第五話 「えものっ! えものっ! 私のえものっ!」
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燭台の灯りが揺れる薄闇の中、重厚な銀の扉が静かに開いた。
控えの間に、冷たい風がひと筋、吹き込む。
「……入れ」
低く、鋭い声音が命じた。
その声の主は、教団最高司祭の一人──〈風の司祭〉ヴァルデン=グラハム。
風紋の刺繍を施した白銀の祭服に身を包み、冷徹な双眸が、扉の向こうを射抜いている。
入室したのは一人の青年。
粗末な旅装、泥にまみれたマント、剥き出しの手は細かく震えていた。
「……貴様が、“例の報告者”か」
青年はひざまずき、息を整えてから報告を始めた。
「……はい。第三地区を越えた森の外縁にて、“異常魔力の光”を確認しました。 ただの発光ではありません……飛翔していました。尋常ではない速度で、山岳地帯へ」
「光の発生源は? 姿は見えたか?」
「……影のような……人影でした。小柄で……子どものように、見えました……」
「詠唱は?」
「……ありませんでした。完全な無言。ですが、あの魔力濃度……あれは、あれだけは……人間の手とは……」
震える声を遮るように、ヴァルデンはゆっくりと口を開いた。
「“魔族の進行”と見て、間違いないということか」
青年はぐっと唇を噛んだあと、重々しくうなずいた。
「……はい。魔族の残滓……あるいは、あのものたちかもしれません」
「……理なき力の行使。神を知らぬ術式。教義に反する禁忌の顕現……」
ヴァルデンの指が、机上の羽ペンを静かに回す。
「“風”が知らせたというわけか」
その言葉に、奥の脇扉が音もなく開かれる。
黒衣の魔導師たちが五人、黙々と現れ、前へ進み出た。彼の私兵――精鋭中の精鋭たちだ。
ヴァルデンは命じる。
「目撃情報のあった地点、王都東方の森林帯へ向かえ。 “魔族の接近または侵入の兆し”と判断し、最優先で調査・排除にあたれ。必要であれば――殲滅を許可する」
「御意」
五人が揃って膝をつく。その背筋には迷いがなかった。
ただ、一人だけ。まだ年若い魔導師が、わずかに視線を上げて問うた。
「……司祭。仮に相手が“人間”であった場合は……?」
「ならば、その者が“人の道”を踏み外していない証拠を見せよ。 歯向かって術を振るうというなら──教団が黙って見過ごす理由はない」
風が、ぞっとするほど冷たく吹いた。
その声の裏にあるのは、“容赦”ではなく、“証明”という名の粛清である。
「……行け。お前たちが最初の“刃”となれ」
「はっ!」
五人の魔導師が一斉に立ち上がり、音もなく部屋を去っていく。
その扉が閉じられた時、静寂だけが残った。
夜の森は静まり返っていた。
遠くでフクロウが鳴き、風が木々の葉をさらさらと揺らす。
魔道師部隊の一行が、古い獣道をゆっくりと進んでいた。
数日前に報告された「魔族の痕跡調査」のため、この外れの遺跡跡へ派遣された。
「……変だな。魔力の残滓はあるが、魔族の使徒がここで祈った形跡もない」
「魔力の残滓が、規格外すぎる。やはり魔族か」
「気をつけろよ。こんな時が一番、死ぬからな……“想定外”に喰われる」
隊長格の男が呟く。
周囲を囲む森の気配が、ほんの少し、重くなったような気がした。
その200メートル後方。
一人の少女が、まるで“お散歩”でもしているように、スキップしながら森を抜けていた。
「えものっ! えものっ! 私のえものっ!」
「わ〜、夜の森って、思ったより空気が澄んでるのね。これ、湿度調整の影響かしら? それとも私が魔力を拡散させ過ぎたせいかな」
ソフィアはご機嫌だった。
腰には、厚手のノート。実験観測用の記録本。
背中には、手作りの試験装置が詰め込まれた革の鞄。
何より、胸の奥には――たまらない好奇心が、熱を帯びていた。
「やっと獲物がかかった。実測できるわよね。ちゃんとした比較対象。同条件・同出力での魔力消費比較……わくわくする……!」
すでに頭の中では、シミュレーションが何百回も繰り返されていた。
「信仰魔法との変換効率、現象制御能力の相関、
それから最も大事なのが、“自覚のない行使者”との比較……」
にやり、と笑う。
「……つまり、あの人たちがうってつけってことよ」
彼女の足取りが止まったとき――前方に、隊列を組んだ魔道師たちの気配があった。
(実験開始……!)
「教えて作者コーナー」
教団とは
人間族のセフィアーン聖王国で勢力を拡大してる。人間族の神への信仰を取りしきる組織の事。実態は権力が強くなりすぎて、王家以上の発言権をもってしまっている。
五属性それぞれの神に当てはまる司祭を頭にして運営している。
ソフィアのいる場所の回りの地図です。
しばらくは関係ないのですが
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