第四話 平均、なんて素晴らしい響き
是非一話から読んでみてください!
空は青く澄み、春の花の香りが風に乗って届く。
屋敷の中庭には、家人たちの控えめなざわめきが漂っていた。
今日は、“魔力測定”の日。
私――ソフィアは、ちょうど五歳の誕生日を迎えた。
この国、セフィアーン国では、貴族の子どもが五歳になると、領地の司祭によって魔力検査を受ける決まりがある。
神に祝福された魔力の量をはかるのだ。それが、将来の立場や進路に関わる重要な基準になるというのが表向き、今では、成人式の一人版みたいになってるらしい。四分の一成人式みたいなものだ。
そして今、私は両親に抱えられ、庭先の特設台の上にちょこんと座らされていた。
「ソフィア、お行儀よくね。ほら、お姫様のように」
母がやわらかく笑いながら、私の髪を整える。
赤金の髪が陽の光を受けて、ゆるく波打っている。
父は黙って頷き、視線を司祭の方へ向けていた。
その司祭――領地付きの〈黎明の神〉の神官であるフューリスという男は、銀の儀礼服をまとい、穏やかな笑みを湛えたまま、私の前に膝をつく。
「さて、ソフィア嬢。怖がらなくて大丈夫ですよ。これは祝福を視るためのものですからね」
(祝福ねぇ……私にはたぶん関係ないわ)
心の中で苦笑する。
私は“信仰”していない。
だから、当然神の恩恵なんて、あるはずがない。
でも――それが、いい。
この瞬間を、ずっと楽しみにしていた。
(魔力の流れ方、測定器の構造、そしてこの儀式自体の様式……観察できることが山ほどある)
フューリス司祭は、傍らにいた補佐の神官に頷くと、銀の杖を取り出した。
その先端には、虹色に光る六角形の水晶球が取り付けられている。
「さあ、はじめましょう」
私の前に杖が掲げられる。
空気がふわりと震え、周囲の魔力が、緩やかに反応し始めた。
水晶球に魔力が集まり、中心に光の渦が浮かぶ。
「測定、開始」
フューリスの声と同時に、杖が微かに振動する。
私の体に、わずかな吸引感。
魔力が、私の“中”を通り、杖へと流れていく。
(……へぇ、結構精密に測ってるのね。分布型か。なるほど、光の強さで魔力の量を表示してる?)
水晶球の中で、白い光が徐々に強くなってく、そして、光量が一定になった。
そして、その内側で光の強さが小さく波打つ。
測定結果が出た瞬間、フューリス司祭はわずかに眉を上げた。
「ふむ……これは……なるほど」
「ど、どうですか?」
母が息を飲んで問う。
フューリスは静かに頷き、落ち着いた声で答えた。
「魔力総量は、平均ですね。王都での去年の測定平均と寸分の狂いもなく一緒です。」
「……そうですか」
父の声に、微かな落胆がにじむ。
隣の母も、ほんの一瞬だけ表情を曇らせた。
でも私は――
にっこりと、笑った。
「んー!」
「……あ、笑ってる」
母が目を丸くしながらも微笑んだ。
でも私の内心は、はっきりしていた。
(“平均”。なんて、美しい響き)
(魔力は平均値。高くもなく、低くもない。つまり、この世界の平均として実験ができる。そうなれば実験結果はこの世界の基準!)
(完璧)
この世界の“祝福”とやらは、信仰に縛られ、神の意志に預けられた不自由な力だ。
その神にすら届かないとされる、平均の力――それが、今の私には必要だった。
「ソフィア嬢、痛くなかったですか?」
フューリスが目を細めて聞いてくる。
私は少しだけ、首を傾げた。
「んー。きらきら、きれーだった」
「ふふ、そうですか。素敵な反応ですね」
神官たちは微笑みながら片付けを始めた。
母は私を抱き上げ、そっと額に口づける。
「ソフィア、平均でも、いいのよ。大切なのは、心と知恵だからね」
(心と知恵、ね)
(うん、それなら私は、もう持ってる)
私は小さく頷くふりをしながら、目を閉じた。
魔力はあくまで「平均」。
(ふふっ 今夜の実験が楽しみだ。やっと獲物がかかったんだから。 )
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