには、セレスティナから得た刺繍入りのハンカチが愛の勝利の証とばかりに差し込んである。
本来であれば、胸の踊るような時間を過ごしているはずだったが、今はそれどころではない。
ここに集まる貴族の顔や名前、力関係を全て頭の中から引き摺り出して、第三王子に対抗する勢力を急遽作らなくてはいけないのだ。
使える時間は、開会式の後に行われる短い親睦会の間のみ。
本当であればセレスティナを連れ、一人でも多くの貴族と挨拶を交わし、セレスティナはアークレイ公爵と親密な仲であるということを貴族中に知らしめる時間だった。
セレスティナを囲い込むはずの時間が、何故第三王子を追い込む時間になっているのか。
本当に不思議でならない。
しかし彼女に宣言してしまった以上、全力を尽くすしかない。
まず今回の目的は、既に勝ち誇った笑みを浮かべている第三王子の優勝阻止だ。
プラチナブロンドという目立つ髪色にアメジストのような紫の瞳を持つその男。
名はブラッドフォードという。
ブラッドフォード王子の優勝を、何故セレスティナは阻止したいのか。
それをこの時間で見つける。
鍵はロレッタ侯爵令嬢。
ブラッドフォード王子は彼女に獲物と栄誉を捧げるつもりだとセレスティナは言っていた。
ということは、『ロレッタ侯爵令嬢の美しい恋』がブラッドフォード王子の優勝によって阻まれるということだろう。
こういう時は《《視線を見る》》ということを、私はルゴシュ伯爵家のお茶会で学んだ。
多くの貴族達が国王の開会宣言に耳を傾ける中、ロレッタ侯爵令嬢の瞳の動きをじっと見つめる。
――彼女の視線の先には、コンラッド第四王子がいた。
コンラッド王子に現在婚約者はいない。
彼は第二王子と並んでギリギリまで妹の婚約者候補だったのだが、人の上に立つには些か向いていない穏やかで内向的な性格だったため、私が婚約者候補から落とした人物だった。
しかし国王の後ろに並ぶ彼の胸のポケットには、確かに白いハンカチが顔を覗かせている。
それで全てを理解した。
今回の狩猟大会で、コンラッド王子は恋仲であるロレッタ侯爵令嬢に獲物と栄誉を捧げ、貴族中に婚約者であることを発表するつもりなのだ。
それをブラッドフォード王子は阻止したいのだろう。
同じ王子という立場ではあるが、狩猟大会の優勝者から捧げられた獲物と栄誉を断れる貴族がこの国にいるはずない。
ブラッドフォード王子の考えそうなことだ。
ロレッタ侯爵令嬢と恋仲にあるコンラッド王子の目の前で、彼女に獲物と栄誉を捧げ奪い取るつもりなのだろう。
これだから王族は好きになれない。
何人もの王位継承者を産み出しておいて、やっていることと言えば身内の中での足の引っ張り合い。
優秀な公爵令嬢を捨て、王子妃教育すら受けていない男爵令嬢と婚約するような第二王子といい、王族には碌な人間がいない。
この国は一体どうなってしまうのか。
まあ、それをなんとかするのが私の仕事であり立場なのだが、思わずため息が漏れた。
開会式は華々しく幕を閉じた。
貴族達に囲まれているコンラッド王子に接触を図る前に、手頃な手駒として接触を図るべき人物がいる。
伯爵子息という立場上、狩猟大会では常に実力を隠しているが彼はそこそこに役に立つ。
身を裂かれる思いでセレスティナと別れた私は、真っ直ぐに目的の人物の元へ向かった。
ネイト伯爵子息。
私の顔を見てそっと距離を取ろうとした彼に、笑みを浮かべながら声をかけた。
「ネイト様も出場されるとは奇遇ですね」
「ア……アークレイ公爵」
ネイト伯爵子息の胸ポケットには隣にいるクレア子爵令嬢から贈られたのだろう、繊細な刺繍がこれでもかと施された白いハンカチがある。
ということは、私のおかげで彼は愛する女性と無事結ばれたらしい。
嫌とは言わせない。
今こそ借りを返してもらおう。




